memorial days


「だから!何度言ったら分かるんだ!」

朝っぱらから響き渡る大きな声の主は手塚。
手塚のこんな怒鳴り声を聞けば、皆大抵首を竦めて小さくなるものだが。
また始まった、くらいにしか受け止めてないのだろう。
手塚の逆鱗に触れながらも別段気にする様子も見せない周は、素知らぬ顔で窓の外をぼーっと眺めている。

「おいっ、人が話をしているときくらいこっちを向け!」
「うるさいなあ・・・もう。後で聞くからちょっと黙っててよ」

今の周にとって手塚のその声は騒音でしかない。
まだ覚醒するには事足りぬ状態で、無理やり手塚に引っつかまれた。
ただでさえ朝が弱いのに、身体をぶんぶん揺すられたあげく、この大声だ。
今すぐにでも布団の中に潜り込んで二度寝といきたいところだが、それは許してもらえそうにない。
せめて静かにしてくれないかと言った台詞がますます手塚の怒りを沸騰させた。
わなわなと震える手をぐっと握り締め、手塚はぷっつり切れそうな感情をなんとか堪える。

冷静に、冷静にといきり立つ神経を抑えて、少し視点を違えて話そうと(というかこの際ジジイに振っちまおうと)したのだが・・・。

「爺さんが知ったら大目玉だぞ」
「あー、それはもう大丈夫じゃない?最近お爺ちゃまとは仲良しだもん」
「それとこれとは話が違う。あの人は女の慎みとかそういう事をだな・・・」
「おとといはお爺ちゃまとご一緒したけど?」
「お前に身につけてほしいと―――?」

周がさらりと言ったことに手塚は言葉を止めた。

「・・・何?」

周はふわぁ〜と一つ大きな欠伸をして、面倒くさそうに答えた。

「だからぁ・・その前の日はお爺ちゃまのところで寝たんだって」
「・・・・・」


周とすれ違い続けた十数年、それを思えば仲良く夜を共に過ごすなど喜ばしい限りだ。だ!
だが・・・、

あのジジイ!言ってることとやってることが違うじゃないか。

祖父のそんな変わりように今ひとつ納得できず、手塚はむかっ腹を抑えきれない。

「いつからそんなことをしてたんだ?」
「そんなことって、人聞き悪いなあ。隣にお布団並べて寝ただけだよ。だいたいお兄ちゃんが僕を拒むからでしょ」

拒んでも拒んでもやって来るじゃないか!
現に今朝の出来事は拒んだはずの誰かが、当たり前のように隣で寝ていたからだろう。

子供の頃からしょっちゅう手塚の布団に転がり込んでくる周。
それは高校生になっても相変わらずで、それでも妹の時はまだ良かった。
しかし今は―――、

周とは血が繋がっていない。
以前からも漠然とは気付いていたが、それが決定付けられた今、同じ布団で寝るわけには行かないのだ。

「当たり前だ。俺はお前を女として見ている。だからもっと自分を大事にしろと言っているんだ」
「どうせ何も出来ないくせに」
「うっ!」

核心を付かれてあからさまに言葉を詰まらせる手塚に、周は引き攣る頬を無理やりあげて笑うしかない。

兄妹でありながら、めでたく結ばれたこの二人。
恋人になるまで山あり、谷あり、涙ありの日々だった。
それを乗り越えてもう二度と離れはしないと誓いあったのはあくまでも精神上。
それ以降は唇をほんの三度ほど合わせておしまい。
しかも手塚から行動したのは初めの一回のみ。
後は周からのおねだり一発と、無理やり襲い掛かって奪ったもの一発。
手塚が恋愛事に羽目を外すタイプとは思わなかったが、こうも奥手とは・・・。
ファーストキスで周が主導権を握らなかったことが唯一の救いと言うか。

「確かにお爺ちゃまは女性としての慎みをしつこいくらいに教えてくれたよ。『国光がやってきたら全てを委ねればいい。抗うはおなごとして品位にかける』とかなんとかね」

手で髭を触るジェスチャーをしながら祖父になりきった後、一本指を立てて可愛らしく「ね」と首を傾げる周。
その姿はまさに手塚にとってはエンジェル。だが、

あのくそジジイ!夜に周を部屋に連れ込んでそんなことを植えつけていたのか!?

