■ミニチュアダックスフンドの椎間板ヘルニア

・世界的に見てもこれだけたくさんのミニチュアダックスフンドが飼育されているのは我が国だけでしょう
・動物病院で診療を行っていて非常に多く遭遇するのが椎間板ヘルニアです
・飼主さんへの情報提供と共に当院での治療方針を紹介します


*アサヒペットクリニックでは神経外科で専門的な治療を行っており、セカンドオピニオンも受け付けています
*内科治療と外科治療とをバランスよく治療に取り入れています



1.椎間板とは…


 背骨の骨同士が直接ぶつからない為のクッション

 椎間板は健康なワンちゃんにも存在します。脊椎骨と脊椎骨をつなぎ、背骨にかかる衝撃を吸収してくれる役割をしています。椎間板の中身を椎間板物質といいます。椎間板物質はセリー状の衝撃吸収素材でできています。椎間板があるおかげで勢いよく走ったり身体をひねったりしても背骨が柔軟に動きダメージを緩和してくれるわけです。

<健康なワンちゃんのレントゲン写真> <背骨の模式図;脊椎と脊髄、椎間板>





2.椎間板の変性と軟骨異栄養性犬種



 軟骨異栄養性犬種は椎間板ヘルニアになりやすいと言われています。

 ダックスフンドは軟骨異栄養犬種です。ミニチュアダックスフンドも同じです。
 軟骨異栄養性犬種というのは犬種として軟骨の変性が起こりやすい体質を持つ特性です。ダックスフンドやフレンチブルドック、コッカスパニエルなど、人為的に可愛く品種改良された結果だと考えられています。この犬種では椎間板の内部にある「椎間板物質(髄核ともいいいます)」の変性が起こり、その結果椎間板ヘルニアになりやすいと言われています。わが国で一番多く飼育されている軟骨異栄養性犬種がミニチュアダックスフンドです。
 もともと椎間板ヘルニアになりやすい体質のミニチュアダックスフンドはちょっとしたきっかけで発症します。普通の散歩中やソファーからの飛び降りなどで下半身麻痺を起こすことがあります。これは飼主の管理が悪いからではなく多くの場合が体質が原因です。発症した場合には様子を見ないですぐに動物病院へ。軽症であれば内科治療で治る病気です。

   
 ミニチュアダックスフンドは軟骨異栄養性犬種です
 生まれながらに椎間板ヘルニアになりやすい犬種なのです

 <ダックスフンド以外の軟骨異栄養性犬種>
ビーグル、ペキニーズ、コッカースパニエル
フレンチブルドッグ、ウェルシュ・コーギー  など
     ・・・これらも椎間板ヘルニアになりやすい犬種です
 



3.神経の圧迫




 脊髄神経が圧迫される病気です

<椎間板ヘルニアの模式図>

 背骨には日常生活でもかなりの力が加わり、椎間板は前後から圧迫されることになります。もともとゼリー状で衝撃を吸収するはずの椎間板物質も変性してしまうと衝撃にもろくなり椎間板物質がはみ出してしまいます。はみ出した椎間板物質はそのすぐ上にある脊髄神経を圧迫することになります。
 圧迫が軽度であれば「痛み」、圧迫が重度であれば「マヒ」とい症状が発言します。




4.症状のグレードと治療成績



 典型的な症状を記載します。当てはまっているようであれば動物病院へ行きましょう

 後ろ足が左右ともおかしくなるのが特徴です。足の病気の時では多くの場合で症状は片方だけ
 「昨日までは平気だったのに今朝見たらおかしくなっていた」という様な急な症状

■■ 症状のグレード分類 ■■
 グレードが大きくなるにつれて重症の椎間板ヘルニアです。
 なぜ症状をグレード分けするのか?それはグレードによって治療への反応率に差があることが分かっているからです。内科治療にするのか外科手術が必要なのか、多くの研究者がこれまでの成績を報告しています。


 <グレード1>    内科100%:外科100%
  「キャン」とないて痛そうにしている
  背中を丸めて震えている
  あまり歩きたがらない
       ・・・でも歩こうと思えば歩くことはできる
 <グレード2>  
  内科84%:外科100%
  歩くことはできるが爪すって歩く
  足が突っ張ったロボットのような歩き方をする
  歩くときにナックリングをしている

 <グレード3>    
内科100%:外科95%
  背中を丸めて前足だけであるく
  足を交差してクニャクニャ腰を振って歩く
  お尻の皮膚をつねっても感じていない

 <グレード4>    内科50%:外科90%
  後ろ足が全く動かず前に伸ばしたまま
  その場でおしっこをしてまう
 
 指先の痛みは感じている

 <グレード5
>    内科7%:外科50%
(24時間以内)
  後ろ足は全く動かない
  指先をつねっても痛みを感じない
     *足をひっこめるだけで平気な顔をしている

ナックリングしている後ろ足

グレード5
   *グレードの横の赤文字は内科治療、外科治療における回復率です
   *複数の信頼できる論文から抜粋して記載しています
 

(Davies and Sharp 1983/Lineberger and Kornegay)  




5.アサヒペットクリニックの治療方針



 症状のグレードによって治療方針を決めます

 急性椎間板ヘルニアの場合は症状がとても重要です。軽症の子は内科治療で十分で通常手術は必要ありません。また本来手術すべき重症の子に内科治療をして治る時期を逃してしまう事があってはいけません。サヒペットクリニックでは症状のグレードを重要視しています。内科治療と外科治療をバランス良く実施することで動物にかける負担を減らし、車いすの子をなくすことを目指しています。

