どらやき。


りとるれでぃ。 第五話








突然だが、私のクラスにはおかしな…いや、大変な変人がいる。
ぃゃ、いたと呼べるがその辺はどうでもいい。


私のクラスは良くも悪くも平凡なクラス。
問題を起こすわけでもなく、かといって学年一の秀才がいるわけでもない。
足の速い子もいないが遅い子もいない。
ぶっちゃけていうなら、つまらないクラスというところだ。
しかし、その考えは一瞬もものとなる。
そして、今までつまらないと考えていた平凡がとてつもなく素晴らしいと思い知らされるのだ……。



彼女の名前は『亞璃守 アリス』。そのまま読んで如くありす・アリス。
名字で呼ぼうと名前で呼ぼうとありす。
難しいし読みにくいし珍しいけど、ありすアリス。
成績は中の下。運動神経は皆無。自己主張0、発言力皆無。
つまり言うなればお部屋のお人形状態。
服装のせいもあるのかまるで西洋の人形みたいな顔立ち。
静かに本なんか読んでたらそりゃあもう絵になる絵になる。
さぞ男の子にもてるのだろうと思うがこういう奇人変人はえてして誰も近寄らないものだ。

そう、どこかの『悪魔』以外は。

隣のクラスの女子その1。有名度は恐らく学内トップクラス。
成績優秀、運動神経抜群、ただし自己主張が最悪なまでに激しい。
噂によると遠足の議論か何かで楯突いた男子を笑いながら椅子で殴打したらしい。
友達が見ていたのだから本当だろう。
とにかくそんな変なヤツは変なヤツらしく、変な行動に出た…私は今何回変と言った?

とにかく、そんなヤツと出くわしたのだ、亞璃守は。




「おはよう」

「おはよぉー」

朝、いつもと変わらない教室風景。
……だったのは本当に数分だけ。
教室のドアからひょこっと飛び出た頭。

「……」

キョロキョロと教室の中を見渡す…
この学年では悪い方の有名人、『羽倉 ハクラ』
柔らかい言い方をすればいじめっ子。
だけどやってる事はえげつないの一点張り。
男子だってあいつにケンカは売らない。
売ってあいつを殴ったりしたら……

(陰湿というか執念深いというか…)

「ねー」

と、考え事をしていると目が合ってしまった。
私は露骨に嫌な空気全開で、それでもとりあえず応答することにした。

「おはよ、羽倉さん。何?」

「え〜と、亞璃守さんってどれ?」

どれって…まるで物だな。

「亞璃守さん?」

少し…というかかなり驚き。
彼女の口からあいつの名前が出るとは…
まるで正反対な性格だし…何より空気みたいな存在の生徒なんてこいつからしたらどーでもいいって感じだろうに。

「ぁー…あの端っこの席にいる子がそうだよ」

「ぉー、あ・れ・か。アリガト」

そういうと軽いステップで亞璃守の席に歩いていく。
あの2人知り合いだったのか?
でもさっき羽倉は席聞いてたからなぁ……



「おはよう。亞璃守さん」

「…おはよ」

机の前まで来て第一声。
羽倉は機嫌良く、亞璃守は本に目を落としたまま。
度胸があるのか興味がないのか…
関係のない第三者である私から見れば2人はかなり大物だ。

色んな意味で…

『亞璃守 アリス』

よくわかんないけどものすごい大会社の令嬢。たまに登下校が車。
お手伝いさんは結構いるみたいで着てる服も身のこなしもお嬢様って言葉がこれでもかってくらいに似合う…

まぁその代わり人付き合いが恐ろしく無いね。
これもお金持ちのお約束かなー…
興味の接点も全然無い。
テレビもゲームもマンガも…

最初はみんながんばって話をするんだけどね…
続かないキャッチボールって壁に当てて跳ね返すだけの行為よりつまんないんだ。
そして結局今みたいに本を読むだけの休み時間になる。

『羽倉 ハクラ』

一言で問題児。
でもガキ大将とかより質が悪いのは頭が良い事。
考えて考えて行動をする。
そして自分が子供ってことを利用して言い訳をする。

更に凶暴。
小学生だって危ないってわかってる事だって笑いながらやっちゃう。
前だってクラスの男子の頭をイスで叩き割ったらしい…
まぁ多分噂が大きくなっただけだと想うけど。


まぁ見事に静と動。正反対。
……強いて言えば『浮いてる』って事かなぁー……
変態同士、気が合うのかも知れないけど

「本を返して話しかけないで教室戻ったら? チャイム鳴るわよ?」

「話、しない?」

「会話ならしたわ。さ、本を返してそのまま回れ右して教室へ帰って?」

うわー…一気に早口で拒絶したよ亞璃守。
すごい喧嘩腰。

「んー。じゃあさ昼休みに屋上来て」

「何で?」

「でないと毎回休み時間に来る」

「……あなた友達いないでしょ」

「一人もいないよ?」

………何この会話、すごく恐いんだけど。
亞璃守は不機嫌さ全開。
羽倉はずっと笑顔だし。
羽倉がすごく恐いんだけど………

「来る? それとも来ようか?」

「……行く」

「ん♪ 待ってる」

それだけを交わして羽倉は自分の教室に戻った。
そしてこの後私は知った。

これだけ会話をしていて、この2人…
お互いの名前すら曖昧なほどに初対面な連中なんだと。




〜つづく〜










 

= あとがき =

亞璃守との初対面。その1。です。
ちなみに語ってくれた第三者は、、生徒Aさんです(ぁ
時間的に『その4』はかなり後の話だったり……

―葉桜