03.
「本当に、デュークに出会えて良かった…。」
ウェンデルへの道すがら、不意にエレナがぽつり、と呟いた。
前を進んでいたデュークは、その言葉に振り返り、彼女を見た。
エレナはそんなデュークに微笑みかけて言葉を続ける。
「私、前にも言ったけれど、本当に今まで村から外へ出たことが無かったの。だから、ハシムが倒れてしまった時には、私、もうダメかと思ったもの。そんな時にあなたがやって来てくれたから…。」
「僕も偶然あの場に辿り着いたところで、エレナの悲鳴が聞こえてきた時には驚いたよ。しかも話を聞いてみたら、同じ人を探してるって言うしね。……僕の親友の導きだったのかも知れないな…。」
デュークはあの時、ふと思ったことを口にした。
「お友達、ですか?」
「…ああ。」
また、ウィリーの言葉が耳の奥で蘇る。
僕は、お前の最後の頼みを果たしてみせる――。
それが、今の僕が、成すべきことだから。
「……少し、休もうか。」
不思議そうに首を傾げるエレナに、デュークはそう告げ、強い日差しを避けるべく木陰へと腰を落ち着けた。
エレナもそれに続く。
「あの、もし良ければなんですけれど。…デュークは何故、ウェンデルへ?」
しばしの沈黙の後、躊躇いがちにエレナは言葉を口にした。
「あ、あの、言いたくなければ良いんです。」
「いや、別に構わないよ。…そう言えば話して無かったね。」
そして、デュークは手短に語った。
自分の生い立ち、グランス城での奴隷生活、ウィリーの最後の言葉、そして闘技場からの脱走。
彼女は熱心に、デュークの話に耳を傾けた。
「……だから、僕はウェンデルのシーバと言う人に――ボガードさんと同じく、ジェマの騎士であるその人に、マナの樹の危機を知らせに行かないといけないんだ。ウィリーとの約束を果たすためにね。」
「……そうだったんですか…。」
デュークの話を聞いて、エレナは小さく頷き、納得した様子で顔を上げた。
エレナとはすっかり旧知の仲のような気がしていたが、実際にはつい数日前に知り合ったばかりなのだ。
こうしてゆっくり話をすることも無い程、立て続けに普通では決して遭遇しないような出来事に巻き込まれたお陰で、互いの信頼関係は強いものになってはいるが。
「じゃあ、ウェンデルでシーバに会った後は、デュークはどうするんですか?故郷へ、帰るんですか?」
「……まだ、何も考えてないよ。」
エレナに問われ、デュークは素直に、そう答えた。
実際、何も考えてはいなかった。考える余裕もなかった、という方が正しいだろう。
今更故郷へ帰ったとしても、シャドウナイトの襲撃を受けた後、村がそのまま残っているとも考え難い。
例え村が存在していたとしても、それはデュークの知るかつての集落とは別のものになってしまっているだろう。
ふと横を見れば、エレナが不安そうな表情を浮かべていた。
――無理も無い。今の彼女にしてみれば、デュークしか頼れる存在は居ないのだから。
「――しばらくは、ウェンデルに滞在するのも良いかもね。」
デュークがエレナに言うと、彼女の顔に浮かんだ張り詰めた表情が少し緩んだ。
「そう、だと嬉しいです。……そうして、欲しいです。」
俯いたまま、エレナがそう、呟いた。
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