不二の作戦
世の中の主婦って凄いと思う。
毎日、毎日こんな事を繰り返してるなんて・・・。
手塚と暮らしだして2週間と4日、最初のうちは色んな事が新鮮に思えて掃除に洗濯、買い物、炊事と完璧にやり遂げて彼の帰りを待ちに待った。
「ただいま。」と言った後、僕が整えた部屋の中やテーブルに並ぶ手料理を見て照れくさそうにする彼に
「おかえりなさい。お疲れ様!」と言いながらにっこり微笑む。
そんな風に手塚を迎え入れる瞬間が僕はたまらなく幸せ・・・・・・・・・・・・だったけど。
だってだって嫌にもなりますよ。
朝、起きて甘い気分浸る間もなく、朝食の用意が待っている。
トーストちん!ならまだしも、彼は和食等・・焼き魚に味噌汁、玉子焼きに炊きたてのご飯。
何とかクリアして「いってらっしゃい。」をした後は掃除と洗濯が待っている。
洗濯物を丁寧に見分け、洗濯機に放り込む。
入れるだけじゃん!!なんて甘い甘い。
スポーツ選手ってだけで洗い物の数は半端じゃない。テニスウェアだけならまだしも手塚ってば結構、普段からいいもの着てるんだよね。
「げっ!手洗い使用じゃん、これ。」なんてのがあったりすると途端に気分はブルーモード・・
ベランダにてんこ盛り干した後、掃除機と奮闘する。
几帳面な彼の性格からして四角いところをまあ〜るく・・・なんてとんでもない!
障害物は一つ一つ丁寧に除けて、綺麗にした後寸分狂わず元に戻す。
その後、床をつやつやに雑巾掛け。これが結構腰にくる。
ただでさえ、毎夜毎夜手塚を相手にしてるんだ。これ以上腰を酷使したくないってば。
やっとの思いで終了したら時間はすっかりもうお昼。
ったく昨日の夕飯全部食べなくてもいいのに・・・分かっていても何も残ってない冷蔵庫を見てがっくりする。
自分のために料理する気になんて到底なれずカップめんにお湯を注ぐ。
食後、ソファに転がってお昼のTVを見ながら小一時間うとうと眠る。
この時間、なんて至福なんだろう。
なんてこの上ない幸せを感じているのも束の間、
「お買い物行かなくちゃ・・」ばたばたと近所のスーパーまで出掛けてく。
メニューを考えるのも一苦労。頭をフル回転で駆使してみるけどこれがなかなか閃かない。
「何食べたい?」
「何でもいい。」
それってほんと残酷な返答だよね。そんなところで気なんて遣ってくれなくていい。
いや、むしろ気を遣ってでも何が食べたいかはっきり言うべきだと思う。
「それが一番困るのよ・・」って言ってた母さんの気持ち、今になって身に沁みる。
母さんってホント尊敬する。主婦業は全て完璧にこなしていた。
家は結構広かったしきっとその分大変だっただろう。おまけに3人の子育てもしていたんだよね。
家族が多いと仕事は増える一方なのにおやつはいっつも手作りで、料理はあれもこれも凝っていた。
何時の間にか父さんは海外赴任でいなくなってたし。
何を張り合いに毎日家事をしていたんだろう・・・・僕たち3人の子供のため?
