05.
砂中の行軍は、予想を遥かに上回る苦労を必要とするものだった。
メノスの村からジャドの街までの道程は、砂漠の行き来に慣れたこの地方の人間の足ならば2日もあれば辿り着ける程の距離ではあるらしいが、砂に慣れない異邦人であるデュークにとっては、そうは行かなかった。
更に通常の金属よりは軽いミスリルで出来ているとは言え、鎧を隙無く身に着けている為、足取りは一層重かった。
この付近では、太陽が高く登った日中は、身動きが取れないほどに気温が上昇する。
デュークはメノスの村人の助言通り、昼は木陰で体を休め、主に夕方から夜間に移動することにした。
陽が陰れば人だけでなくモンスターの活動も活発になる様子だったが、日中の炎天下を行軍することを考えれば、まだ楽なようにデュークには思えた。
そんなジャドへの旅路の途中、思わぬ同行者をデュークは得ることとなった。
それを見つけたのは、メノスの村を出て2日目の夕暮れのことだった。
進めども変わり映えのしない砂の山の景色に方向感覚が狂い、知らぬ間に本来の街道からかなり反れた場所にデュークは居た。
一刻も早くジャドへ行き、アマンダに会わなければ―――焦る気持ちもあるが、より深く迷い込んでしまうのは避けるべきだ。そう判断し、分かる場所まで立ち戻ろうとしたその時、近くの茂みの中にある不自然な丸みが目にとまった。
「……?なんだ、これは……。」
槍を構え草むらをかき分ける。
すると、そこにあるのが巨大な卵であることが分かった。
それも人間の大人でも一人で抱えるには苦労しそうなほどの大きさの。
卵だとは思えないほどの大きさに、デュークがあっけに取られていると、目の前の球体が小刻みに動いた。
耳を寄せてみると、殻の内側からはコツコツと小さな音も聞こえる。
「…今、孵ろうとしているのか?」
すると、デュークの声に反応したかのように卵は大きく動き、ピシリと音をたてて殻の表面にヒビが入った。
そして亀裂から黄色いくちばしが覗き、殻をこじ開けていく。
カラカラと乾いた音を立てながら破られた殻は周囲に散らばり、中から澄んだ青い眼が現れた。
「鳥、か?」
唖然とするデュークの目の前に出てきたのは、大型の犬ほどの大きさの、淡い黄色の羽を持つ鳥だった。
生まれたばかりの幼鳥は、そんなデュークにはお構いなしに、身震いし、クエッと鳴いた。
この鳥はどうやら空を飛ぶのではなく、大地を駆ける種類の鳥らしい。
頑丈そうな両足にはがっちりとした爪があり、生まれたばかりながら今すぐにでも駆け出せる、と言った様子だ。
「そうか、メノスの村人が言っていたチョコボっていう鳥だな、こいつは。」
デュークはメノスの村人の言葉を思い出し、一人呟いた。
その声に答えるかのように、幼鳥はデュークの顔を見てまたクエッと鳴き声を上げた。
今では滅多に姿を見ることが出来ないと聞いていたが、まさかその鳥の誕生を見られるとは…道に迷ったのはついてなかったが、これに関しては運が良かったかな――デュークはそう思い、当初の予定通り来た道を引き返すことにした。
「じゃあな。元気で生きていけよ。」
デュークは幼鳥に声を掛け、その場を立ち去ろうとした。
すると、幼鳥はさも当然、といった様子でデュークの後ろをついて来た。
「こら、着いて来るな。お前の住みかはここだろう?」
諭すように話し掛けるが、幼鳥は首を傾げ大きな青い目をぱちぱちとさせるばかりだ。
デュークが走り出すと、その歩調に合わせるように幼鳥も後を追う。
さすがに乗用として持て囃された鳥らしく、生まれたばかりでも人の走る速度に難なく着いて来る。
しばらくして、デュークは溜め息を吐いて立ち止まった。
「お前、まさか僕を親だとでも思ってるのか?」
幼鳥は呆れ顔のデュークの周りをくるくると歩き回る。
その様子は正に親鳥に甘える雛そのものだった。
「……しょうがないなぁ。着いて来いよ。」
諦めたデュークがそう言うと、幼鳥は返事をするように二度鳴いた。
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