05.
本来ならば大賢者への面会は長時間待たされるものであるらしいが、エレナの村の村長が事前に使いを送っていたことと、紹介状を持参していたことが幸いし、二人はすぐに大聖堂の奥へと案内された。
磨かれた白い大理石の敷かれた回廊は荘厳な雰囲気で、ここがマナの聖地であることを改めて実感させる。
街の賑わいも、この回廊の奥までは届くことはない。
デュークとエレナ、そして案内の者の靴音だけが、静寂の中に響いていた。
マナの樹が意匠化されたのであろう模様の刻まれた、大きな石造りの扉の前まで来ると、案内の者は静かに会釈をし、その場を離れた。
「さあ、エレナ。」
扉の前で立ちすくむエレナに声をかけ、デュークは扉を開いた。
大きな扉の向こうには、光あふれる白い空間が広がっていた。
正面には扉に刻まれていたのと同じ、マナの樹の意匠が施された色鮮やかなステンドグラス。
そのステンドグラスの前には優美な細工が施された祭壇が設えてある。
そして磨きこまれた大理石の床の中央には、おそらく魔法陣なのであろう、複雑な紋様が刻み込まれている。
「ようこそ、ウェンデルへ。」
聖堂の奥、祭壇の前の人影から柔らかい声が掛けられた。
その声に後押しされるように、二人は聖堂へと足を踏み入れた。
大賢者シーバは魔法陣の前まで進み、両手を広げて二人を出迎えた。
白い法衣に身を包み、豊かな白い髭を蓄えた姿は、英知と慈愛、そして威厳までをも兼ね備えた、正に大賢者と呼ぶに相応しいものであった。
人々の話によれば、齢1000年を超えるという話だが、全くそのようには見えない確かな足取りと存在感である。
ただ、二人を見つめる眼のみが、1000年分の重みを湛えているように感じられた。
「私がシーバじゃ。話は伺っておるよ。よく参った、エレナ。そして、デューク。
……さて、どちらの話から聞こうかね。」
シーバからそう問われ、エレナはデュークを見上げた。
不安そうな彼女に、デュークは大丈夫だ、と伝えるように少し微笑み、頷いて見せた。
それを見て、エレナは一歩前へ踏み出し、シーバに今までの事のあらまし――村を出て、デュークに助けられ、ボガードからシーバに会うように言われたこと――を簡単に話し、胸元に仕舞ってあったペンダントを大賢者に見せた。
シーバはエレナの差し出したペンダントをじっくりと見つめ、しばしの沈黙の後に、ふむ、と頷いた。
「なるほど、確かにそれはマナのしるし。……エレナ、この魔法陣の中央へ立ちなさい。
さすれば、ペンダントからあなたが成すべき使命が聞かれよう。」
「わたしの、使命……。」
エレナは小さく言葉を洩らした。
そして大きく息を吸い、意を決したかのように、大理石の床に刻まれた魔法陣の中央へと進んだ。
デュークとシーバはエレナの後方へ立ち、固唾を飲んでその瞬間を待った。
ふわり、と柔らかな光が魔法陣と、エレナの胸のペンダントから放たれた。
その光に導かれるかのように、前方のステンドグラスを通して、眩いばかりの光が聖堂に差込み、視界を奪う。
思わず目を伏せた三人が、光の緩んだ気配を感じ取りゆっくりと目を上げれば―――
そこには淡い光を纏う一人の女性の姿が浮かんでいた。
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