どらやき。


そして私は・・・








『一日の複写が、百年続こうと構わない…これ以上傷つかないのならば…』




「ねぇ、魔里沙…」


紡いだ言葉は返ってこない。

静かに部屋の中に響いて、外の雨の音に掻き消える。


「ねぇ…魔里沙………」


これで8回目。

この部屋には1人しかいない。

1人と、数体の人形だけ。

彼女以外は誰もいない。

もちろん、魔里沙はここにはいない。



3時間前。

魔里沙がいきなりやってきた。

彼女にしてみればただのきまぐれだった。

知り合いの家を横切ったからついでに挨拶をする。

そんな感じ。

彼女は私を理由に動いてはいない。

それでも、魔里沙の頭の片隅に私を置いていたことに……

小さい女だと自虐しつつも嬉しく感じてしまった………

たわいもない話。

魔里沙が私に軽口を叩いて私が言い返して、何も変わらないいつものやりとり。




それで私は満足だった………

満足…することで私は立っていられるのだ。

これ以上踏み込めない…踏み込みたくない………

その先にはきっと、私が立ってられる場所は無い。

そこは底のない闇と同じ。

彼女の隣りは何時だって、あいつがいる。

踏み込んだ先にいていいのはあいつだけ。

私が何かしたところで、魔里沙の心は動かない。

だから、『いままで通り』をこれからも続けていくのだ。

そうすれば、少なくてもこれ以上傷つかなくていい。




そう、私は……変わってしまうことが何よりも怖い…

魔里沙は優しいから、例え私が踏み込んでも今までのように接してくれるだろう。

でも、私はそうはいかない……そんな風にできない……

泣き崩れて…叫んで…………魔里沙を困らせる…

いっそ死んでしまいたいってくらいに滑稽な姿を見せてしまう。

そんなの耐えられない……………怖い。

何より、魔里沙に嫌われるのが………

魔里沙の一番でなくていい………好きって言われなくてもいい……

だから、嫌いにならないで…

毎日会いたいなんていわない。触れたいなんて思わない。

たまにでいいから、無邪気に軽口を叩いてくれさえすればそれでいい。




私は軟弱な言葉を吐いて、『今』という日に溺れる。

私は臆病な言葉を吐いて、『進む』ことを止める。

私は綺麗な言葉を吐いて、『傷つく』ことから逃げる……



意地を、誇りを、身体を…心を

他の何を捨てても、あなたの目に映るのならば



一日の複写が、百年続こうと構わない。



〜終わり〜










 

= あとがき =

ひるメロどらまてぃっく!!に掲載されたSSです。
大変遅くなりました。

―葉桜