「でもぉ、実際お兄ちゃんなんかに委ねていたら、埒が明きませんって。だから行動あるのみ!」

右手でガッツポーズを作って意気込む周。

「そっ、そんなことに気合を入れるなっ!」
「ねぇ、もういいでしょ。折角の休日なんだから後ちょっと寝かしてよ」
「寝かしてってもう十分目は覚めただろ・・・ってこらぁ!!」

人の話を一体なんだと思っているのか、周は我関せずとまたもやするりと手塚のベッドに滑り込み、布団をきっちり被って二度寝の体制に入っている。

「ああ、襲うなら今度にしてね。いくらなんでも意識はある時の方が・・・」

最後の方はむにゃむにゃと夢の中へと消えていった。

何という早業・・・
一人こちら側の世界に取り残された手塚は唖然と口を開けるしかない。

一度起きといて、そんなにあっさりまた寝れるものなのか!?
毎朝5時半にはすっきり目覚める手塚は、目の前でスースー寝息を立てている周のこの特異体質には驚かざるを得ない。
しかも―――

「誰が襲うか、誰が!」

口ではそう言いつつも、無防備極まりない周の姿に同様を隠し切れないのも事実。
眠っていると長い睫がいやに目立つ。
動くたびに琥珀の髪がさらさらと揺れて。
雪のように白い肌。薄く色付くのは桜色の唇。
そのどれもが手塚には未知なる世界の入り口で。でも・・・、

「襲えるわけ・・ないだろ・・・」

すっかり夢の世界にいる周、ほんの少しずれた布団を掛けなおしてやる。
安心しきった周の顔にふっと息を漏らし、手塚は着替えを持ってそっと部屋を出た。




*******




「随分悩んでるみたいだったぞ、プレゼント」

部室で親友がくすくす笑いながら楽しそうに話す。

「あいつ・・・お前にそんなこと相談してたのか」

要らないと何度も言ったのに。

明日は10月7日、手塚の誕生日。
最近やたら欲しいものはないかと聞いてきた。
周が何をリサーチしてるのかは大方予想がついていたものの、特に欲しいものなどない。
だが、それを伝えたところで素直に納得するとも思えず、ちょうどテニス用のソックスを買い換えようと思っていたのでそう言うと、

『何それ!そんなの消耗品じゃん!』と、一人ぷんぷん怒り出した。

「ははっ、そりゃ随分素朴なプレゼントを注文したんだな」

周が手塚を喜ばそうと随分頭を悩ませてるのを知ってるだけに、「靴下」というかなり色気に欠けるリクエストには大石も苦笑せざるを得ない。

「あいつから何かをもらおうなんて思ってない」
「まあ、そうだろうけど、兄妹を越えての初めての誕生日だろう。何か記念になるようなもの用意したいんじゃないのか」

全くやっかいなことだ。
自分のことになると遠慮がすぎるくらい頑固だというのに。
手塚は中学時代の周の誕生日の出来事を思い出していた。
中学生のプレゼントにしては高価なテディベアア、結果的には今周の枕元に座っているが、これをプレゼントするに当たってちょっとした騒動があったものだ。
けれど考えてみればあの時の手塚が今の周で、立場が逆転したようなものである。
手塚も周の誕生日は何かしてやりたい気持ちでいっぱいだった。
そう思えば周の気持ちも分からないでもない。

「記念ね・・」

だが、色々考えてみても記念になりそうなものなど思いつかない。
テニス用品や趣味の釣り関係の道具に惹かれることはあるが、きっとそういうものは靴下と同じ。周にとって記念にはならないのだろう。
だからと言って取り立てて欲しいものが思いつかない。
周が側にいてくれるだけでそれ以上望むものなどないのだ。

「そんなに悩まないといけないことか?」

大石は腕を組んで深く考え込んでしまった手塚につい呆れ声を出した。

「そう言うが、一体どういうものが記念になるのか・・・特別欲しいものなどないし」

どうやら真面目に分からないらしい手塚の様子に大石は仕方ないとアドバイスを始める。

「色々あるじゃないか。例えばお揃いの携帯ストラップとか」
「ちゃらちゃらするのは好かん」
「腕時計は?いつも付けていられる」
「金銭的な負担はかけさせられない」
「うーん、じゃあDVDなんてどうだ?明日の夜に一緒に見るとか!」
「俺にあいつのイッツアドリームに付き合えと言うのか?」
「あ、いや・・・だから・・」

