笑顔の果てに


カチャッ。
乱暴に置いたカップがソーサーとぶつかり合う音が響く。

一瞬、周囲の眼が自分の方を向いた事に気付き慌てて下を向いた。

「何だよ、もう。」
不二はむっと口を尖らせて不機嫌極まりない様子でカフェでお茶をしていた。

「絶対会ってなんかやるもんか!」

・・・・・・しーん。

いつもなら菊丸あたりが「まあまあ」と宥め役になりそうな場面だが――――

そう、今不二は1人っきりだった。
しかもここは右も左も分からない外国ときている。

中学卒業後、プロを目指してアメリカに渡った手塚に会いにやって来たのだ。
予定より一日早く渡米して手塚を驚かしてやろうとちょっとした悪戯心を働かせていた不二は手塚の反応を楽しみにしていた。


「何故、お前がいるんだ?来るのは明日のはずじゃ・・」
「うん。でも早く君に会いたくなって。」
「言ってくれれば迎えに行ったのに。」
「ありがとう。でも君の驚く顔見たくてさ。黙って来てごめんね。」

戸惑ったように、それでいてほんの少し嬉しそうに「いや、おれも早く会えて嬉しい。」と言う君。


もちろんこの展開は不二が想定していた事であって、現実は違った。


今朝、空港に降り立った不二は早速手塚の留学先のアカデミーへ向かった。
事務所で手塚を呼び出してもらったがちょうど昼休憩の時間で外出しているらしく、暫く大人しく待っていたが逸る気持ちを抑えきれずおそらく行っているだろうという近くのカフェを教えてもらって足を向けた。

こぢんまりとしたガラス張りの小さなカフェ。外でも食事ができるようにテーブルが並べられていた。

外からそっと中の様子を伺うとずっと会いたくて仕方がなかった人の姿が目に飛び込んできた。
手紙やメールといった間接的なものではなく、しっかり現実に自分の眼がその人を捉えている喜びに自然に表情が和らいで口元が綻む。

店の中に入ろうと一歩踏み出した時、手塚の斜め向かいに誰か座っている事に気付いた。


女性だった――――。


アカデミーの仲間かもしれない。
手塚だって一緒に食事をとる友達がいてもおかしくはない。何も気にせず声を掛ければいいものを不二は近くのテーブルに1人座った。
ちょうど手塚の斜め後ろに位置するため手塚は不二に気付かないが、不二からは手塚の後ろ姿と楽しそうに笑う女性の姿が見える。そして幸か不幸か二人の会話ははっきりと不二の耳入ってきた。


盗み聞きするつもりなんてなかったが自然に聞こえてくる会話からその女性がアカデミーの仲間ではない事が読み取れた。
時折聞こえる手塚の笑い声。それはとても静かなものだったが手塚が声を出して笑うこと自体、女性は手塚にとって気の許せる相手だという事が分かる。
表情をあまり変えない手塚だが不二にはいつも自然に笑顔を向けていた。つらい顔も見せた。不二はそれは自分だけの特権だと思っていた。いや、実際不二だけの特権だった。

時は確実に過ぎている。そのはざまに手塚が刻んでいくものがある。まして手塚のここでの暮らしに不二はいなかった。自分だけの特権が他の人にもっていかれても仕方がない事かもしれない。そして男の手塚が女の人に惹かれるのはごく自然な事。
彼らの英語での会話も意味は何となく分かったが、普段自分が使わない言葉を話す手塚を見て、それだけで自分の居場所がない気がした。

何をしにここまでやって来たのだろう。一体何に浮かれていたのか。
不二は今頃になって手塚に会うのが怖くなってきた。


注文したハンバーガーのプレートにも手をつけず不二は手塚の斜向かいに座る女性に視線を向けていた。

透き通るように色が白く青味がかった瞳で、風貌は如何にも外国人だが、東洋の血が混じっているのか何となく日本人と同じような柔らかさがある。整った顔立ちをしたその女性はきっと誰から見ても美人と言えるだろう。だがそういうことではなく時折手塚に向けられる自然な笑顔がドキッとするほど綺麗でとても魅力的な素敵な人だった。


