09.
翌朝、まだ夜も明けきらぬ前に、デュークは沈黙の都市を後にし、その進路を南へ向けた。
デビアスに面会した後、すぐにでも砂の迷宮へと発ちたい気持ちはあったのだが、慣れない砂漠を旅したことと、体がまだ本調子ではなかったこと、そして何より、かの男との対面で予想以上に体力が消耗してしまっていたらしい。
宿に荷物を取りに行くだけのつもりが、部屋に入った途端堪えがたい疲労感がデュークを襲った。
このままの状態でまた砂漠を旅するのは自殺行為だ…そう判断したデュークは、宿の主人に早朝に起こしてもらえるよう言付けると、寝台に倒れこみ、眠りについた。
恐らく時間としては幾分短かったであろうが、深い眠りにつけたようで、宿の主人に起こされた時にはすっかり体は軽くなっていた。用意された朝食は簡素だったが、食物を噛み締めるごとに、体力が上げ潮のように戻ってくるような気がデュークにはした。
城壁の外へ踏み出すと、傍の茂みからデュークの足音を聞きつけたチョコボが飛び出してきた。
たった半日離れていただけだが、デュークにはチョコボの姿が一回り大きくなったように思われた。
チョコボは寂しかったのだろうか、しきりにデュークの足元に纏わりつき、頭をすり寄せる。
「待たせたな。僕はこれから、砂の迷宮へ行く。…また、お前の世話になるか?」
デュークはそう言いながら、幼鳥の頭を撫でてやった。
するとチョコボは、当然だろう?と言いたげに、一声鳴いた。
ジャドから南へ。
砂の迷宮が隠されるというオアシスへ。
南へ進むにつれ砂の量は減り、代わりに荒れた土地が続くようになった。
まだ普通の地域よりは砂が多く足は取られたが、デュークにとっては砂漠よりははるかに進みやすく、足取りも軽くなった。時々休憩や仮眠を取りつつ進み、ジャドを出てから一昼夜で砂の迷宮があると思われるオアシスまで辿り着くことが出来た。
オアシスに着くと、まずは近くの池で砂にまみれた手足を洗い、存分に水を飲んだ。
一息ついたところで、水際に腰掛け、デュークは周囲を見回した。
「……洞窟らしいものは見当たらないな…。」
なだらかな砂丘の間にあるこのオアシスからは、岩肌は何箇所か見られるものの、人が入れそうな隙間は見当たらない。
やはり砂の迷宮は隠された場所らしい。
オアシスの周辺はやしの木にぐるりと囲まれており、この場所は砂に埋もれることがないようだ。
それがどこか、人為的なものを感じさせた。
ここに、砂の迷宮への入口はある。
そう感じられるのに、それらしい気配が無い。
「参ったな…。」
ここに来て手掛かりが無くなってしまい、デュークは頭を抱えた。
「クエッ」
聞きなれた鳴き声にふと顔を上げると、チョコボは少し離れた場所に生えた二本のやしの木の下に居た。
チョコボは熱心にその木を見上げ、二本の木の間をうろうろと往復している。
「やしの木……8の字……まさか?」
ふと、ジャドの酒場でキバを与えた少年の言葉を思い出し、デュークは立ち上がった。
そして二本のやしの木の周りを、八の字を描くように歩いてみた。
チョコボも後を追い、真似して歩く。
すると、一周し終わった時には、やしの木の近くの岩肌に今まで無かったはずの穴が開いていることに気付いた。
「……本当だったんだ……。」
デュークは唖然とし、呟いた。
あの少年の言葉を信じていなかったわけではないが、このような手順を踏むことで入口が現れるという洞窟の存在が信じられなかったのだ。
一体誰が、このようなことまでして、この洞窟の存在を隠したかったのだろうか?
「ともかく、これはお前のお手柄だな。ありがとう。」
デュークはまだ戯れにやしの木の周りを廻り続ける幼鳥に礼を述べた。
そして、ここで待ってろよとチョコボに声をかけ、単身砂の迷宮へと足を踏み入れた。
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