どらやき。


りとるれでぃ。 第四話

りとるれでぃ。 @ C o l o r - Y e l l o w






ザー………



今月に入って7度目の雨…

今月はまだ9日…つまりほぼ一週間降りっぱなしである。


ゴロゴロ…


そして雷。

つまり今月に入っての雨はポツリポツリのレベルではなく、ザーザー降りの雷雨ということである。

だけど私はこの雷雨というものが好きだ。
そもそも雨が好きなんだ。
第一に私はインドア派なので天候自体に行動は左右されないのである。

そして私は、晴れた青空が苦手だ。
理由は無い。
ただ生理的に苦手なのだ。

だから曇り空や雨は好きだ。
何より静かになる。

では何故好きな天気の日にテンションが低いのか。
理由は簡単。

「アリスの家も停電するんだね〜」

私は、青空よりも、トマトよりも、リアクションの低いハクラよりも暗いのが嫌いなのだ。



「参った。これじゃあ何もできない」

私の屋敷に遊びに来ていたハクラは楽しそうに言った。
遊びに、というより避難に近いか…何でもまた姉を怒らせたそうで。
昨日から部屋に泊まり込んでいる。

「こんなに大きいんだから停電なんてしないと思ったのに」

「私もそう思ってた…迂闊……」

私は暗いのが嫌いだ。それを両親もメイド達もよく知っている。
だからこの屋敷においてこと明かりはいつも点いている。
停電なんかへっちゃらだぜ……な作りだと父様は言っていたのに……

「ま、いつか点くか」

「なんであなたはそんなに楽しそうなの……」

大きな部屋で2人ポツンといるのに。
電気がないから何も見えないし何もできない。
怖いと思わないのはまぁいい…私が極度過ぎるんだろう…
でも普通はつまらないと思うだろう、楽しくはないはずだ!

「そうかな?」

「じゃあ何が楽しいのか聞きたいね」

ん……
と、少し考えてから…というより言葉を選んでる感じ。

1分くらいして


ニヤリ


!?


「だってアリスってば」

言葉をゆっくり紡ぎながら私を胸元に抱き寄せる。

こういう時、ハクラは無駄なまでに大人びて見える…無駄なまでにだ。

「今すごく…かわいいんだもの」

スッと、ごく自然に顔を近づける。
そのままゆっくりと私の死角に顔を隠す…


かわいいよ、アリス。
手足を動かないようにして本当のお人形さんにしてしまいたい。
毎日毎日、朝起きて一番に私に微笑んでくれるの。
そして学校から帰ってきてオカエリって微笑んでくれる。
お姉ちゃんにおしおきされた後も、学校で嫌なことがあった後も…

『身を挺して私を想ってくれるの』

「でも、そんなアリスはやっぱりつまらないわ…」

逆らって、牙をむいて、私と対等であろうとする。
弄りがいのあるアリス…
アリスであろうと賢明なアリス。
そんなアリスと付き合うから楽しいのだ。

眼帯に優しく口を這わせる…

もう以前のような痛みは感じなくなった。
若干夢で見る程度だ。

「ん…んっ……んーーー……」

ゆっくりと、目玉の位置を探すように眼帯の上から唇で優しくなぞる。
でも、その穴にはもう何もない。
あなたが…ハクラが抉り取ったのよ?

「くすぐったいわ…ハクラ」

「ん…アリスを実感してるとこ……我慢してよ」

「私の何を実感しているの?」

「人間味? とかそんな感じのものかな」

「何かが欠けているってのは、それだけで人間らしい…んだって」

お姉ちゃんの受け売り、と付け足す。

「アリスは綺麗で可愛くて…静かで…こうやって私にさせるがまま…
それって…私の家の人形達と同じってことにならない?
だからこうやって……確認するの……」

「でもこれは…ハクラがつけたキズ…」

「そう…私が付けたキズ…」


もうあんなことはしないわ。
アリスにだけは……

「ごめんね…」

「何だ、ハクラも結局暗いのが怖いんじゃない…」





「どうしてそう想うの?」





「いつものハクラはこんなに優しく愛してくれないわ」

そうかな…

絶対そうね。

あはは、そうかも…

もうやる事もなくなった、わざわざ口に出す程の会話も。
だったらもう眠りにつこう。ゆっくりと…
明日には2人の嫌いな闇も消えてるだろう。


2人は静かに眠りにつく。


〜終わり〜










 

= あとがき =

新キャラ。
『亞璃守 アリス』登場です。
ハクラの対角にして平行って立ち位置の子ですね。
うち的にハクラより好きだったりしてます。

―葉桜