「あんな人、とても叶わないや・・。」


不二ははぁ〜っと深い溜息を吐いて、そしてそのまま手塚と女性の方は見なかった。

どれくらい時間がたったのか、彼らが席を立つ音がした。俯いたまま目線だけが手塚の足元を追う。
手塚が自分の横を通り過ぎる時、女性が手塚に言った。

「じゃあ、今日6時に迎えに行くわ。お夕食一緒にしましょうね。」
「ああ、今日は俺が奢るから。」
「本当?嬉しいわ。」

多分そのような事を言ったと思う。

結局手塚に声を掛ける事もできず座ったままの自分が情けなかった。



手塚と彼女が出て行ってからプレートを下げてもらった。
殆ど手をつける事ができなかったことを店の人に謝ると「気にするな。」と笑って言ってくれた。

恰幅の良いその人は店の主人のようで、まだぼんやり座っていた不二に「ごゆっくり」とコーヒーを入れてくれた。
少し苦味が利いた濃い目のコーヒーは日本のものとは違い飲みやすいものではなかったが、ほんのちょっぴり落ち着いた。



ガラス張りの店内から外を見ると、仲良く歩くカップルが何組も通り過ぎる。


「日本もアメリカも一緒だなあ。」

手塚が渡米してからは学校や、登下校中に見かける恋人達を羨ましく思った。
手塚に会いにアメリカにまで来て同じようなことを思うなんて、何だかおかしくなった。
同時にちょっぴりむかついてきた。

「何だよ、もう。」

手塚は今回僕が日本から来る事をどう思ったんだろう。メールでは「待っている」なんて言ってたけど・・。本当は迷惑だったのかな。それとも別れを切り出すチャンスとでも思ったかな・・。

様々な想いが不二の頭を交錯する。
出発までは、いや、彼女を見るまでは期待で一杯だった気持ちが今は不安に一転した。

「あ〜、もうっ!!」
どうせ、僕の気持ちなんて我関せずと今頃ラケット振ってるんだろうさ!

「手塚になんて会ってなんかやるもんか。」
ムカつく、ムカつく・・・手塚にムカつく!自分にも・・・・・ムカつく。
やり場のない気持ちをどうする事もできず不二はすっかり焦燥していた。


「おかわりどうだい?」
その声にハッとして顔を上げると不二の目の前にさっきのマスターがいる。

「あ、ありがとうございます。でも、もう・・・。」
「そうかい?落ち着くと思ったんだがね。」

マスターは不二の肩をぽんぽんと叩いて、
「ボーイ、気楽にいきなよ。人生なんていい事悪い事の繰り返しさ。だからあんまりくよくよしなさんな。」

自分の何を知るはずもない赤の他人の外国人に不二がぽつりと口にした台詞。

「じゃあ、僕はどうしたらいいのかな。」


マスターはにっこり微笑んで言う。
「笑顔さ。幸福は怒っていてはつかめもんなんだ。天使の笑みを神は見捨てはしない。」

キリスト的な考えだろうか。如何にも外国人らしい意見だったが心は何か温かい気持ちに包まれて。

ほんの少し救われた。








手塚はカフェで一緒だった女性と食事に行く約束をしていた。きっと今から訪ねても困らせるだけだろう。
一日早く手塚に会いに行くという小さな幸せ計画は諦めて不二はホテルにチェックインした。

「明日はどうしよう・・・。」

手塚は明日不二が来る事を知っている。きっと予定も空けてくれているだろう。けれど本当に会いに行っていいのだろうか・・。昼間、カフェでムカついてた時のように意地で思ってるわけではない。自分が会いに行く事は手塚にとって良いことなのか不二は分からなかった。

「いけない。気楽にって言われたじゃないか。」

そうだ、気楽に会いに行こう。それで手塚に僕が必要がないって分かれば身を引けばいいことだ。怒ったり泣いたりせず笑って。笑えば手塚も少しは苦しまなくて済むだろう。手塚の苦しむ顔を見るのは僕も辛いから、最後まで笑顔で君と過ごそう。

