06.


不思議な黄色い鳥・チョコボを伴い、デュークは何とかメノスの村人から貰った地図に載っている目印のある場所まで立ち戻ることが出来た。そのまま、今度は方向感覚を失わぬよう注意しながら砂漠の道を進む。日中時折吹き荒れる砂嵐のせいで、街道はあちこちが砂に埋まり、歩くだけでも骨が折れる作業だった。モンスターにも何度か襲われた。砂地での戦いは足を取られ、普段の戦いより一層体力が消耗した。

チョコボの幼鳥は、そんなデュークを尻目に難なく後を付いてくる。
チョコボは砂漠に生える植物や、それらにつく昆虫などを口に運びながら軽い足取りで砂漠を進む。

「おい、あまり僕から離れるなよ。モンスターが茂みから襲ってきても知らないぞ。」

好奇心旺盛にあちこちを歩き回るチョコボにデュークが声をかける。
すると、話の内容が通じているかのように幼鳥はデュークの傍へと戻ってくる。
そんなチョコボの愛らしい動きは、張り詰めていたデュークの心を和ませた。
最初は仕方無しに同行を許したが、こんな旅の仲間も悪くないな……そう、デュークは思い始めていた。




チョコボの誕生から2日後の夕方に、デュークは砂漠の都市・ジャドに辿り着いた。

ジャドは砂漠の砂嵐から街を守るため、周囲に高い石の城壁を巡らせた巨大な城砦都市である。
砂漠では貴重な水の湧き出るオアシスを中心として発展したこの街は、砂漠を行き交うキャラバンの中継地点としての役割も果たし、交易都市として栄えている。
しかし、デュークが着いた時には、そのような活気が全く見受けられず、街は不気味な程の静寂に包まれていた。

「お前を街中に連れて歩くわけにはいかない。大人しくここで待ってろよ。」

デュークは街の入口で、幼いチョコボに話し掛ける。
すると、チョコボはわかった、と返事するようにクエッと鳴き声を上げ、近くの茂みへ姿を消した。
幼鳥が隠れたのを見届けてから、デュークは沈黙の街へと足を踏み入れた。



ジャドの街中はまだ陽が沈んでいないにも関わらず、ひっそりと静まり返っていた。
立ち並ぶ家々や店の窓は、内側の気配を悟られぬようにする為なのか、堅く閉じられている。

「まだ、あのビンケットの館の方が活気があったな……。」

デュークはバンパイアの司っていたかの屋敷を思い出し、呟く。
その小さな独り言すら、この街の陰鬱さに吸い込まれていくようだった。

「あんた、旅の人かい?」

デュークがひとまず宿を探すべく街中を彷徨い歩いていると、街の者らしい男が声を掛けて来た。
デュークは頷き、言葉を返す。

「ああ。宿を取りたいんだが、どこにあるか教えてもらえないか?」
「宿ならこの通りを真っ直ぐ進んだ右手にあるぜ。
 しかし悪いことは言わねえ、早い所この街から去った方が良いぜ。」
「一体何があったんだ?まだ陽も沈んでいないのに、こんなに静かなんて……。」

デュークが疑問を口にすると、男は辺りを見回し、他に人が居ないことを確認してから、声を顰めて言った。

「皆、デビアスを恐れてるのさ。デビアスってのはこのジャドの街の影のボスだ。
 奴が来てから、ここも住みにくくなったもんさ。
 奴に嫌われたが最後、得意の魔術で獣に姿を変えられちまうんだ。」
「そうだったのか……。それでこんな陽のある時から念入りに戸締りしているのか。」
「ああ。とにかく、何の用でここへ来たのかは知らねえが、あんたも気をつけなよ。」

そう言って、男は立ち去った。



デュークは街の男に教えられた宿を見つけ、宿泊したい旨を宿の主人に伝えた。
久しぶりの客だ、と主人は驚きながらも喜んで部屋を用意してくれた。

「そうだ、ご主人、アマンダという名前の赤い髪をした女性が最近来なかったかな?」

デュークが尋ねると、宿の主人は少し考え、首を横に振った。
「残念ながらそのような方はお見えになってませんねぇ。お客様自体、あなたが久しぶりですから。」
「そうですか…ありがとう。」
「人探しでしたら、この街の酒場へ顔を出してみてはいかがですかな?
 街はこんな状態ですが、あそこは普段と変わらず、活気に溢れていますよ。」

宿の主人は人好きのする笑みを浮かべ、デュークに進言した。
それもそうだ、とデュークは同意し、宿の主人に酒場の場所を聞くと、荷物だけを宿に残して酒場へ足を向けた。



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