【第二章】


01.


「とんだ回り道だったね……さあ、ウェンデルへ急ごう。」
「はい。」

邪悪な気の薄れた古い館を後に、デュークは傍らに居る少女へ話し掛け、歩き出す。
少女は白い衣と長い金の髪を軽やかになびかせて後に続いた。
その胸には、細い金の鎖に、深く様々な色を帯びて見える赤い石のついたペンダントが揺れている。




シャドウナイトに崖から落とされたデュークは、奇跡的にも大した怪我を負うことも無く、気付いた時には見知らぬ土地へと流れ着いていた。体に異常の無いことを確認し、ウィリーの遺言であるボガードという男を探すために彷徨いだした直後に、今傍らに居る少女と偶然出会ったのであった。

彼女の名はエレナ。

森の静寂を破って突然耳に飛び込んだ悲鳴に誘われ駆けつけてみれば、そこにはモンスターに囲まれる少女と、大量の血を流し倒れる男の姿があったのだった。鋭い爪や牙から彼女たちを守りつつ、全ての怪物を片付けた時には、すでに男は瀕死の状態だった。

「頼む、彼女を……ウェンデルのシーバの元へ連れて行ってくれ。ボガードに会えば、力になってくれるはずだ……。」
男の事切れる間際の言葉には、意外にも聞き覚えのある名前が含まれていた。


――これは偶然なのか?それとも、ウィリー、お前の導きなのか?――


どちらにせよ、この少女と自分の目的は同じであるに違いない。
そして、傍らで静かに涙を流す少女をみすみす放っておくわけにも行かない。


さらに、デュークは気付いた。
シャドウナイトとジュリアスが追う、"鍵を握る少女"とは、彼女のことではないか、と。
その可能性がある以上、尚のこと放り出すわけにはいかなかった。




男の遺体を簡単に弔った後、デュークは少女に告げた。

「君も、ボガードという人を探しているんだろう?偶然だけど、僕もその人を探しているんだ。
 良かったら一緒に行かないか。」
「本当ですか!?」

それまで俯き加減だった少女はぱっと顔を上げ、必死な眼差しでデュークを見た。

「良かった……私、村から出るのは初めてで…右も左も分からなかったんです。是非、ご一緒させて下さい。」
「なら決まりだ。……君は、グランスに狙われても居るみたいだしね。僕の名はデューク。」
「私、エレナです。」

そうして、二人は滝の小屋に住むというボガードを探しに向かったのだった。




二人は近くにあったトップルと言う村で、ボガードらしき男が近くの小屋に住むことを知った。
村人からの話を頼りに二人は森を、草原を進む。
一見か弱そうに見えたエレナは、意外にもしっかりとした足取りで自分の後を付いて来た。
彼女が癒しの術の使い手であることを知ったのもこの時だ。
ボガードの住む滝の小屋までの道程では、幾度となくモンスターの攻撃に晒された。ある程度戦いに慣れているデュークだが、他人を守りながらの戦いでは自らが盾となることも多くある。
その際負った傷も、エレナの術でたちどころに癒え、二人は無事滝の小屋へと辿り着いたのだった。


そこに住む老人――ボガードは、村人が噂するように何人も拒む姿勢で二人を迎えた。
初めは全く取り合ってくれなかったのだが、エレナの胸に光るペンダントを見た途端、態度が軟化した。
かつてマナの力を手に入れたバンドール帝国…その強大な力と戦ったジェマの騎士たるボガードたちを導いた女性の胸に、そのペンダントが光っていたのだという。

「これは、私が生まれた時から持っていた、母の形見なのです。」
「……そうか。今回のマナの危機にも、その"マナのペンダント"が鍵を握っているようだな……。」
ボガードは慈しむような、しかしどこか寂しげな視線でエレナと、その胸のペンダントを交互に見た。
エレナは不安げな様子でペンダントを握り締めた。

「ウェンデルへ行き、シーバに会うといい。彼もジェマの同志。……恐らく、そのペンダントの秘密を明かしてくれるだろう。」
「わかりました。……ありがとうございました、ボガードさん。」

礼を述べ、滝の小屋を後にする二人を、ボガードは複雑な表情で見送った。




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