どらやき。


りとるれでぃ。 第二話





「う………」

目の前で男の子が泣いてる。
鼻と口から血が出てる。
よだれや鼻水もでてる。
でもそれを拭うこともせずに泣いている。
…泣いてるっていうか、唸ってるってのが正しいのかな。

(…おかしいな、男の子はもう少し丈夫って聞いたんだけどな)

私の力でも十分だなんて………


………女の子より弱いなんて…生きてる意味無いんじゃない?




こんな事はになったのはほんの20分前。
…こうなるのが運命だとしたら事の発端は1週間前ね。
学校の運動場でお昼休みに男の子がサッカーをしていたの。
楽しそうに。数は8人くらいかな、半分くらいは隣のクラスの子だったの。
それでうちのクラスのヨウジ君が蹴ったボールが図工室の窓ガラスを割っちゃったの。
すっごい音がして、渡り廊下で見てた私や他の子にも聞こえたの。
もちろん職員室の先生にも。
みんなそれがわかったみたい、だからみんな走って逃げちゃった。
先生が来た時は誰もいなかったの。

だから、私がわざわざ図工室まで行って言ってやったの。
誰がやったか、ってね。
何故先生に報告したか。
簡単な話、このままだと帰る時間が遅くなっちゃうのは確実、
うちの担任は少しお説教が長いの。
私たちは関係ないのに、わざわざ全員残してお説教するの。

(ホント、迷惑な大人よね)

あんないらない大人の手助けなんて、気持ちが悪いけど
最終的には私の為になるなら仕方ないわ…彼女のくだらない正義
を手伝いましょう………
それで犯人のヨウジ君以下4人のクラスメイトは職員室にお呼び出し。
私は綺麗に下校時刻ぴったりに帰れましたとさ。


で、それで終わらないのが男の子……男の子?
というより人のお約束というか習性ね。
やられたらやり返す、反撃、カウンター、復讐。
つまりはイジメ。
わかりやすい事。昨日の夜の間にわかってたから驚くこともない。
天気予報通りに雨が降った、そんな感じかな?

だからロッカーや机が色んな事になってても気にしなかった。
上靴も家から持ってきたし。
上靴隠しと机隠し、それとロッカーの汚れはお決まり、お約束、セオリー、マニュアル。
捻りが無い……これでは今日から君へのイジメスタート、と宣伝してるようなものじゃない。
あえて靴や机をそのままにして少しずつ、少しずーつするのがいいのに。
じわじわ、気付いたら…ううん、気付かないほうが楽しいわ。
一歩一歩、知らない間に選択肢が減っていって、後ろに1つしか道が残っていなくて
後ろを振り返ってビックリするの。 そしてここ数日のことを振り返ってやっと気付くの。
でもその時はもう遅い。残りの道は1つだけ、後にも先にも幸せは無し。
在るのは2つ。壊れるか、死ぬか。

それはそれで、される側としても攻略しがいが在るのに…
今からこれじゃ…………どうでもよくなっちゃう。

だから少しハードルを自分で上げてみようと思う。
まず、先生には話さない。アレはもういらない。
そして、友達にも話さない。かえって邪魔。
最後に、主犯と思われるヨウジ君以外は手を出さない。
……終わるまではね。


それからはもう教科書通りのイジメのメニュー。
机に1冊だけドリルを残せばトイレに捨てられ、体操服を残せばマジックペンで殴り書き。
まるで私が操縦してるみたい。

簡単な子供………


で、そんなわかりきったイジメが来ても全然感慨も無く、当然涙も無ければ怒りもない。
登校拒否? 退屈という意味ではそうかな…
とりあえず感じたのは退屈、がっかり。

(つ…つまんないー……)

もういいや。


「ヨウジ君…ごめんね。もう飽きたからやめていいかな?」


 や め て い い か な ?

いじめられている人がいじめっ子に向かって吐く言葉じゃない。
でも私は本気。だって…ホントにつまんないんだもん。
一度見たアニメでもここまでつまらなくないと思う。

多分それに怒ったんだと思うの、ううん、絶対怒ったの。
私のほっぺをグーで殴ってきたの…
痛かったわ…最初からこうしていたほうが良かったと思えるくらい…
私を殴ったのなんて…お姉ちゃんくらいしかいなかったのに…

……許せない。

ヨウジ君のくせに…ヨウジ君の程度で……


………………ガキのくせに…


ガッ


最後の最後で、ヨウジ君はイジメという行為に成功したといえる。
私を怒らせて、困らせて、…結果として私のココロに多少なりとも傷を負わせた。
ただし、当のヨウジ君は血を流して床にうずくまってる。
………大変…服に血が着いちゃった………

「お姉ちゃんに怒られちゃう………じゃない」

ガッ

はぁ…もぉー……お姉ちゃん怒らすと怖いのにー。

ガッ

ガッ

ガッ!!!



「はぁ…はぁ…はぁ……」

はあ…イスってやっぱり重たいなぁ。
私いつも箒の係だから机とかイスって運ばないんだよね…
明日から机運びもやろうかな…


それから私はあの担任に居残りを強要させられ、ヨウジ君は病院に行った。
……最悪だ……残りたくなくて始めたのに………結局残ってる。


『あなたはいつも詰めが甘いの。まぁ、そこが可愛いんだけどね…』


お姉ちゃんのお説教が頭から出てくる。



それから1時間、彼女はただただ悩み事とか青春がどうとか…
つまらない事を渋々聞いてた。




そして帰宅。




「あなたね…私は次に服を汚したら怒るって言ったわ……
その服、すごく高いの…どうしたらいいかしら?」


そして私はお姉ちゃんにおしおきされることになった。





ヨウジ君、明日…許さないから。




でも、その日からヨウジ君は学校に来なくなった。