どらやき。


十六夜 咲夜ノトアル夜・4








世界は、嫌いだ。

あの世界は嫌い……大嫌い

神も、母も、父も…世界が慈しむ全てが嫌い。

そうだから…あぁ、だからこそ…

私はここにいるのかもしれない



−十六夜 咲夜ノトアル夜4−



人の身体というのは意外と曖昧だということを思い知った。
驚く程強いと思えば、予定より早く使えなくなるのだ。

人は水を飲まずとも3日以上は生きられると聞いたことがある。
水と食べる物があれば、人はかなり生きられる。
身体を休ませれば、ちょっとやそっとの睡眠不足など体がだるく感じる程度で済むと思っていたのだ。

だというのに、私はあんなに大事な局面で、空腹と睡眠不足により、意識を失ったのだ。
情けない……と思う反面、どうしてこんなについていないのだろうと悲しくなってくる。

崩れ落ちる最後の瞬間、私は確かに見た。
漆黒の翼…真っ赤に燃える瞳…禍々しい程に佇む満月に負けない圧倒感…
そして、美しい……少女の姿…

あれは…何だったのか。
夢だったのか、幻だったのか……まさか妖精のまやかしか?

………
……


だけどもし、あれが真実に見た光景ならば存外、私の願いは簡単に叶うのかも知れない。




「………っ」

目が覚める…最初に映ったのは豪華なシャンデリア。
次に映ったのは真っ赤な天井。
どうやら私はあの時倒れ、誰かの手で、何処かに運ばれたらしい。
上半身を起こす。

全身に激痛が走る……
どうやら、あの時は気付かなかったが相当身体に負担を掛けていていたらしい。
指先一つ動かすだけで筋肉痛が襲ってくる。
だが、この痛みは確かな……私が今を生きているという証だ。
そう思うと、嬉しいと思うが……まだ死ねないのかという不安に駆られる。

「おはよう」

その時、部屋の隅から声をかけられる。
慌ててその方向に振り向く。その先にいたのは一人の少女。
紛れもない、あの時の…少女だった。



少女の口から紡がれる言葉は、不思議で、信じがたく、そして、真実であった。
結界に包まれた幻想郷、霧に包まれた紅魔館、妖怪、妖精、そして吸血鬼……

「信じられない割りには落ち着いているのね」

とりあえず一通りを話し終えた少女の第一声はそれだった。
確かに、と自分でもそう思う……
今、目の前の少女から紡がれた言葉は…信じ難い事ばかりだ。
妖怪だの、妖精だの……果ては結界に包まれた世界。

「信じろと言われてもとても…」

「そうね、でもあなたはそれを受け入れようとしている」

「目の前のあなたがいる限りは」

そうだ。
事を語ったのがこの少女だからこそ信じる気になっているのかもしれない。
まるで全てを見透かされていそうな深紅の瞳…幼さの裏に見え隠れする妖艶な顔……
彫刻のように真っ白な肌、そして……背中の翼。
それはどうしようもない程に完璧な、人外の象徴。

だけど、訪ねてしまう。本当なのかと……
いや、確認したいのだ。本当に、

「あなたは、悪魔ですか?」

「否定はしないわ」

そうか、と。心の中で繰り返す。
やはり、あの夜の光景は見間違いではなかった。
だったら……やっと…

「あぁ、言っておくけど」

「……?」

「殺さないわよ?」

「っ!?」

少女はニヤリと八重歯を見せる。
まるで仕掛けた悪戯が成功した時の子供のような、笑顔で。

「あの時のあなたの容姿、それとさっきから魘されながらに紡ぐ言葉、それらを踏まえて考えると……」

まぁ、所詮想像は想像だけどね、と少女は最後の言葉を濁した。
私は、ただ何も感じていないように装うだけ。
別段隠すような過去でもない。
言って同情されるのが嫌だから言わないだけだ。

まぁ、同情する奴などほとんど居らず、大概が恐怖の対象として見るわけだが……

「それで」

「……?」

「これからあなたをどうしようかしら?」




「……は?」

「暇なの、私。どう?何か良い案無いかしら」

…………言葉が出ない。今なんと言った?暇?
暇と言ったのか……

「えーと……もしかして私をここに連れてきたのは……」

「ええ、暇だったから。人間自体ここまで来るのは珍しいし。だから、あなたを殺すとまた暇になってしまう」

この笑顔を見る限り、本当なのだろう。
本当に、唯の気まぐれで私を助けたのだ。
そこには私への何の不純な思いも、同情も何もない。
清々しい程に……

「はは…はははは……」

「あら、そんなに可笑しいかしら?」

「だって……そんな簡単な理由で……」




「あなた達人間は一々気難しく考えないと生きていけないのね」




「あはは……ぇ?」

「人生は常に二択よ、するかしないか、イエスかノウか。積極的か受動的か、理由なんて過程の一つに過ぎないわ…だったら」




「ただただ、想いのままに。生きたいから生きる、死にたいから死ぬ。
何故、死ぬのか。何故生きてはいけないかなんて誰も気にしないわ。
大切なのは、『今、結局あなたはどちらを選ぶのか』それだけよ」




だから、あなたはバカなのよ。

私にはそう聞こえた気がした………それは、私の考えとは相反する間逆の考え。
私の全てを否定する……理由を付けなくては生きていけない。
人間の生き方を……

「で、あなたはどうしてくれるの?言っておくけど、今のあなたにはなぁんにも無いわよ。あるのは二つ。私の退屈を紛らわせるか、しないか」

「…私に選択させてくれるんですか?…」

「提案を聞くだけよ、決めるのは私」

少女は何処までも楽しそうだ。
一言一言で私がどう反応するのか、そしてその反応を見て楽しんでいる。
何も知らないとしても、少女は…私を私として扱っている。
異端でも、殺戮者でもなく…一個人の私を見ている。
そしてその理由に、同情は無い。

この気持ちは、何なのだろうか……嬉しい、ではない。
かといって嫌でもない。
強いて言えば、むず痒いのだ。

「では、悪魔に騙された可哀相な人間の話なんてどうでしょう?」

挑発的な視線を投げかける。
ちなみに、私はそんなお話は知らないし聞いたこともない。
今から作られる、自伝というヤツだ。

「聞きましょう?」

少女は目を閉じ、ベッドに腰掛ける。

「昔々、ある街に少し変わった女の子がいました……」



それは、『私』が『十六夜 咲夜』の名を貰う前日の、話−。




〜おわり〜










 

= あとがき =

なんか3と4の間が大分開いてしまった……
年内に書き切れて良かった………
このお話はここまで。投げっぱなしではなく!(゜□゜)
この二人のラブは現在進行形だと信じてやまない!!!

(・ω・)次はフランが書きたいなー。

―葉桜