花冠


守護聖獣を探すために分け入った大樹の洞で、偶然に見つけた精霊の子。
“フィー”と名乗った彼女は、きらきらと不思議な青い光を瞬かせながら、何の疑いもなくエルディの後を付いて来ていた。
生まれたばかりらしき彼女には、この世にある全てが真新しいのだろう。事あるごとに「あれはなあに」「これはなあに」とエルディを質問攻めにした。エルディも始めのうちはあまりの疑問の多さに閉口していたが、次第に彼女が純粋な興味からあれこれ尋ねていることを理解し、自分の知りうることであればきちんと答えるようにしてやった。
最も、戦いの最中に投げかけられる質問は別だったが。


精霊の子が興味を持ってエルディに質問することの多くは、世界を形成する植物の名前だった。
それは、彼女が精霊という、人よりも自然に近い存在だからだろうか。
彼女が生まれた場所が、深い緑に覆われた洞窟だったことも影響を与えていたのかも知れない。
イルージャ島の山中を駆け回る中、少しの休息を求めて立ち止まると、嬉しそうに手近に咲く草花や青々と茂る木々の名前をエルディに尋ねる。その様子を見て、自然とエルディの顔に笑みが広がるのもすぐのことだった。
無邪気に笑う精霊の子に彼女の体よりは大きな花を摘み取り手渡してやると、少しバランスを崩しながらも喜びくるくると飛び回った。花に振り回され、ワルツでも踊っているかに見えるその様子に、エルディの心から少しの間だけ、不安な気持ちが消え去るのだった。


いつかの折に、彼女が「これはなあに?」と尋ねてきたのは、白詰草の花だった。
その名の通り、白い小さな花弁がきゅっと詰まり、ふわふわと丸い球になったその形が彼女はいたく気に入った様子だった。 幾つも花を摘み取り、エルディの癖のある金髪へと“飾り”つけては満足そうに笑った。摘み取られた茎の青臭い匂いと、絡まった髪からその花を取り除く苦労を思うと、“飾り”つけられている本人は溜息が出るばかりだったのだが。

蜜を集める蜂のように、精霊の子が白い花々の間を飛び回る様子を眺めていたエルディは、ふと手近に生えていた白詰草を数本摘み取った。そして、確か……と、幼い頃の記憶を辿り、編み始めた。
ああでもない、こうでもないと試行錯誤を繰り返すうちに、エルディの手元には少しいびつな、小さな花の冠が出来上がった。

「フィー。」

花と戯れる精霊の子を呼び、その頭に白い冠を乗せてやると彼女は大喜びした。
その曇りの無い笑顔が、いつの日か見たここには居ない人のものと重なって見え、エルディは驚きと少しの胸の痛みを覚えた。そして、そんな気持ちを持った自分にも驚きを覚えたのだった。


エルディが作った花冠は少し大きかったようで、すぐに頭から滑り落ち、しばしば不恰好な首飾りのようになっていたが、冠を贈られた当の本人は全く気にしていない様子だった。
結局、その日一日、彼女は花冠を身につけたままで過ごした。
日が落ちた後、エルディが気付いた時には、精霊の子は少ししおれた白詰草に包まれて満足そうに眠りに落ちていた。
そんな彼女を見、エルディもまた優しい気持ちで眠りについたのだった。



白詰草
 花言葉:約束、感化、私を思って




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フィーにも守護植物があったとしたら何だろう…と考えていた結果。
タンポポの綿毛もフィーっぽいなとは思ったのですが(花言葉も「真心の愛」「愛の神託」「別離」)
タンポポの一般的なイメージは黄色だし…(個人的に聖剣ヒロインの花は白だし…)ということで白詰草です。

この話を書くきっかけとなったのは、すずのや様宅の日記を拝見していてでした。
きっかけを与えてくださった、すずのや様へ最大級の感謝を込めて。

2008/04/11


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