半ば結果を決め付けてそう決心した不二は、昼間から殆ど何も食べていない事を思い出して繁華街へ出かけることにした。






どこに入ろうか・・。
ここまで出てきたものの異国の夜はやはり躊躇する。日本と違って何処が何の店かもよく分からない。

きょろきょろ辺りを見回しているといきなり後ろから肩を掴まれた。

びくっ
一瞬肩を震わせ硬直する。

しまった!
こんなところで日本人が迷ったようにうろうろとしていれば格好の的である。手塚に会うまで気をつけろと散々日本で注意されていた事を思い出した。

どうしよう・・・
心臓が飛び出るのではないかというほどドクドク揺れている。後ろを振り返る事ができない。自分はどうなるのだろう。もしかしてこのまま死ぬのだろうか。手塚に会わないまま・・嫌だ。

怖い・・助けて―――――「て・・づか・」



思わず漏れた声に男が反応する。

「やっぱり不二。何故、お前がいるんだ。」

聞き覚えのある懐かしい声にゆっくり振り返る。
心底驚いたという顔をした手塚とあの時の彼女が並んで立っていた。


「あ・・てづ・・よかっ・・・・。」
不二は安心して足の力が抜けそのまま地面に吸い込まれるように崩れていく。

「おい、不二!」
座り込む寸前で手塚が不二の両腕を掴み支えた。

「どうしたんだ、大丈夫か?」
「あはは・・だ・いじょ・・ぶ・・。」

一生懸命笑おうとする不二の顔はまだ恐怖が抜けきれず、声も上擦っていて。


「クニミツが急に肩を掴んだから驚いたのね。大丈夫よ。」
彼女は微笑みながら綺麗なハンカチを不二の額にそっとあてる。

「怖かったのね。冷や汗を掻いてるわ。」
汗を拭いながら言葉を掛けてくれる彼女は見た目から想像した通り本当に素敵な女性で、その優しさに包まれて不二は少しずつ落ち着きを取り戻した。

「ありがとうございます。もう大丈夫です。手塚も、ごめん。」
不二は彼女にお礼を言って、手塚に向き直った。

「いや、それより何故こんな所にいる?明日来るんじゃなかったのか。他人の空似かと思ったがあまりによく似てるので思わず手が出たんだ。驚かせてすまなかった。」
「ううん。僕こそ、こんな時間に1人でふらふらしてたから、皆に注意されてたのに。」

まだ少し蒼白な面持ちをしている不二に彼女が話しかける。

「ねぇ、こんな所でなんだから私達これから食事に行く所だったんだけどご一緒しない?」
「え、でもお邪魔じゃ・・・ないですか?」
「あら、どうして?」

不思議そうに少し首をかしげて
「食事は沢山で取る方が美味しいわよ。」と彼女はあの綺麗な笑顔を見せた。






手塚とその恋人、そして元恋人が同じテーブルで仲良く食事を囲んでいる。
結局一緒に来てしまったがこの状況が不二には信じられなかった。
もちろん彼女は自分を元恋人なんて思いもしないだろう。恋人の親友が日本から遊びに来た。そう思えば彼女にとってこの組み合わせは不自然でもなんでもない。手塚の為にも友人として振舞わなければならない。不二は無意識に力が入っていた。


「ところで、お前はいつこっちに来たんだ?」
そう言えば、一日早く来た理由をまだ言ってなかった。
でも「早く君に会いたかったから」なんて今さら言えない。手塚も困るだろうし、言葉は分からなくても彼女に雰囲気で伝わってもいけない。

「う・・ん。その学校がね、一日休みになって・・」
「急にか?」
「あ、じゃなくて半日ね、半日。先生の会議とか何とかで・・・。」
「それでも部活はあるだろう?」
「え、あ・・・その」
「それに早く来るならどうして連絡しなかった?」
「それは、しようとおもったけど飛行機が急に出発しそうだったから・・」
「いつから日本の飛行機は電車のように出発するようになったんだ。」

あまりに不自然な言い訳で必死に取り繕っている不二を怪訝そうに見る手塚。
どうやら日本語が少しわかるらしい。二人のやり取りを聞いて彼女がぷっと吹き出した。
そして彼女の口から漏れた言葉は不二にとって至極驚きのものだった。


「あなたって案外鈍いのね。気付いてあげなさいよ。彼はあなたに早く会いたかったのよ。」
「ね、そうでしょう?」不二を見てまた微笑んだ。


「えっと、僕は、あの・・」彼女の意外な台詞にしどろもどろになる不二。
「そうなのか?」と今度は手塚が投げかける。

「そうに決まってるでしょう?あなたに連絡しなかったのは単に驚かせたかったのよ。」
まるで自分の心が透けて見えてるかのように手塚に説明する彼女。
その事ももちろんだが、ただの友人が手塚を驚かせたくて黙って一日早く来た。そんな不自然な事実を意図も当然かのように手塚の恋人であるこの人が語ることに不二は驚愕した。

