04.


聖都ウェンデル。

深い森に囲まれ、守られるように佇むその街は、賢者シーバのいる大聖堂を中心に広がっている。
世界の各地から、病に苦しむものや悩みを持つものが、救いを求めてこの街に巡礼に訪れる。
ウェンデルの周囲を流れる川は、マナの樹の根元から湧き出した水であると伝えられ、そのマナの力の恩恵を受け守られた街である――そのように、人々には信じられている。
花と緑に溢れたこの街は、確かにマナの祝福を受けている――訪れる人は皆、そう感じるであろう。
やっとの思いでウェンデルへと辿り着いたデュークとエレナも例外ではなかった。


「ここが、ウェンデルか……。」
「大きな街ですね。でも、どこか懐かしい気がします。」


きちんと整備された石畳の道が、街の奥に位置する大聖堂へと続いている。
行き交う人波に、二人は少し圧倒されながらも、目的地へと足を進めた。



その途中、デュークの視界の端に見覚えのある姿が映った。

「また会ったな。」

赤い旅人帽の男もデュークに気付いたらしく、声をかけてきた。
そしてデュークの傍らに居る、エレナにちらりと目をやった。

「無事、助け出せたんだな。……彼女を大事にな。」

男は端正な口元にふわりと笑みを浮かべ、軽く手を上げると、再び人波の中へと姿を消した。

「……あの方は?」
「ああ、あのビンケットの館で君を助けるために、手を貸してくれたんだ。」

デュークは歩きながら、月の鏡と、沼の洞窟のことをエレナに語った。

「そうだったんですか……それなら、私もきちんとお礼を言うべきでしたね。」
「きっと、また会えるさ。そんな気がするよ。」

話をしている間に、二人は大聖堂の前へやって来ていた。

「私、取次ぎをお願いしてきます。」

エレナはデュークにそう告げ、大賢者シーバに面会を願う人々の受付へと並びに行った。



デュークは少し離れた場所で、ぼんやりと人の流れを眺めつつ、先程の男の姿を思い浮かべていた。
名前も告げずに去っていった、不思議な男。

常に目深に帽子を被っていたために顔すら曖昧なのだが――


――前にもどこかで、会ったような気がするんだけれどな――


何故か、どこかで会ったことのある気が、デュークにはしていた。



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