新婚初夜 三々九度の杯を交わした厳かなる神前で、しろがね色の銀糸を施された白無垢に身を包んだ不二は、それはもう日本人形と見紛うばかりの美しさで親戚縁者を魅了させた。 披露宴での打って変わっての洋装姿の可憐さは列席者全員の期待を裏切らず、皆一様に感嘆のため息を漏らした。 二次会では青春時代を共に過ごしてきた仲間達に祝されて、歌って騒いで思い出話に華を咲かせた。近々手塚に付いてアメリカへ旅立つ不二に涙する友もあり、皆それぞれに別れを惜しみ二人きりになれたのは夜も更けようという頃だった。 今日のよき日に晴れて夫婦となった手塚と不二。 スイートルームの一室で手塚は風呂から上がってくる不二を待っている。 そう、言わずと知れた初夜である。 中学卒業後すぐ渡米した手塚、その後3年間は遠距離恋愛というもので、電話やメールはしていたものの実際不二に再会したのは結婚する直前である。プロポーズの言葉さえ通信手段での間接的なものだった。 そんな二人が中学時代にキスを交わして以来何の進展もある筈はなく。 先に風呂に入った手塚は、高鳴る鼓動を自身で感じ少々そわそわしている様だ。 そこはいくら手塚とはいえ普通の男である。初エッチともなればやはり緊張するものだ。 カチャッ――― 自分の真っ白なパジャマ姿に少々照れながら恥ずかしそうに現れた不二。 風呂上りもあって頬がほんのりとピンクに色づいている。 「お待たせ、手塚。」 か、可愛い・・・・。 思わず見とれる手塚に首を傾げ斜めに見上げる。 「手塚・・?」 「あ、いや・・・コホン!ゆっくり温もったか?」 「うん。おっきいお風呂だよねぇ、さすがスイートルーム。すごく気持ちよかった!」 「それはよかった。今日は疲れただろう、そろそろ休もうか。」 いよいよだ。気合を入れて不二の手を取ろうとした途端、 「そうでもないんだ。なんか、まだ興奮していて眠れそうにない。楽しかったなあ、二次会。ねぇ手塚、もう少しお喋りしてようよ。」 この後に及んでお喋りだと?蛇の生殺しではないか。 「何を言っている。今朝からのスケジュールを考えれば自覚はなくても身体は疲れているはずだ。」 「自覚がなきゃいいじゃん。明日は特に予定ないんだしさ。」 手塚の試合予定があって早々にアメリカに戻らねばならずとりあえずハネムーンはお預けなのである。 「お、俺は自覚があるぞ!」 「ヘ?そうなの。元気そうなのになあ。」 そりゃそうだろう。これからあんなことやこんなことする体力を存分に残してあるんだから。元気も元気、パワー全開フル活動だ。 「そ、そんなことはないぞ!結構疲れている。ああいう堅苦しいのはやはり慣れないものだからな。」 人一倍堅苦しい奴の必死の言い訳である。 「ふうん。じゃあ仕方ないね、寝ようか。」 よしっ!不二の言葉に小さくガッツポースをする手塚。 「ん?」 一瞬手塚を見遣った不二の肩にさっと手を乗せて熱い視線でごまかした。 「手塚・・・。」 恥ずかしそうに見上げる不二は譬えようもないほどに愛らしく、その額に手塚はそっと唇を寄せる。 「好きだ、不二。」 「うん。僕も手塚が大好き。」 自分の肩に置かれた手塚の手を優しく取って不二は言う。 「ねぇ、今日は僕と手塚の初めての夜だね。そのままだけど“初夜”って言うんだって。知ってた?」 「ま、まあ・・・。」 何と直球勝負に出てくることか。 手塚の指に自分のそれを絡ませて大胆なことを言う不二に思わずにやけそうになり、もう片方の手で慌てて口元を押さえる。 不二は自ら手塚の手を引いて部屋の真ん中に位置する重厚なベッドへ足を進めた。 「ベッドも大きいね。それにふかふかだよ。」 ぴょんと上に乗っかりぱふんと一跳ねする。 「手塚も乗りなよ。はい、どうぞ。」 脇で不二の無邪気な様を見ている手塚を手招きして掛け布団を捲ってやる。 この上なくスムーズに不二の隣に入り込んだ手塚は精神をただ一つのことに集中させ不二の名前を呼んだ。 