貴方達は私の宝なのよって口癖のように言ってた母さん。宝があれば家事なんてどってことないのかな・・
まあ、僕が手塚の子供を産むなんてこと一生涯掛けても有り得ないからこればっかりは考えるだけ無駄ってもんか・・・
そんな事をつらつら思いながら買い物を済ませ夕飯の下拵えに取り掛かる。
慣れない料理は時間がかかって仕様がない。手を抜く事すら覚束無い状態なんだもの。
やっとのことで食事の準備が整ったらお風呂の用意。どっちが先でもいいようにしておかなくちゃ・・
あ〜終わった〜と思ったらインターホンが鳴り響く。
(ったく!一息つく間もなかったな)なんて思いながら最高の笑顔を浮かべ手塚を迎える。
「お帰りなさい、手塚!疲れたでしょvお風呂も沸いてるよ。どっちにする?」
「ただいま、不二」
君は優しい瞳で僕にキスをする。
そんな情景に自身で酔いつつも手塚が持ち帰った山のような洗濯物が頭の隅で塒を巻く。
キスの合間に漏れるのは甘い吐息と落胆の溜息・・・。
君がシャワーで汗を流してる間に食卓を完璧にする。
真っ白なテーブルクロスにウェッジウッドのランチョンマットをあしらって。
傍らに置かれた一輪の鮮やかな黄色は、買い物帰りに花屋で買ってきたガーベラの花。
コーディネイトに逆らって今日のメニューも純和食だけどそれはそれで味がある。
2人きりの食事の空間、楽しい会話、流れ出る甘い空気。
「うん、旨い」
君のそんな一言が僕は堪らなく幸せで、調理の苦労も何もかも掻き消して・・・・・・
・・・・・・いってはくれなかった。
実際その後の片付けを思うとどうにもこうにも鬱悒しい。
食事を終え、漸く後片付けも済んだ僕はお風呂に入ってほっとする。今日の家事からの解放だ。
そして今から僕は君と・・・・熱い時を過ごすんだ・・・
ベッドで横たわりながら本を読んでる君に湯上りの少し火照った身体を押し付ける。
君は僕を横目で一瞥して視線をまた本に戻す。
彼の背中に顔を押し当てそっと腕を回し、ほんの少し力を入れる。
相変わらず目線は本に向けられているが字を追うのを既にやめている。
(もう少し・・)そう感じたら顔の向きを変え、
「ねぇ、手塚・・・」この一言で彼は堕ちる。
両の手で表紙の表裏を挟み込みパタンと掠める微かな音。
脇に置いたそれの上に君は眼鏡を外しそっと乗せる。
手塚の首に腕を回し、一度あわせた視線をわざと外す。
そうすれば君は長い指で僕の顎をそっと自分へ導き唇を落としてくる。
最初は触れるだけの軽いキス。唇で唇を摘むように軽く力を入れては離す。
僕の唇は少しずつ優しく押し広げられ開いた隙間から湿り気を帯びた舌が進入してくる。
僕がおずおずと自分のそれを伸ばすとすばやく絡め摂られ、2人の唾液が入り混じった何とも言えない水音が部屋の中に響き渡る。
手塚の唇は徐々に首筋へと下がり、掌は僕のパジャマの中へ滑り込み、
「・・・んっ・・ぁ・・」
漏れてくるのは甘い声。
「て・・・づか・・ぁ・す・・き・・っあ」」
「ああ、不二俺も愛している。」
手塚が好きだ。誰よりも、何よりも。
この先何があろうともずっと彼の側にいる。
手塚の帰る場所はこの僕だ。彼の心の拠所でありたい。支えでありたい。愛でありたい・・・
嘘や偽りはない。本心からそう思う。手塚は失いたくない。このままでいたい。
ずっとずっとこのままで・・・・
だけど
愛と家事とは別問題。
(なんとかしなきゃ・・・)
でも家政婦を雇うのだけは論外なんだ。2人の愛の巣に他の誰かは入れられない。我侭と言われてもそれだけは絶対に駄目。
なら、どうすればいい?
他人を入らせないなら自分たちでやるしかない。
この家には僕と愛する手塚の2人だけ。僕とて・・づ・か・・・・てづか・・・
「・・・手塚・・・・か・・・」
あれから2週間相変わらず僕は家事に奮闘している。
今日から暫く久しぶりの手塚の休日だ。
彼がいるだけで朝から気分が上昇気味。嬉しい、手塚とずっと一緒に過ごせるんだ・・・
が、やっぱり家事労働は付いて回る。
僕が朝食の準備をしている時いつもは出掛ける用意をしている手塚も今日はテーブルで僕を優しく見守っている。
そんな視線に気付きながらも僕は彼に背を向けたままサラダのキャベツを千切りする。
と、いきなり後ろから腰に手を回された。
「不二・・・・」
「うわっ!!何っ?手塚、危ないじゃない。」
包丁を片手に振り返り、思い切り睨み付ける。
