どらやき。


 SUMMON NIGHT SS #05

―消 え な い 傷 痕―



彼女と行動を共にするようになって気が付いた。
彼女は『自分の身体を何とも思っていない』と。

「アズリアッ!!」

数時間前のはぐれ召還獣との一戦、あれから彼女は肩を庇いながら歩いている。
注意しないと見落としてしまいそうなくらい些細な動き。
でも私にはわかる。ずっと見てきた私、には。

「……何だ、アティ」

昨日から眠いのだ…と、適当な理由で私を遠ざける。
なるほど、顔にはいつものキリッとした構えは無く、身体もいつもの刀身のような美しさはない。
全体的に疲れているといった感じ。
でも、それらは全て私の推測にも当てはまる。
いや、恐らくこれは確信。

「肩を見せて下さいアズリア。先程の戦いでケガをしたでしょう」

それも思い違いでなければ私を庇って………
彼女がケガをするのは珍しい。
真っ向から戦うものの彼女のスタイルは『先手』『見切り』『カウンター』だ。
他の前衛のように耐えて反撃というタイプではない。
それでも、前線にいればケガをすることは当然ある。
人によってはそれを勲章というだろう。
アズリアは戒めと言っていた。それを聞いた時私は悲しい表情をしたのだろう。
『軍人なのだから』と言い直した。
それ以来その話題には触れていない。
…それでも、そうだとしても…私はイヤだった。アズリアが傷つくのは…

「だから何なのだ? 私のケガなどいつものことだろう」

彼女は何を今更という風に言った。

「でも、あのくらいの敵ならアズリアは無傷で済んでるはずです。
その傷は…私を庇ったからで…」

「気にするな」…彼女は言った。
「後衛を守るのは前衛の役目だ」とも。

「そんなケガでどこへ…」

歩き続けようとする背中に問いかけた。
今の私にはそれしかかけれなかった…するとまたも、何を今更とこっちを向いた。

「あのなぁ、私の家を何処だと思っている……?」


そうだ。彼女の家はリペアセンター、治療器具もあるしクノンだっている。

「まったく…私よりお前の方がおかしいぞ」

そう言い残し、彼女は歩いていく。やることもないので私も…
本音を言えば、今は何をやっても上手くやれる自信が無い。
授業も掃除もお手伝いも。



リペアセンターに着き、私情を説明するとクノンはすぐに治療室にアズリアを通した。
私も後に続こうとしたが彼女に止められた。

「お前がいるとうるさい」

……だそうだ。
仕方なく外のソファに座って待っている。
外の天気は良く、窓から暖かい日差しが私を包み込む。
そのまま眠ってしまいそうになった時、ドアが開きクノンがでてきた。
ケガ自体はそんなに深くないが場所が場所なだけにしばらくは安静とのこと。

「私はアルディラ様に呼ばれていますので後はお願いします」

それだけを言い残し、クノンは廊下の奥へ消えていった。
私もクノンが消えるのを見てドアをノックし中に入る。

「クノンか、随分と早……アティ!!」

「大丈夫ですか、アズ……リ…ア…」

部屋の中でアズリアの姿を見た時、私は絶句した。
…アズリアは肩の治療と所々に隠していたケガの治療で上半身は包帯だけだ。
欲情した? そうではない。
いきなりの女性の裸に? そうではない。

なんて…多い…キズアト……

肩、胸、腕、背中…おそらくは下半身も。
私の知らない所で…彼女は傷ついていた…私の知らない所で…苦しんでいた。
そしてこれからも傷ついていく…悩んでいく…苦しんでいく…
私は、それを知らなかった。

「お前にだけは…知られたくなかったんだがな…」

そんな顔をするから…と。
今なら私は自分がどんな顔をしているか分かる。
顔面蒼白で涙目なのだろう。

「お前が悲しむことはない。
これは私が行ってきたことへの戒めなのだ……」

罪人は…裁かれて当然なのだ…
そんな彼女の自虐的な笑みが、痛々しくて、悲しくて…
私はアズリアを抱きしめた。

「ア……ティ…」

「まだ…苦しいんですね。まだ、アズリアは……」

「当たり…前だろう…」

彼女は泣いていた。

「私がしてきたことを、どうすれば許されるというのだ…」

彼女はずっと…苦しんできた。
少女の時から…
軍人の時から…
彼が死んだ時から……
そして、それは今もずっと彼女を苦しめている。

「こんな傷をいくらつけたところでどうにもならないことはわかってる」

私の服を強く掴んでいた、彼女の手が緩む。

「しかしな、身体の傷が増えるたび…傷で身体が悲鳴を上げる度に…
気が少しだけ楽になるんだ…ははは…」

なんて…こと…
彼女の心は、こんなにも壊れかけていたんだ…
私は思い違いをしていた。
彼女は強いと…挫けないと…
間違っていた。彼女は強くなんか無い。
強く見えるように鎧を着ていただけ。
それを脱げばただの女の子なんだ。
そして、それを壊したのは…私だ。

「アズリア…」

私はちっとも彼女をわかっていなかった。
どうすることもできない…ただ、こうして抱きしめるだけしか…
私がいくら言ったところで彼女は自分を許さない。

私の言葉は…届かない……

悔しい、苦しい。
彼女を救えると、彼女の笑顔を取り戻せると…
傍にいると………その想いが、届かない。


私も泣いた。


自分の無力と彼女の思いに……。






〜終わり〜






 

= あとがき =

……ハッピーにするつもりがダークに…
どこで間違えたんだ(゜−゜)
…できればこの後の話を書きたいですねぇ。。

葉桜。