『癌友達との触れ合い』
私は2000年の秋に、悪性リンパ腫と告知された。
そして、今に至るまで再発のために、何度か入退院を繰り返していた。
私は癌患者と名づけられてから、もう5年足らずの月日が流れて行った。
その間に、私は何人かの癌友たちと出会って、お付き合いするようになっていいった。
癌に犯された場所も同じではないし、癌の病になった時期も違っていた。
私が入院していた同じ病室で、お友達になった人もいるし、また、以前から
お知り合いだった人が、偶然がん患者となった例もあれば、
インターネットを通して、メール交換しているお友達もいる。
最近はそんな癌友だちとお話することで、お互いの近況報告をしたり、お互いに励まし
慰めあったりするようになった。
私はそんながん患者さんたちのことを、心密かに親しみを込めて、
『癌友』と名づけている。
癌友の中には、もうすでに天国に召された人たちもいる。
乳癌を患っていたmさんは、肺から腰骨、肝臓と癌が転移していった。
mさんとはメール友達として、お付き合いしていた。彼女は何年か前にこんなことを、
メールに書いてきた。
「はるかさん、私来年の春になったら、桜の花みれるかしら?」と、書いてあった。
そして、熱心なクリスチャンだった彼女は、東京都にあるホスピス病棟に
転院し、秋風が吹くころに天国に召されていった。
mさんはきっと最後の春にホスピス病棟の窓から、桜の花を心ゆくまで、
眺めていたに違いない。mさんはどんな思いで桜の花を眺めていたのだろう?
胃癌全摘手術を受けた、幼馴染のkさんと、中学生のクラス会で、久しぶりに
再開した。私はkさんに、「私も悪性リンパ腫という癌になったんよ。」と言った。
kさんが、「はるかさん、抗がん剤治療って辛くないか?」と、おそるおそる尋ねて
きたので、「抗がん剤治療って、とっても辛いよ。はるかなんかいつも怖がって
いるよ。」と、kさんに答えてしまった。
「僕はなるべく抗がん剤治療は、受けたくないんや」と、kさんは私に言った。
彼は胃を全摘手術をしたにもかかわらず、たばこを吸ったりお酒を飲んだりしていた。
「そんなことしていたらだめだよ。たばこもお酒もめちゃくちゃ飲んだら、
死んでしまうよ。もっと自分の体を大切にしなきゃあだめじゃないの。」と、
私は幼馴染のkさんにそんな言葉で、つい説教してしまった。
それからしばらくして、kさんから電話があった。
「僕、肝臓にも影があると言われた。それでも抗がん剤治療は受けたくないんや。」と、
心細そうな声で最後まで、抗がん剤治療を拒んでいた。
それから1年後、幼馴染のkさんが、亡くなったことを風の便りに聞いた。
白血病になって治療を受けていた、hさんとは私が入院した病院でお知り合いに
なった。彼女とは今も、時々電話でお互いの近況報告をしている。
あるとき白血病のhさんが、こんなことを私に話してくれた。
「はるかさん、わたしこの病気になってから、白血病の『白』という文字を、
見るのがとてもいやだったのよ。『白』の文字をどこかで目にする度に、とても悲しく
なってくるのよ。だから周りの人に自分が白血病だと、いつまでも
言えなかったのよ。」と、告白してくれた。
私はhさんの病によって傷ついた心の奥底に、触れたような気がした。
腹膜癌の患者さんでyさんは、外科手術と抗がん剤治療を受けた後、もう5年めだと
言っておられた。yさんが入院しておられた病院では、婦人科の
病棟に入院しておられたらしい。
この5年間の間にyさんが知っておられるだけで、20人以上の癌患者さんが、
亡くなっていかれたことを教えてくれた。
だからyさんはいつも私と会ったら、
「はるかさん、お互いに1日でも長生きしようね。」と、優しく励ましてくださる。
私と同じ悪性リンパ腫のtさんは、体の何処かにリンパの腫れ物が、出来ていないか
触るのが怖いと言っていた。
そんなtさんのお気持ち、私にも辛いほどよくわかる。
頭部や胸部、そして腹部など、手に触れない部分に再発していたら、
もっと恐ろしいと思う。
でも、お互いに少しでも命のラインを、伸ばしていればいつか新しい薬が開発される
から、その時までがんばろうねと、一生懸命メールで励ましあっている。
私の知人のaさんは、乳癌がいろんな場所に転移していったらしい。
彼女にお電話で、お見舞いさせていただこうと思った。
彼女は私にこう話してくれた。
「はるかさん、私両手が痺れて動かないから、ご飯も食べさせてもらってるのよ。
毎日辛くて泣いてばかりいるの。本当につらい・・・。」と、彼女の辛さや悲しみが、
受話器を通して伝わってきたので、私はそんなaさんが気の毒になって、
「aさん、辛い時は辛いと言えばいいし、泣きたいときはおもいっきり泣けばいいのよ。けして我慢なんかしちゃあだめだよ。」と、生意気なこと言ってしまった。
そんな電話での会話が、aさんとのこの世での、最後の会話となってしまった。
人間は癌患者と告知されてから、将来に対して希望が持てなくなったり、他への
癌転移や、再発に対しての不安を背負っていかなければならない。
癌患者さんは、大なり小なりそんな恐怖を毎日抱いて癌細胞とお付き合いしている。
現在、3人に1人が、がん患者だとも言われている。
私にとって癌友は、これからも増えていくことだろう。
私の命のあるかぎり、最後まで諦めることなく、癌友だちとの触れ合いを
大切にしながら、生きていきたいと願っている。
2004/新緑の若葉が目に鮮やかな5月/