「もう!!指切りそうになったでしょ!ただでさえ苦手なんだからっ!!!そっちでおとなしく待っててよね。」
包丁をぶんぶん振り回し、不機嫌口調で僕はそんな風に言う。
「す、すまない。悪かった。危ないから、落ち着いて続けてくれ。」
すごすごとテーブルに戻った手塚は新聞に目を通しながら僕の様子が気になるのか上げたり下げたり視線を彷徨わせていた。
食事を取りながら回していた洗濯機の電子音がいいタイミングで終わりを告げる。
「ごちそうさま・・・・っと洗濯できたみたい」
ばたばた洗面所へ向かう僕。もっと手塚と喋ってたいけど早く干さないといけないし。
手塚が動き回る僕をじっと目で追ってるのを感じてたけど、ごめんね。今、相手してる暇ないんだ。
丁寧に洗濯機から洗濯物を取り出して一旦籠に入れておく。手洗い用につけていた洋服も優しくふんわり押し洗いし、さあできたっと。
ベランダへ出て一つ一つ広げて丁寧に竿に通していく。
「不二、それが終わったらどこかへ行かないか?」
部屋の中から手塚が何か言った。
「えっ?何か言った?聞こえないよ?」
「何処かに行かないかと言ったんだ。折角天気もいいしな。」
「ああ、そうだね。でもまだする事いっぱい・・・。もうちょっと待ってて。」
僕は半ば適当に軽く返事をした。
漸く、全部干し終わってやれやれと竿を引っ掛けようとした瞬間、
「不二・・・・」
いきなり背後から抱きしめられた。
恥ずかしくて嬉しくてどきどきしたけれど、あんまりいきなりだったのでまるで曲がり角で待ち構えていた奴に突然「わっ!!!」をされた位にびっくりして持っていた竿ごと見事に落としてしまった。
「・・・・・え?」
手塚の腕の中で何が起こったかわからず、一瞬間があったけれど足元に絡まるのは今竿に通したばかりの洗濯物の数々・・
「ぎ、ぎ、ぎゃあ〜!洗濯物が〜〜〜!!!」
手塚を突き飛ばしてその場で座り込んでしまった。
今洗ったばっかりのそれらが薄汚れた黒い筋でいっぱいである。しかもそこには手洗いコースのものまでしっかり存在してるし。
「ああ、もう!ばか、ばか、ばかあ〜〜」
涙目になって手塚をグーでぽかぽか叩いた。
「す、すまない。」
「すまないじゃないでしょ!折角終わったと思ったのに、僕がどんなに苦労して・・・」
「悪かった。お前の背中があんまり・・その、可愛かったので、つい・・・」
「可愛っ・・何それ?洗濯干してるだけだよ。可愛いわけないじゃない!もう、これどうするのさ!!洗いなおすのに時間かかるんだからね。お出かけなんてもう出来ないからね。行きたいなら一人で行ってよね!!!」
「不二、その・・」
手塚が何か言いかけたのを僕はぴしゃりと遮る。
「とにかく、終わるまで触らないで!!話もしないで!!!」
手塚に悪気があったわけじゃない事もそこまで言う事じゃないってのも分かっていたけれど行き場のない苛々がつい台詞になって出てしまった。
僕は再び洗濯物を持って洗面所へ行く。
手塚のすまなそうな表情を見て自分のそんな態度が大人気ないように思えて少しばかり悔恨の情にかられた。
再び洗濯機を回しながら部屋の掃除に取り掛かる。
何時ものように棚の上の装飾品を一つ一つ除けながら丁寧に乾拭きをする。
「はぁ〜・・これ一々除けなくてもよかったらすぐ済むのにな。」
装飾品といっても2人ともあれこれ飾り立てるのは好きではないので、時計などの必要最低限なものと手塚の優勝杯の類があるだけで、彼の功績の証だからこうして飾っておこうといったのは他ならぬ僕なんだけど。
「数が多いんだよね・・・・。」
と溜息混じりに呟きながら少しずつ仕上げていく。
ラストの掃除機に取り掛かり隅々まで埃を吸い上げる。
あと少しと思ったら気分も軽くなり鼻歌が漏れてきた。
これが済んで洗濯を干したら後は手塚とのお楽しみ。外出すればそのまま外で食事を摂るだろうし今日はもう家事に振り回されないだろう。久しぶりにのんびり一日を遅れる。何よりも大好きな手塚とずっと一緒にいられるんだ。
何だか妙に嬉しくなって、さっき手塚に言った事もすっかり忘れていた。
「もう少しで終わるからね。手塚っ!」
・・・・・・・・・・・
返事はなかった。
「あれ?手塚?」
掃除機片手に見回してみるが家の中に手塚の姿は既になく。
外に出て周辺を探してみたけどやっぱりいない・・・・
(何処いっちゃったんだろう・・・?)