誕生日くらい主役の好みに合わせてくれるだろうよ・・・
ストラップの一つや二つ、そんなに邪魔になるものでもなし。
金銭的な問題は気になるところだろうが、それなりのものはあるはずだ。
どうしてこうも頑ななんだ。

大石は額に手をやって、ほとんど嘆きといったような大袈裟な溜息を吐き出した。
そして極めつけの一言は、

「それにしても大石、お前は女性経験が豊富じゃないわりに、色々思い浮かぶんだな」
「帰らせてもらう」

真面目に考えてやったらどうだ!
手塚の大層失礼な言い草に大石は荷物を持ってさっさと部室を出ようとした。

「お、おい待ってくれ。俺が悪かった。失言だった」

懇願するように引き止めてくる手塚、よっぽど困っていると見える。
一応「失言」だと分かっているのが気になるが、こんな親友を放っておくわけにもいくまい。

大石は一旦切り替えるため、深く深呼吸をして、

「俺から言うべきじゃないんだが・・・」と、静かに続けた。







その夜、いや帰宅の途から手塚の思考回路がストップしていた。
母や周が話しかけても生返事ばかり。
食事の時間も心ここにあらずで、箸で掴めるものをとりあえず口に入れているようだった。
あさりの殻はまだしも、箸置きはさぞ味気なかったことだろう。

「どうかしたのかな、お兄ちゃん」
「さあ、いつもの病気でしょ」

周は手塚の様子が気になるところだったが、母は息子が妙な行動を起こすときは、大抵ばかばかしいことで悩んでいることを心得ている。しかも大抵の大半は周が絡んでいる事なので、当の周に変化がなければ相手にする気はない。

さすが母親と言えるだろう。
そう、手塚の脳裏に広がっているものは、まさに周の事だった。
いや周というよりは、周が手塚のために考えているらしいプレゼントの事だ。


『俺から言うべきじゃないんだが・・・』

その後、大石は周から相談を受けていたという内容を語りだした。
実は周はもともと手塚にプレゼントしたいものが決まっているらしい。
けれどもそれは手塚が欲するものではない・・・・と思うから困っているのだそうだ。

『俺が喜ばないということか?』
『まあ、そうだろうな』

欲しいものなどないが、周が好意で用意したものにケチをつける理由などない。
そんな風に周が思うこと自体手塚は考えられなかった。

『何故だ』
『まだ自分は未熟だからと。どうせならもっと磨きを掛けてからとも思うが、未熟さがあってこそありのままの自分とも言えるって。だから迷っているんだそうだ』
『ありのままの自分・・・』
『ああ、要するに物というよりは自分自身をあげたいってことだな』

大石のその言葉を最後に手塚の思考は旅に出た。
いや、でも出発間際にこんなことを言われたような。

『他に欲しいものがないんなら、喜んで受け取ってやったらいいんじゃないか?』

う、受け取れと言われても・・・・




「お兄ちゃん、入るよ?」
「わあぁっ!何でだっ!?」

手塚は周の進入に異常なまでの反応を示す。
まるで見られたら困るものでもあるかのような慌てっぷり。
しかし、特別に何するでもなく机に座ってるだけの様なのだが。

「何それ」

訝しげに顔を顰め周は手塚をマジマジと見つめた。
そのまま手塚の側にいき、ぐんっと背伸びをして手塚の額に自分のそれを合わせる。
熱でもあるのか・・・と思ってとった行動だったが、その瞬間周は手塚の両腕に思いっきり吹っ飛ばされた。

「いたぁ〜いっ!!何すんのさっ」

ドカッと尻餅をついた状態で腰をさすりながら顰めっ面を手塚に向ける。
思わずやってしまった振る舞いだったとはいえ、華奢な体を突き飛ばした自覚は十分にある手塚は慌てて周の方へ駆け寄った。

「大丈夫かっ!?どこか怪我は―――」
「大丈夫だけどっ!!なんでこうなるの!?」

事態が全く把握できない周はぷっと唇を尖らせたまま不平を垂れる。

「すまない、お前があんまり近付くから・・・」
「はぁ?」

近付いたには違いないが、突き飛ばされるほどのことをした覚えはない。
それに一応なりとも自分達は恋人同士なのでは―――?