「不二。」 「なあに?」 「・・あ、愛してる。」 「僕も・・愛してる。おやすみなさい。」 「・・・・・・・???ふ、不二?」 「何?寝むたいんじゃないの?」 「いや、・・・その・・初夜・・・は?」 「だから今が初夜でしょ?初めて一緒に寝るんだもの。」 本気で言ってるのかからかわれてるのか。 いや不二に限ってからかうなんてそんなことはないだろう。きっと前者に違いない。 ここは具体的に例を挙げて分かりやすく説明してやらねば・・・。と手塚は不二をベッドの上で一旦座らせる。 「いいか。お前も映画やテレビで観た事があるだろう。」 「・・・・?」 「その・・愛し合ってる男女がだな、ベッドでどういう姿かを思い出してみろ。」 「思い出せって言っても・・・何の映画とかないの?」 「・・・・?」 反対に考えさせられている手塚。 普段娯楽に映画やテレビを見ないことを知ってる不二は 「いいよ、いいよ。自分で考えるから。」と苦笑する。 「す、すまん・・・。」 分からないならそんな例出すなよなーと内心溜息をつきつつ不二は上を向いて脳裏にいろんな映画のワンシーンを思い浮かべてみた。 「そうか!分かったよ、手塚。服を脱ぐんだね。」 思いついたとばかりにぽんと手を叩いて不二は眼を輝かせた。 ホッ―――― 手塚はなんとか分かってくれた不二に安堵して胸を撫で下ろす。 「ねぇ、恥ずかしいからこっち見ないで。それと電気消して・・・。」 そういえば煌々と電気がついていた。リモコンのスイッチで薄暗い豆球に光を落とし、次第にいい雰囲気になってきた。 ぱさり パジャマが床に落とされた音がかすかに聞こえる。 不二の方を振り向くと既に布団の中にもぐり背を向けていた。 少しはみ出た背中と肩のラインが妙に艶っぽく、手塚は生唾を飲み込む。 今度こそいよいよだ。 「不二・・・」 その白い肩をなぞるように優しく触れる。 ゆっくりとこっちに振り返った不二の胸元が手塚の理性をぶっとばした。 「不二!!」 がばりと覆うように不二に伸し掛かっていった手塚だがその肩をぐいっっと押しやられる。 「ねぇ、早く手塚も脱いでよ。僕一人で恥ずかしいじゃない。」 「そ、そうか。そうだな。」 いそいそとパジャマを脱いで続きに入ろうとした矢先、 「これでゆっくり眠れるね。おやすみ手塚。」 チュッと手塚の唇にキスをして不二はそのまま布団に包まってしまった。 「え?ふ、不二?」 不二を指でチョンチョン突付く。 「・・・ん・・」 すでに半分夢の中のようである。 「おい!待て不二、不二!!」 今度は肩を揺すってみた。 「ん・・何?て・づか。早く寝ないと初夜が終わって初朝になっちゃう・・よ。くすっ・・・」 洒落のつもりか半分寝ながらも笑う不二。 手塚は全然笑えない。 「こ、こら、初夜ってそういう意味じゃない!!」 つい大きな声で叫んだ手塚に不二はぱっと眼を開けて今度はキッと手塚を睨みつけた。 「もうっ何なのさっきから!いい加減にして!!寝ないんだったらあっち行ってよ!!!」 そのままがばっと頭まで布団をかぶり背を向けた不二からはすでにスースー寝息が聞こえる。 自覚がない・・・とか言ってた割には妙に寝つきがいいじゃないか。 唖然とする手塚は改めて自分の姿を顧みる。 全裸で花嫁の横に取り残された新郎、なんともはや情けなく。 しかも聳り立つ欲望の証は未だ鎮まることはなく。 ハァ〜〜〜 この上なく深い溜息を吐いた手塚は観念して不二の隣で眠ることにした。 「これくらいは許してくれ。」 すでに眠りの世界に入り込んだ姫の手をそっと握る。 背を向けていた不二が寝返りを打ち手塚の方に向き直った。 穏やかな不二の寝顔に自然に手塚の表情も緩む。 「まあ、いい。焦ることもない。」 これからのふたりの長い人生、まだスタートしたばかり。 安らかなこの眠りは俺が一生守る。 決意新たに手塚はそっと瞳を閉じた。 しかしながら、これ以上の拷問はない―――。 END |