あと少しの掃除も手につかなくなってそのままソファに座り込んでしまう。
どれくらい時間がたったのだろう・・
手塚が戻ってきたのは正午を過ぎていた。
「ねぇ?何処行ってたの?」
「済んだら出掛けようって言ったの手塚だよね?」
「なんで一人でいなくなっちゃうわけ?」
「黙っていくなんてひどいじゃない!」
手塚が返す隙も与えず僕は言いたい事を次々に口にのせ、
「僕が心配してないかとか、全然考えなかったの?」
「どんな気持ちで待ってたか・・・・」
だんだん泣きっ面になってきた頃、漸く手塚が口を開いた。
「悪かった・・しかし俺はいない方がいいかのと思って・・」
手塚がいない方がいい?そんな言葉に抱えていた不安が一気に波のように押し寄せて来る。
そう、手塚が黙っていなくなるなんて未だかつてなかった。
急に姿が見えなくなって1人でどうしていいか分からず途方に暮れていた。
「何で?どういうことだよ。手塚がいなくなったら僕・・」
何とか瞳に留まっていた涙が堰を切ったように溢れ出す。
「お、おい不二違う。そういうことじゃなくて・・・・・」
「だって、僕が君がいなくなればいいって思ってるって・・・それで出て行ったんじゃないの?」
「だったらこんなに早く帰ってくるわけないだろう。」
「忘れ物取りに戻っただけとか・・・・?」
疑心の気持ちを瞳に浮かべ上目遣いに手塚の反応を伺った。
君は僅かに眉間に皺を寄せ小さく溜息を吐きながら
「そんな訳ないだろう?ただ俺がいたらお前が用事しにくいと思っただけだ。」
「僕は、・・そんな・・・でも一言くらい声掛けてくれたって・・」
「話しかけるなといったろう?」
・・・・・言った・確かにそう言った・・・そして忘れていた。
だって、あの時はついカッとなって・・・でも、だからと言って本当に黙って出て行くことはないと思う。
そう、講義しようと思って口を開きかけたとき
「それに、お前といるとつい、触りたくなる。暫く・・ご無沙汰・・してるからな・・・。」
「なっ・・」
「だから、俺のためにも一時的に席を外した。それだけだ。」
そう言って手塚は僕を自分の胸に押し込んだ。
「本当・・?」
手塚の言葉にほぼ安心しているに関わらず上目遣いで問うてみる。
「ああ。」
僕を抱きしめる力が増す。
そのなんとも言えない窮屈さが嬉しい。
「ホントに本当?」
「本当だ。」
手塚はもっと僕を圧迫する。2度目の「本当?」はわざと言った。
そう言えば手塚がギュッとしてくれること分かっていたから。
「ねぇ?ご無沙汰ってそんなにしてなかったっけ?」
「・・・・・・・・・・」
「ねぇってば!」
「かれこれ2週間になる。」
僕の髪に顔をうずめながら君は言う。
「疲れたからと言っていつも背を向けて先に寝てしまってただろう。」
「あ、そ、そうかな?起こしてくれれば・・」
「何度か揺すって起こそうとしたこともあったがお前はいつもぐったり眠っていた。」
「そうなの。気付かなかった。」
「強行突破で触った事もあったが微動だにしなかった。」
「・・・・・・・・」
僕は手塚の腕を振り解いて思いっきり睨み付けた。
「君、真面目な顔して寝ている僕にそんなことしてたの?」
「毎日、お前を目の前にして手が出せない俺の身にもなってみろ。」
手塚の本音が出た。今だ!