そして最後の一言に再び愕然とする。



「可愛い恋人ね、クニミツ?」






××××××××××××






「じゃあ、それで傍にいるのにクニミツに声を掛けれなかったのね。ごめんなさい、私のせいね。」
済まなそうに謝る彼女。

「あなたが謝ることじゃありません。全く何を考えているやら・・」
手塚は眉間に深い皺を刻んで溜息を吐く。

「ごめんなさい。ホントに僕・・。早とちりで・・」
「全くだ。」
「もう、いいじゃない。私としては反って光栄だわ。クニミツの彼女に見えたなんて。まだまだ捨てたものじゃないわね。」

彼女はふんと上を向いて得意気に言った。

「帰ったらダーリンに自慢しなくっちゃ。」
「え、ダーリン・・?」
「彼女は結婚している。ほらそのカフェのマスターがご主人だ。」
「え、えぇ〜〜〜!!!」
「だってあの人とってもとってもいい人だったけど・・・」
「だったけど、なんだ?」と手塚に聞き返されて思わず口を噤む。

ぷぷっと吹き出しながら
「いいのよいいのよ。自分で言うのもなんだけど美女と野獣でしょう?でもね、私にはあの人しかいないのよ。たとえクニミツに誘惑されても。」
ね。と不二に向かって軽くウィンクをした彼女。
不二の表情が緩み柔らかい笑みへと変わる。

「こほん!!」
「誘惑」に反応して手塚が咳払いをする。
不二と彼女は再び目を合わせ声を出して笑った。






×××××××××××






「素敵な人だったなあ。」
ホテルに戻った不二が彼女を思い出し感嘆する。

「さっきまでは恋敵と思ってたんじゃないのか?」
手塚がにっと口元を吊り上げて不二の顔をのぞいてくる。

「ち、違うよ。確かに君に新しい恋人ができたって勘違いはしたけど、僕は潔く身を引こうと・・。」
「身を引く?」手塚の眉間に皺が一本刻まれた。
「だって、あんまり綺麗な人だったし、笑顔が素敵で・・・とても叶わないと思ったから。」


「俺は随分信用がないんだな。」
手塚は飽きれたと言わんばかりに深い溜息をつく。

「だ、だって、手塚だってあんなに楽しそうで。結婚してる人だなんて分からないもの。それにそもそもどういうきっかけで知り合ったわけ!一緒に食事に行くほど親しいんでしょ?それこそ人妻なのに!!手塚こそホントは下心ありありなんじゃないの?」

誤解だったと分かったがこれまでの鬱憤か、ジェラシー丸出しで洗い浚い本音をぶちまけた。

「な・・・。」一瞬驚いた後右手で面を覆い僅かに首を振った。

「参ったな。」そのまま黙ってしまった手塚。

自分が言い過ぎた事を自覚した不二は素直に謝罪の言葉を口にした。

「ごめん。今のは・・僕が悪かった。」
「全く、お前は・・」そう言いつつも瞳は優しく不二を見つめる。

「確かに、彼女に惹かれて声を掛けたのは俺の方からだ。」
「え?」
「だが、下心とかそういうのとは違うぞ。その・・・つまり・・」

手塚にしては珍しく言葉に詰まった。

「・・・お前に・・似てたんだ。初めてあのカフェで彼女を見た時、お前を見た気がした・・。」

不二は彼女の頭のてっぺんから爪先まで思い出してみたが似ている要素などあるだろか。

「ぼ・・く?」
「ああ」

もう一度彼女の風貌を思い浮かべて見るがやっぱりよく分からない。

「似てるって?」
「ああ」
「・・・・・・・・・・どこが?」
「全部・・。」
「・・・・・・・は?」
「全部だっ!」

「え〜?似てないよ。だって僕は日本人だし彼女はどう見ても外国の人・・」
「外見じゃない。その・・雰囲気というか、ふんわりとした柔らかい仕草というか、あ、いや、その・・と、とにかく!似てるんだからそれでいいだろう!!」