あまりにとんちんかんな理由に周はぽかんと口をあける。
手塚は周に手を伸ばし身体を起こそうとするが、その瞬間周の掌が手塚の胸倉をぐいっと掴んだ。

「ねぇ、何考えてたの?」

表情だけはあくまでもにっこりと。
それでも周の手塚への視線は阿修羅の眼差しと言っても良い。

「な、何も考えてなど!!」
「嘘だっ!お兄ちゃんがアホになる時は普通の人は悩まないようなどうでもいい事を普通では考えられないほど深く思い込んでる証拠だもん!」
「お前・・・対外な事言うな」
「普通に皆が抱えるような悩みはお兄ちゃんにとっては取るに足らなかったりするのにさ」
「なんだ、褒め言葉だったのか」
「褒めてないよっ!さあ吐け。一体何を考えてたのっ!?言うまで放さないからねっ」

周は手塚を掴む手にさらに力をこめ、もう一度脅すように顎をツンと上に向けた。



********



「ふーん」


結局周には敵わないのだ。
呆れた目付きで睨む周から、手塚は僅かに視線をずらした。

「言っておくが大石が俺に話したのは、俺を不憫に思ってというか、哀れんでというか・・・」

もごもご口ごもりながらも大石を庇う手塚に周はがっくり肩を落とした。

「先輩の事は別にいいけどさ。っとに情けないよね。貰う側が何を悩んでるんだか」
「いや、だが、しかし・・・お前が欲しいものなど聞くからだな」

どうしてこの人ってこうなんだろう。
周は呆れたを通り越して、ぷっと吹き出した。

「ほらね、普通の人は悩まないような事を深く考えすぎなんだよ。欲しいものがあるならその方がいいと思っただけで、ないならないで仕方ないんだから。この場合考えるのは僕だと思うんだけど」
「それは、そうかもしれないが。だが、お前・・・その・・・自分自身っていうのは・・あ、いや・・」

口に出すのも恥ずかしい。
そんな手塚の言いたい事はお見通しだ。


「僕をあげるって言われても困る?」
「・・・・・っ」

真っ赤になって言葉に詰まる手塚の反応を見て、周は「やっぱり・・」と嘆息した。

「誤解するなよ。お前の気持ちは嬉しい。嬉しいが、そういうことを安易に決めては―――」
「安易?僕のお兄ちゃんへの気持ちがそうだって言うの?」

周の表情が一変して翳りだした。
周の手塚への想いは昨日、今日始まったものではない。
物心付いた時から手塚だけを見てきたのだ。
兄妹という関係故に諦めた事もあったが、その壁を越えて向き合った今、生涯手塚はただ一人の人だと信じているというのに。

「そうじゃない。だが、俺たちはまだこれからだ。この先もし後悔するようなことがあれば傷付くのはお前の方だ」
「後悔って何?いつか他の人を選ぶかもしれないってこと?」
「飛躍しすぎだ。俺はそんな事を言ってるわけじゃない」
「じゃあ、何?最終的に結ばれるなら後悔なんてしないでしょう?」
「そういう事じゃなくて―――」

そうじゃない、そういう事ではないんだ。
どう言えばいい。周が大切だからこそ、今はまだ時が早いとどう言えば分かってもらえるのか。
手塚は必死で言葉を捜す。だが形がないのだ。周に対する気持ちは簡単に形に出来るようなものではない。

「それじゃ、僕たちいつまでたっても一つになれないね」
「だからそれは―――」
「もういいよ・・・」

周は小さく答えると手塚の部屋を後にした。

手塚は額に手を当てて首を振る。
何故こうなってしまうのだ。
自分だって周を想う気持ちは誰よりも強い。
他の誰かを選ぶことも、他の誰かに渡す事もあり得ない。
それくらい周は愛しい人。だが、やはり妹でもある。
いくら兄妹の壁を越えたからと言って、十数年兄妹として接してきた関係が壊れたわけではない。
祖父がいて両親がいて自分がいて周がいる。
これまで築いてきた家族の姿を自分達の感情だけで変えてしまうのはあまりに軽率で身勝手だ。
祖父も両親も認めた関係であったとしても、いつか二人が結ばれる日が来るのだとしても、
まだ子供と言えるこの段階でそれを超えるのは、家族の繋がりを裏切るような気がするのだ。

