SUPREME


白々と夜が明ける雰囲気を無意識に感じ取り、手塚は薄く目を開けた。
夢の世界と現実の狭間で目の前がぼんやりしたのはほんの一時。
カーテンの隙間から漏れ入る光をその目に移した瞬間、頭の中も同時にクリアになった。

朝だ。

すぐさま手塚は音を鳴らす準備をしている時計に手を伸ばした。
スイッチを解除しホッと息を漏らす。

まったくこんなものが耳元で鳴ったらうるさくて敵わん。

睨み付けるように時計を見つめて、また元の位置に戻した。
目覚ましなど掛けずとも寝過ごすことなどない手塚は、時計がその役割を果たす音であっても騒音にしか思えない。
遅刻が許されない朝は、一応なりともアラームをセットするが、微量の電子音で十分なのだ。
しかし今日枕元にあるのは、ひどく懐古的な目覚まし時計。
アンティークと言えば聞こえはいいが、金属製の鐘の鳴るタイプのそれは、その存在だけで緊張が走る。
どんな強烈な音を発するのかは既に実証済みだった。

こいつが喚き出す前に目覚めたいものだ。

昨夜はそんなことを思いながら目を閉じた。

そう考えると、音は発しなくても十分目覚まし効果はあったと、手塚はプッと噴出した。
声を立てないように気を遣いながら小さく笑う。

でもまあ、このくらいで目が覚めるなら、最初からこんな時計は必要なかっただろうが・・・。

さらに込み上げてくる笑いを堪えて、手塚は隣ですーっと寝息を立てる恋人を見た。
そう、この大袈裟な目覚まし時計は、自分に寄り添いながら穏やかに眠っている彼が原因。

『明日の朝は、絶対僕の方が早く起きるから!』

何かを決意するように、普段は装飾の一つにしているそれを、わざわざ飾り棚から降ろしてきて、音が鳴るかを何度も確認していた。
その時、手塚もその音の凄まじさを味わったわけだ。
一緒に眠っているにも拘らず、「僕の方が」という考えに聊か抗議したくなったのは否めないが、
彼がそんなことを言い出したのにも原因がある。

今日は誕生日なのだ。
彼ではなく、自分が生まれた日だ。

一ヶ月以上前から欲しい物はないかと何度も問われたが、結局答えることができなかった。

『もういいよ。ほんと欲がないよね』

半分呆れながら首を竦められたが、ないものは仕方がない。
正確に言うと、「欲」がないというのは少し違うのだが・・。
手塚が欲っしているのが「物」ではないだけだ。
それは既に手にしているとも言えるが、まだ十分ではない。
その欲が満たされる日などくるのだろうかと思うほど、心の中でいつも「もっともっと」と追い続けている。

『仕方がないな。じゃあ手塚の誕生日は一日尽くしてあげる。それならどう?』

彼なりの苦肉の策。
けれど確かにそれは手塚にとってこれ以上のない贈り物かもしれない。
例え一日とはいえ、自分のことでいっぱいになる彼を、すぐ傍で感じられるなど贅沢極まりないことだ。

『ああ、それで十分だ』

そういうわけで、まず一つ目に出てきたのが、「手塚より早く起きて、手作りの朝食を用意する」だった。
起きた時点で手塚特製モーニングが食卓に並んでいる毎日の中で、彼にとってはかなりの努力を要する。
深い眠りを覚ますものは、可愛らしい電子音などでは駄目なのだ。

一連の理由があって、枕元に置かれた目覚まし時計。
結局、役割を果たす前に手塚の手で止められてしまった。
彼の膨れっ面が目に浮かぶ。

だが、これも手塚にとってスペシャルな贈り物だった。

笑顔のベールの奥でいつも神経を尖らせているのを手塚は知っている。
その彼が自分の横では無防備に眠るのだ。
彼が安堵しきっている時間など、きっと限られている。
そして、その貴重な時を作っているのが他ならない自分だと思うと、手塚は幸せを感じずにはいられない。
だから、今日を逃しては駄目だと思った。
例えいつも味わっていることだとしても。
生まれてよかったと心から感じ、これからを生きていく希望に繋がる瞬間。
これ程今日に相応しい贈り物はない。

そして、手塚はもう一度瞳を閉じた。
二度寝など手塚の辞書に決して載ることのない語句だと思っていたが、

今日くらい自分を甘やかしてもいいだろう。

次の目覚めはきっと彼の声。
レトロな目覚まし時計にも負けないような、

「あ〜〜〜〜〜っっ!!」という大きな第一声が部屋中に鳴り響くはず。


end


HAPPY BIRTHDAY TEZUKA!

短いですが、今年も無事お祝いができました。初めて手塚のBDをやってから早6年。まさか6年経ってもお祝いしてるなんて当時は考えもしていなかったですが、6年経っても健在でした(笑)。
不二の「不」の字も出てこないですが、塚不二ですから!(これで、相手が大石なんてことは決してない)
要するに手塚にとって不二くんが自分の横で安心しきってるってのが、この上ない喜びなんですね。毎日見ていても、やっぱりそれがいいんだと。重症(中毒?)です。
ワンシーンだけだったり、手塚視点だったり、不二の存在だけで幸せな手塚!的な話は私にはあまりないパターンで、自分でも浮かんだ時ちょっとびっくりしましたが、たまには幸せに酔う手塚もいいかなあと・・・。誕生日だもんね!
お付き合いくださってありがとうございました。 (2011.10.7)


追記:昔私の友人に、朝起きる時間を寝る前に頭で確認すれば、それが9時だろうと5時だろうと、その時間に目が覚めるという、目覚ましいらずの凄い奴がいましたが、手塚ってたぶんそんな感じ?
    よし!明日の朝は5時半だ!って寝ると、5時半にすちゃっと目覚める手塚。すげぇ・・・(笑)。でもほんとの話なんだよー。