なにやらもじもじ呟いたと思ったら、いきなりやけくその様に言い放つ。
不二はこんな手塚の姿に唖然として言葉が出なかった。

手塚は今まで見た事もない赤い顔して、何故か眉間にこれ以上ないくらい深い皺を幾つも刻んでむっと口を噤んで怒っているようだ。

「何で?・・そこ、怒るとこなの?」

不二はこの展開に少々ついていけてない。ぽかんと口を開いて手塚を見つめている。

「お前が分からないからだ。」
「だって、雰囲気って言ったって、あんな風に優しくて笑顔が素敵で、そんな人と僕が似・・・・・・・」

言いかけて、何かに気付いたように止まった。

「もしかして、僕って君にはあんな風に・・映ってる・・・?」

手塚は暫く視線を外したまま黙っていたが
「彼女の笑顔が、いつも自然に零れる笑みがお前と同じだった。」照れくさそうに言った。


不二は彼女の笑顔をもう一度思い出していた。飾り気がなく心から微笑んでいるであろうそれは本当に綺麗だと思った。


「僕は、あんなに綺麗なの?」
「・・・・ああ。」
「僕はあんなに自然に笑えてるの?」
「そういえば作り笑いも得意だったな。」

図星を付かれて一瞬言葉に詰まる。

「もうっ!」
ささやかに抗った文句に少しの迫力もなく。

潤んだ瞳に部屋のライトが反射してきらきら光りながら揺れる。涙が今にも零れ落ちそうになったが、それでも不二はにっこり微笑んだ。
自然に漏れたその笑みはとても綺麗だった。


「これだ。」

手塚は不二の身体を引き寄せきつく深く抱きしめた。

「痛い・・よ・・。」

不二の声は聞き取れたはずだが背中に回された腕に一層の力が入る。
不二も観念して手塚の後ろに手を回し広い胸に身体を預けた。









「ねぇ、戻らなくていいの・・・?」
時間は刻々と過ぎていくが手塚は一向に帰る気配を見せない。

「門限とかあるよね。」
「そんなものとっくに過ぎている。」
「まあ・・・そうだろうけど、このままだと無断外泊になっちゃうよ?」
「この状況で帰れるか。」
「それは、意思の問題だと思うんだけど・・・。」
「俺は自分の意思でここにいる。」

不二は短い溜息を漏らす。
「どうでもいいけど僕、時差があって眠いんだけど。」
「それくらい我慢しろ。」
「わっ、えっ、あっ、ちょっとま・・・」


起こしていた身体を再び押し倒されて二人の夜は更けていく――――





××××××××××




「いらっしゃい!!」
「こんにちは!昨日はどうも。」

昼下がり、手塚と2人で昨日のカフェへやって来た。

「ボーイ、今日はいい事あっただろう?凄くいい顔だ。」
「はい!」


「クニミツ、シュウスケいらっしゃい!!」
カウンターから元気な声が聞こえてきた。

振り向くと満面の笑みで彼女が包丁をぶんぶん振っている。

「危ない、危ない!!」
マスターが慌てて止めにいく。
ペロッと下を出す様がなんとも可愛らしくやっぱり魅力的な女性だと思う。

「くすくす・・素敵な人だなあ、やっぱり。」
「いい顔だろう?俺はあの笑顔に負けたんだ。最高の妻だよ。」

さすが、アメリカ人。照れもせず堂々と言うマスターも実に素敵だ。美女と野獣でもお似合いの夫婦だと思った。

「ボーイ、君も笑った顔が最高だ。そうだろう?クニミツ。」
「ええ、俺もこいつの笑顔に負けたんです。」

ヒュ〜っと口笛が聞こえてきた。

手塚の口からそんな事を聞くなんて。
照れくさくて。恥ずかしくて。でも嬉しくて。

「らしくないよ、手塚。でも僕は、僕もね、君がそんな風に時々僕の前でらしくなくなるところに負け・・た・・。」

そのまま真っ赤になって、俯いてしまったけど、君が嬉しそうに笑ったことは何となく分かった。


本当だね。
笑顔は人を幸せにする。








何度も夢を見た
ずっとずっと会いたかった

そして今――――
目の前にいる僕達は共に過ごした頃のまま
変わらぬ想いがここにある


笑顔の果てに
きっと明日も心は傍に








end