内科治療

 安静が非常に重要です
家の中を自由に歩かせるのではなく、ジャンプできない高さの屋根を付けた狭いサークルに閉じ込めます。お家で安静にできない子は入院して安静にします。安静が出来ない子は悪化する傾向にあります。注意しましょう。
 痛みの強い子には補助的にレーザー治療を行っています。レーザーの温熱治療は痛みを和らげ神経の回復を促すと言われています。外来診療でレーザーを受けることが出来ます(一回800円)。痛みの強い軽症の子には積極的に用いています。

内科治療は基本的にグレード1から3までの治療法だと考えています。グレード4では内科治療の反応率は約50%、レーザー治療などをするともう少し改善率はあがりますが回復に1-3ヶ月ほどかかってしまいます。もし内科治療に反応がなかったら・・・そのころには手術をしても手遅れになっているかもしれません。
 

<半導体レーザー温熱療法>
外科治療

 グレード4とグレード5については外科治療をお勧めしています。外科治療というのは手術のことです。手術は片側椎弓切除という術式を選択しています。慣れた術者が行えば1時間程度の麻酔で手術は終わります。当院では手術の前にCTで場所と程度を確定してから手術しています。CTを用いることで従来の手術よりも確実に早く終えることが出来ます。また手術痕も小さくなりました。グレード4の子ならほとんどの子が一か月以内に歩けるようになります。内科治療よりも改善程度が良く、また回復までの時間も短いのが特徴です。グレード5では回復に2-3ヶ月間要することもありますが歩けるようになる子が70-80%位だと思います。CTを利用するようになった現代では昔の報告よりも手術成績が上がっているようです。
 入院は一週間。オーダーメイドのコルセットを着せて退院です。コルセットを着せて退院翌日から自宅でリハビリトレーニングを開始します。コルセットでの積極的なリハビリによってより早期に歩ける様になりました。当院で採用している「エスツーコルセット」は人の義肢装具士が開発したワンちゃん用の装具です。力学的に優れた構造をもちしかも軽量で身体にフィットします。


 治療費の目安は合計約20万円です  

*上記料金は治療費の目安であり患者の状態によって多少前後します。詳しくは診察時にお尋ねください。


<片側椎弓切除術>



<摘出した椎間板物質>

<エスツーコルセット>

 モデル「MOANA」ちゃん
 Grade4の椎間板ヘルニアで手術を受けました。術後5日目でふらつきながらも歩けるようになり、コルセットを付けて退院しました。写真は術後二週間検診時のものです。カラーはCamo Green。とても良く似合っています。


 オーダーメイドのコルセットは体にフィットして軽い構造です。コルセットにより腰がふらつくのを防ぎ積極的なリハビリを促します。



6.椎間板ヘルニアのCT検査



 椎間板ヘルニアはCTで診断できます
 当院では手術が必要な患者が来院した場合、可能な限りその日にC検査を行っています


 グレード2や3の症例で内科治療に反応しない子が時々います。こういった椎間板ヘルニア症例にCTを取ると脊髄を圧迫する椎間板物質の量が多く脊髄の圧迫が重度であることが多いのです。椎間板物質の量が多い場合、グレードが2や3であっても手術をした方が良いと考えています。内科治療の反応が悪く、じりじりと悪化してグレード4や5に進行する危険性が高いからです。

   

<正常の脊椎と脊髄>

 正常の脊椎には脊髄神経が丸いドーナツのような形で存在します。動物にとってとても大切な働きをする脊髄神経は脊椎という骨に囲まれ守られています。

<椎間板ヘルニアの脊髄>

 椎間板ヘルニアを起こすと椎間板物質が脊髄神経を圧迫します。ドーナツ型だった脊髄神経が圧迫されて左につぶされています。このような重度な圧迫があると内科治療ではなかなか反応しません。

 

<3D-CT像>

 腰の椎間板ヘルニア。CT画像を元に3D像を作ると病気の状態が分かりやすくなります。CTによっていヘルニアの程度、場所などが詳しく分かります。

<椎間板ヘルニア手術後>

 CTによってヘルニア部分がピンポイントで分かるため手術自体も小さな傷で出来るようになりました。手術時間も以前の半分くらいの時間に短縮されています。よりダメージの少ない手術になっています。


 ■頸部の椎間板ヘルニア
 椎間板ヘルニアは腰だけではなく首(頸部)にも起こりえます。頸部の椎間板ヘルニアの特徴は「マヒ」を起こすのではなく、「強い痛み」を起こすことです。頸部の椎間板ヘルニアでは上記のグレード分類は使えません。強い痛みが続き生活の質が低下します。頸部の椎間板ヘルニアでは「ベントラルスロット」という手術を実施しています。頸部の手術は腰に比べて手術リスクがあるため容易には実施できませんが多くの場合術後速やかに痛みがとれ元気に帰って行きます。

<3D-CT像>

 頸部の椎間板ヘルニアの画像です。黄色丸で囲んだところに椎間板物質が存在しています。この椎間板物質はかなり大きなものです。これほどの大きな椎間板物質があるのにもかかわらずマヒにはならず症状は「強い痛み」でした。とても強い痛みで毎日悲鳴を上げながら暮らしていたとの事でした。頸部の椎間板ヘルニアでは、症状が「痛み」だけであっても手術が必要な場合があります。

<手術前横断面像>

 CT横断面像では椎間板物質がはっきりと表れています。これだけ大きな椎間板物質がある場合は内科治療の反応が良くない場合が多いため手術でこの椎間板物質を取り除く必要があります。

<手術後>

 手術後の横断面像。椎間板物質が取り除かれています。この子は手術翌日にはウソみたいに痛みから解放されました。



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