12.


「ほほほほ…そう簡単に、わらわの血は渡さぬ…。最後の最後まで苦しむがよいわ…。」


迷宮の主の笑い声が、静寂を取り戻した洞窟内に虚しく響く。
その声は言い知れぬ不安と不気味さを二人の心の奥底に残して消えていった。



生き血は渡さぬ、生きても帰さぬと言い放ち襲い掛かって来たメデューサに、デュークとアマンダは果敢に戦いを挑んだ。 波打つ髪から生まれ出る無数の蛇を払い落とし、デュークは槍を繰り出す。
アマンダはデュークを援護するかのように、メデューサの前にわざと躍り出てはくるりと身をかわし、素早くナイフを投げる。 アマンダの攻撃は軽く、決して致命傷を与えられるようなものではないが、確実にメデューサの動きを鈍らせていた。

デュークはかつてグランスの闘技場で、アマンダとこうしてペアを組み、何度か戦ったことを思い出した。
あの時は自分たちがその日を生きるために戦った。
しかし今、アマンダが戦っているのは自分が生きるためではない。
彼女は今、己の命を賭してでも助けたいもののために戦っている。



―――僕は、誰のために戦う?



「デューク!」

アマンダの叫びにはっと我に返り、デュークはメデューサの眉間目掛け、渾身の力で槍を投げつけた。
槍は真っ直ぐに宙を切り、蛇女の眉間を貫いた。メデューサは一瞬目を見開き、次の瞬間にやり、と妖艶な笑みを浮かべたかと思うと、恍惚とした表情のまま己の身を石と化した。
そして石と化した迷宮の主は、微笑を湛えたまま瞬時に風化したかのように砂の塊へと崩れて消えた。



「一滴の血も、残ってないよ……。」

アマンダが迷宮の主のなれの果てである砂山へと近づき、周囲を丹念に調べた後に重い溜息を吐き出した。
デュークも近づき、辺りを見回すが血痕すら見つけることは叶わなかった。

「最後の力で、自分自身を石に変えたのか…。」

デュークは呟き、唇を噛み締めた。
戦いの最中、確かにメデューサは血を流し、その血があちこちへ飛び散っていたはずだった。
しかし、その全てが砂となり消えてしまっていた。
アマンダは砂山に膝を付き、ざらざらと指の間から逃げる砂を弄んでいた。
その表情は見えなかったが、がくりと落ちた肩に彼女の落胆が窺い知れ、デュークはしばし声を掛けることが出来なかった。



「……アマンダ、一先ずここを出よう。ジャドに帰って、デビアスに会うんだ。
 奴からレスターを元に戻す方法を聞きだすしかない。」

一時の後、重い沈黙を破り、デュークはアマンダの後ろ姿に語りかけた。
その言葉にアマンダはゆっくりと頷き、その場から立ち上がった。
気丈なアマンダのことだ、泣き顔など見せたくないだろう――デュークはそう思い、彼女に先行してメデューサの巣窟から足を踏み出した。その次の瞬間だった。

「うっ……。」

苦しげなアマンダの声と、カラリ、とナイフの落ちる音が洞窟内に反射した。



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