「だって、凄く疲れるんだもん!一つ終わったらまた一つって次から次へとすることがあってやっと全部片付けても、次の日が来ればまた一から同じことをするんだよ!当たり前の事だけど毎日々々その繰り返しで、時間の全てを家事に費やしてるようで正直息が詰まりそうになるくらい・・でも僕がやらなきゃどうにもならないし。勝手だけどお手伝いさんとか他の人を君と僕の暮らしに入ってほしくないんだ。だから僕がやらなきゃって、がんばって・・・・。」
僕は今しかないと自分の思いをぶちまけた。
最後に言葉を詰まらせたのは立派な戦略。
涙を浮かべる事にも抜かりはない。
「そんなに辛かったのか?」
「・・・・・・」
涙を見せないように横を向く。まだ喋っちゃダメだ。
「それならそうともっと早く俺に言ってくれれば・・」
此処だといわんばかりに手塚の言葉を遮って
「だって・・・でもそんなこと手塚に言えないよ。ただでさえ、練習で疲れて帰ってきてるのに、まして試合のあった日なんかだと・・」
わざと尻切れトンボに言葉を切って少し間をおいてから
「言えるわけないじゃない。」
と俯いて小声で言った。
「・・・・それで今までずっと我慢してたのか?」
手塚が僕に向ける眼差しが変化していく。
済まなそうに僕を見つめる・・・もう少し。
「そんな、我慢だなんて、僕は家にいるんだし当然の事だから・・。それに君のためにすることなら凄く幸せなことなんだ。でもちょっと慣れなくて家事以外何も出来ないのに時間ばっかり過ぎちゃって苛々して・・・ごめん。」
自分でもいじらしい台詞だなあと感心する。
「家にいるからとかそんなこと気にしなくていい。お前は好きに過ごせばいいんだ。」
「そういう訳にはいかないよ。そんなことしたら生活していけないよ?」
「だが、お前が辛そうにしているのをそのままにはできない。」
という手塚の顔の方がよっぽど辛そうだ。
「大丈夫だよ。幸せだって言ってるでしょう。それに他に方法なんてある?」
チラッと目線を上げて斜め15度首を傾げる。手塚はこれにめっぽう弱い。
そして最後の決め台詞。
「ねぇ、手塚?」
「俺がやる!」即答だった。
×××××××××××
「おい、不二そろそろ起きろ。朝食が出来たぞ。」
「う・・ん。もう朝なの?」
「とっくに朝だ。早く食べて準備しろ。出かけるのが遅くなるぞ。」
「うん・・。」
もそもそと起き上がってパジャマのままリビングへ行く。
「わぁ、凄い!いつもながら豪華だね。」
綺麗にセッティングされた食卓にはシーフードたっぷりのサラダにコンソメ仕立てのジャガイモスープ。アツアツのロールパンにふんわりした小オムレツが添えられていて生のバナナジュースまで付いていた。
「僕、太っちゃいそう。」クスリと笑っていう僕に
「それだけは気をつけろ。」ボソッと君が言った。
あれから毎日、手塚が朝食を作ってくれる。
しかも僕に合わせて洋食メニューだ。
「手塚、僕は和食でもいいんだよ。作ってもらってるんだし、君が食べたいものを・・」
最後まで言う前に
「いや、洋食もなかなかいい。」短い言葉で纏められた。
フォークでサラダを突っつきながら僕は言った。
「相変わらず素早いね。もう洗濯物が干し終わってる。」
ベランダには竿に一つ一つ几帳面に並らんだ洗濯物が風に靡いていた。
部屋を見渡すと綺麗に掃除も終わっている。
僕が半日以上かけてやっていたことを手塚は僕が起きるまでに全て終えてしまう。
「ねぇ、手塚。疲れない?今日は休みだからいいけど練習の日まで・・」
今回の「ねぇ、手塚」は別に作戦ではない。手塚には申し訳ない気持ちで素直に出た言葉だ。
「別に疲れないぞ。もっと早くにこうすればよかったと思う。悪かったな不二。」
「そ、そんな・・・謝らないでよ。僕の方こそ君に何もかも押し付けて本当に悪いと思ってるんだ。」
手塚に家事をやらせることになったのは確かに僕が仕向けたことだった。だけどこうも献身的になられるとなんだかひどく罪悪感に苛まれる。
「そんな顔をするな。お前も言ってたように好きな相手に何かできるのは幸せだ。それにお前に触れられなかったあの2週間の方がよっぽど辛かったぞ。」
「真顔で言わないでって・・・。」
僕は手塚から視線を外し、朝食をパクついた。
きっと真っ赤な顔をしてただろう。
さすがに、夕食は僕が作っている。手塚ほど豪華に出来ないけど時間に余裕が出来た分、メニューを考えるのも楽しい。
それに激辛料理以外は何でも美味しいって食べてくれるから。
結果、僕の作戦勝ちってとこだけど、
感謝する気持ちは忘れずに
いたわる気持ちも忘れずに・・・。
これからも手塚を想っていきたい。ずっとずっと大好きだから。
雲ひとつないいい天気。
何の目的もなくぶらぶら公園を散歩した。
人目を憚ってそっと腕を組んでみる。
「ふふっ・・」思わず漏れた僕の声に
「どうした、何を笑ってるんだ?」とチラッと手塚がこっちを見た。
「別に。幸せだなあって思って・・・。」
僕がそう言うと君も少しだけ微笑んだ。
end