だが、そのことが周を傷付けるのなら―――男として、周の恋人としては失格なのだろう。






*******




「おはよう、お兄ちゃん」

穏やかな声とともに朝の眩しい光が一気に瞳に飛び込んできた。
右横には周の優しい微笑。

「もうそろそろ起きないと遅れるよ?」
「お前・・・」

昨夜はなかなか寝付けなかった。
どっちにしろ大石の話を聞いた時点で寝不足は免れなかっただろうが、周を傷つけた罪悪感と、淋しそうな顔が頭から離れなかったのだ。

「言っとくけど、今来たばかりだよ」

周はすでに着替えを済ませ、学校へ行く用意をしていた。

「ほら、さっさと準備して」
「あ、ああ」

周は手塚の腕を取った。
促されるままに身体を起こしてパジャマのボタンを外す。

「はい」

周は箪笥の上にある制服を取って手塚に手渡した。
気まずい雰囲気のまま朝を迎えてしまったが、周は特に何も言わず、怒っている様子も見せない。

「周、・・・」
「お誕生日おめでとう」

周の鮮やかな笑顔が目の前で揺れる。
お祝いのメッセージと共に手渡されたもの―――

「これは・・」

手塚がお気に入りのスポーツブランドの靴下。
透明のセロファンに綺麗にリボンをかけてラッピングされていた。

「穴があくまで履いてよ」

悪戯っぽく笑いながら周は言う。
その場の思いつきで靴下と言ったことは周も分かっていたはずなのに。

「何浮かない顔してるの?」
「昨夜はすまなかった。俺は・・・お前を傷つけてばかりいる」
「お兄ちゃん・・?」

昨夜のことはもう忘れる。
周が何も言わないのはそういう意思表示なのだろう。
だがそのままにしておくにはあまりに自分にだけ都合が良すぎると、敢えて手塚の方から切り出した。
手に持っている周からのプレゼント、握る手に力が入ってセロファンの音がパリリと響いた。

「お前の言う通り、俺は深く考えすぎなのかもしれないな。俺はお前が好きだ。お前も俺が好きで、二人の気持ちが同じならそれでいいことのようにも思えて・・・」
「僕を貰う気になったってこと?」

上目遣いに首を傾げて周が不安気に見上げてくる。
伺うような、待っているような、そんな瞳だ。

「お前が俺でいいと言うのなら、元々俺自身に異存などない」

手塚は強い眼差しを周に向ける。
それは嘘偽りのない気持ち。
そう、元々手塚に周を拒む理由などなかった。
自分だって男だ。周を求める欲望はある。
ただそれが、幼い頃から自分に向けてくれた周の純真な気持ちを、摘み取るような気がして怖かったのだ。
もう少し家族でいたい―――それは自分自身への言い訳だったのだと。

「そう・・・じゃあ―――」

受け取って・・・と周はもう一つ手塚にプレゼントを渡した。
今度は先程と違って、何も施されていないむき出しのままの木枠。
その中にあるのは―――

「これが僕自身だよ。まだまだ・・・全然、まだまだ未熟だけど、それでもこれが今のありのままの僕だから」

インターハイの決勝戦、最後のポイントが決まった瞬間の手塚のガッツポーズを捉えた写真だった。
怪我のため自分は出場出来なかったインターハイ、その分手塚を追い続けた夏。
その軌跡は周のカメラのファインダーを通して全て焼き付けられている。

「初めて自分の写真に満足したの。下手くそだけど、生きてる写真が撮れた。やっと自分の人生に誇りが持てるようになったからだって、そんな気がするの」
「周―――」

まっすぐ手塚を見つめて目を輝かして周は語る。
前を向いている。これまでの自分とは確実に変わったのだ。
しっかり前を向いて歩んでいる自分がそこに映る手塚と共にいる。
きっと手塚も同じ―――。
新しい人生を生きる姿がそこにある。

「ありがとう。最高のプレゼントだ」
「本当に?自分の写真なんてお兄ちゃんはきっと喜ばないだろと思って迷ってたんだ」
「そんなことはない。お前自身でもあるんだろう?」

手塚の言葉に周はほんのり頬を染めて照れ笑いした。

「ま、まあね。えっと・・・それじゃあ次は正真正銘の僕を貰ってもらおうか」
「・・・っ、それは、お前っ!」
「あー、もう撤回するわけ?ひっどーい!!・・・・なんてね。冗談だよ」

