どらやき。


レミリアの孤独思考








ゴンゴン…



重たい扉を叩く。
扉の材質は木ではなく鋼鉄。
飾り気も無く、綺麗に磨かれているわけでもない。

ただ、外界との遮断という目的のために特化された扉。
『扉』という概念においては正しい。


「――――」


中から返ってくる言葉、否…音。
部屋の中の声が音としか認定できないほどの隔離能力。
それは扉だけではなく、壁もそうだということを安易に想像させる。
そう、この扉の向こうは、この世界から隔離、排除された空間なのだ。


「入るわよ」


その部屋は館の奥に。
その部屋の中を知っていない限り近づきはしない。
近づくとすればよほどの研究熱心か愚かな欲に急かされたか。
この部屋はそれほどの『辺境』に位置づけする。

館の主、レミリア・スカーレットはよくこの部屋に訪れる。
中を、中にいる少女を、妹…フランドール・スカーレットを『確認』する為に。


「フラン?」

「お姉様!」


目が合う。
部屋の主、フランドールは床に座り込み、人形と戯れていた。
それはパチュリーに頼んで友人の人形師に作ってもらった『本当』の人形だ。
フランドールに与えた人形は今月に入り2体目。
以前、小悪魔に調達させた人形はダメだった。

フランドールの興味をそそるに十分ではあったが脆すぎた。
『出来』が悪かったのか。
それは5日と経たずおもちゃとしての機能を亡くしてしまった。
フランドールに与える人形というのは『オモチャ』つまりは玩具である。
彼女の意のままになり、彼女の些細な、だけど乾く事のない欲求心を満たし続ける事が目的である。
なまじ、『活きがいい』のも考えようだ。


「こんどのソレは気に入ったかしら?」


フランドールの手元を見て囁く。
部屋は完全な密室なので些細な声で十分響き渡る。


「うんっ。とても可愛くて好き」

「そう、それは良かったわ。でも今度は簡単に壊してはダメよ。
前のと違うとは言え片づける咲夜の苦労も考えて」

「はぁーい」


フランドールは少し頬を膨らませつつも嬉しそうに返事をした。
それはレミリアが本気で怒っているわけではない事を知っていたから。


「お姉様」

「何?」

「最近よくここに来るけど…どうしたの?」


少しの間。
妹にとっては素朴な、表裏の無い質問。
だけど、その投げかけにレミリアの動きが止まる。


「なんとなく、よ」

「なんとなく?」

「そ、ただなんとなく…フランに会いたくなっただけ」

「そっか、へへへ」


屈託のない笑顔。
その会話が最後。時間にして僅か数分。
レミリアは、本当に妹の顔を見に来ただけなのだ。


「じゃあね」

「おやすみなさいーお姉様」

「おやすみ、フラン」


私は元気だよ、お姉様。

ゴン……
重たい扉を閉める。
最後の言葉は彼女の耳に届いたのだろうか…
また、来た道を静かに戻る。



(ゴメンナサイ…フラン)


大切な、誰よりも大切な…たった一人の妹。
たった一人の妹の大事な家族。


あなたを亡くしたくない…
あなたを護りたい…
あなたを悲しませたくない……


だが結果として最良と判断した方法は彼女たちに深い溝と悲しみだけを与える。
古い考えと…狂った思い…
袋小路の思考は何時まで経っても抜け出す事はない。
例え、数百年という時があろうと…


「ふぅ……」


部屋に戻ってきて、深い椅子に腰を下ろす。
頭に浮かぶのはフランの事ばかり。
何時の頃からか、孤独という感情に恐怖を抱いた事があった。
いつからかは覚えていない…多分ずっと昔…



だが私にはフランがいた。

フランだけがいた。

フランがいる…それは私にとって大きな安心を生む。

だが…フラン『しか』いないという恐怖が…

私の孤独を増大させる。

いない恐怖は孤独を生む…

いる不安もまた孤独となる。

妹を護ろうとする気持ちも、保身を第一とした疚しい事でしかない…

私は、大事な妹への想いすら…自信がなくなった。

『どうすれば…』

この答えは返ってこない……

今まで、何時だってそうだった。

私の味方は、常に私だけ…





それから

この館に『友』を呼ぼうとしたのはすぐのこと。

見かねた『友』が来たのも…

そして、もう一人、『家族』が増えるのは

少しだけ先の事。





〜おわり〜










 

= あとがき =

気分悪くなって倒れた時枕元に殴り書きしたお話。
(・x・)魂削った日の事でした(ぉ

―葉桜