11.
二人は協力し、着実に洞窟の奥と思われる方向へ進んで行った。
砂の迷宮とはよく名づけたものだ…内心、デュークはそう呟きながら異形の魔物を退けるために槍を振るう。
足場は砂漠の中ほどではないものの、どこからともなく流れ込んだ砂に埋められ、足取りを重くする。
また、迷宮の名に相応しくさまざまな罠や仕掛けがあちこちに潜み、侵入者を拒むかのような造りとなっていた。
それでもデュークとアマンダの二人は、少しずつではあるが着実に迷宮深くへとその足を進めていった。
洞窟に入って半日以上過ぎた頃だろうか。
幾つ目かの隠し通路へ踏み入れた時、デュークは直感的に強大な気配がその奥に潜んでいることを感じ取った。
「アマンダ。」
「…ああ。この奥だね。」
アマンダも同じようにかの気配を感じ取っていたようで、頷いて答えた。
そして言葉を続ける。
「あたいはまずメデューサに血を分けて欲しいと頼んでみるつもりなんだ。
でも、きっと一筋縄では行かないと思う。
…デューク、あんたも知っていると思うけど、メデューサはその眼光で生き物を石に変えちまう力を持ってる。
もし、奴と戦うことになって、石に変えられそうになったらあたいに声を掛けて。
石化を解く術なら知ってるから。」
「……分かった。アマンダ、無理をするんじゃないぞ。
僕らは生きてメデューサの血を持って帰るんだ。レスターの為に。」
気丈に振舞ってはいるが、デュークにはアマンダが焦りと不安でギリギリの精神状態であることが感じられた。
そんな彼女を少しでも励まそうと、彼女の肩に手を置いて言葉を掛ける。
アマンダの緊張が少し緩んだのを確認して、デュークはひとつ頷いて彼女の前へ立ち、通路の奥へと足を踏み出した。
真っ直ぐに続く長い通路を抜けると、突然開けた空間が目の前に広がった。
洞窟の中とは思えないほど天井は高く、はるか上空には採光と通風を兼ねた穴が幾つか開けられているようで、ほのかな月明かりが差し込んでいた。
二人は互いの背を守るように立ちながら、強大な気配の主の姿を探した。
「……ほほほ…わらわの元まで辿り着くとは……中々骨のある来訪者のようじゃの…。」
不意に広い石の空間に、ねっとりとした女の声が乱反射した。
その声の主の姿を探し、二人は視線を瞬時に洞窟内へ彷徨わせるがそれらしき影すら見当たらない。
そんな二人の様子を小馬鹿にするかのように、くつくつと低い笑い声ばかりが木霊する。
「あんたがこの迷宮の主、メデューサかい?あたいはアマンダ。
あたいの弟があんたの息子にオウムに変えられて困ってるんだ。
……ほんの少しでいい、あんたの血を分けてもらえないかい?」
姿の見えない女に向け、アマンダが必死に懇願する。
すると女は、アマンダのその様子を見てか、さも可笑しそうに声を上げた。
「ほほほっ…わらわの息子にねぇ……それは大変だねえ…。」
「お願いだよ!あたいのたったひとりの弟なんだ!」
「そうかい…。でもねぇ…そう簡単にわらわの血をあげるわけにはいかないね…。」
その言葉と共に、ゆるゆると、二人の視線の前方に砂の迷宮の主が姿を現した。
土気色の肌には鱗のような文様が浮かび、緑青色の髪が波打つ。
よく見るとその髪一本一本が無数の蛇であることが分かる。
辺りに漂う生臭い臭気が一層濃さを増す。しかし、そんな不気味な容姿の中でも、
妖艶な笑みを浮かべる赤い唇と、見るものを石に変える力を持つと伝えられる眼光の恐ろしさは相対する二人にとって最も恐怖を与えるものであった。
――――この雰囲気…やはりあいつに似ているな…。
ぞくぞくと背中を駆け上がる怖気に、デュークはふと先日ジャドの街で会った男を思い出した。
あの時、かの男に睨めつけられた時と同じ底知れぬ闇を感じ取り、デュークは不快感を覚えると共に、
妖しの者であろうと親子は似るものなのだな、と妙に納得もした。
「ほんの少し、一滴でも構わないんだ!」
姿を現した迷宮の主の方へ足を踏み出し、アマンダは訴える。
すると女は、急に今までの低い笑いを止め、言った。
「わらわの息子のかけた呪いならば、確かに母であるわらわの血を与えれば解けるじゃろう…
しかしなぁ…何故わらわがそのようなことをせねばならぬ?
何故わらわがそなたのような愚かな人の子のために、高尚なる魔族たる我が血を分け与えねばならぬ?
何故わらわの美しい体を傷つけねばならぬ?
……わらわをこのような場所に閉じ込めた息子のことなど知らぬ。あやつの尻拭いなどわらわはせぬ。
それでも欲しいというのならば…わらわからその貧相な短剣で奪ってみるがよい。
しかしな…わらわの姿を見た以上、生きてここから帰さないよ…!!」
言葉を発すると同時に、女の禍々しい力が爆発した。
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