ぺろっと舌を出して周は笑う。
二つのプレゼントで手が埋まっている手塚の変わりに、周は手塚の学生服の襟元を調えてやった。

「これでもお兄ちゃんの気持ちは分かってるつもりだよ。あんなに悩むのも真剣に想ってくれてるからだって。まだ17歳だもんね。結婚もできない年齢で無責任なことしちゃあいけない、うん」
「いや、責任とかそういうことより―――」
「分かってる。僕だって・・・まだ怖いもん。それに、やっぱりお兄ちゃんには違いないんだから、そういうのってほら・・・普通より恥ずかしい・・っていうか」

茹蛸のように真っ赤になってしゅっと俯く周はなんて可愛いのか。
兄であろうと妹であろうと、恥ずかしかろうと無責任であろうと、押し倒してしまえばこっちのもんだと、手塚は危うく理性の糸が切れそうになったが、

「何してるのー、いい加減に下りてこないと朝練に遅刻するわよ〜!」

階下で母の叫ぶ声が聞こえ、敢え無く牙を剥きそびれたのであった。

「はーい、今行きます。ほらっ、急ごうお兄ちゃん」
「ああ。その前に一つ聞いていいか?何故こっちは何もないんだ?」

周がくれたフレームは二つ折りのもので、右と左に写真が入るようになっている。
手塚の写真は片方にだけ納められ、もう一つは台紙のまま。

「ああそれ。フレームのデザインが気に入ったんだけど、一枚用のがなかったの。かと言って両方お兄ちゃんを入れるとくどいじゃん。それだけだよ」
「そうか・・・」

手塚はそのフレームをじっと見つめた。
そして思いついたように、

「ならこっちにはお前の写真を入れることにする」
「・・・ぼ・・く?」

周はきょとんと目を見開く。

「そんな、お兄ちゃんの好きなの入れたらいいんだよ」

僕に気を遣わなくたって、と周は苦笑しながらそう言うが、

「好きだからお前を入れるんだ。だが・・・そうだな、どうせなら―――」

お前が俺のところに来る日のものを入れよう。

周は一瞬耳を疑った。

「俺のとこ・・・って・・・・?」
「いつかお前を貰う。その日が俺の人生で尤も誇れる日だからだ」

迷いのない言葉。
未来を断言できるのは周への想いが揺るがない気持ちであるということ。

「・・・・なんか・・・誰の誕生日かわか・・ない・・よ」

本当にこの人は、朝っぱらか何を言い出すやら。
こんな時間に大泣きすることもできず、周は溢れそうな涙を必死で擦って追いやった。

「だが、まだ先の話だ。それまでもう少し兄貴でいさせてくれ」

もちろん、恋人兼という意味だぞ。
手塚の大きな掌が周にぽんと優しく触れた。

「急ごう」
「うん」

周は前を行く手塚の背に心の中でそっと声を掛ける。

来年の今日も、再来年の今日も、ずっとずっとこうしてあなたの背中を見つめていられますように。
そしていつか―――僕があなたの最高のプレゼントになれますように。

「よぉーし!穴があいても使える靴下になるぞっ!」
「・・・・?」

怪訝な顔で振り向いた手塚に周は零れるように笑った。


end


あれ?キスシーンが入るはずだったのにな・・・。なんとなく出来なかった(手塚と一緒だなお前)。
お付き合いくださった方ありがとうございました。シリーズ化するつもりじゃないですが(笑)私にとって愛着ある二人になってしまいました。
タイトルの「memorial days」、何でdaysなのか、誕生日ならbirthdayでいいんじゃないかってちょっと意味不明だと思うんですが、(実際直前まで『最高のプレゼント』とかいうベタなタイトルを置いてました><)手塚の誕生日ってだけでなくて、いつか結ばれる日(身体が←笑)とか、いつか手塚のお嫁さんになる日とか、二人がいろんな未来を意識する日でもあったような・・・そんな意味を込めてdays、複数形です。これからたくさんの記念になる出来事が二人には訪れると信じて。
遅ればせながら、手塚さん、おめでとうございます。本当は15歳なんですよね(笑)。そしてまた14歳に戻る・・・・。(2007.10.20)