どらやき。


フラン/kiss/レミリア








「お姉様ー♪」

廊下を歩くレミリア。
その後ろを猛然走ってくる影がある。

七色の翼、金色の髪、無邪気な瞳。
愛しい妹、フランドールである。
レミリアは無邪気にはしゃぐ妹を微笑ましく思いながらも注意を促す。

一応、屋敷の主人である以上は。


「フラン、廊下は走っちゃ駄目よ」

「お姉様ー♪」


しかしテンションが異常に高くなり、聞こえていないのかフランドールの速度は落ちない。
手を額に当て、やれやれと思いながらもう一度、今度は少し声を大きくして言おうと思ったその時。
フランドールの声が先に廊下に響き渡った。


「お姉様ー、キスしよー!!!」


………絶句。
今のレミリアを一言で表すなら正にそれに尽きるであろう。
それは当然の反応であろう。

今、フランドールはなんと言ったのか?
今、実の妹は姉を前にして何を言ったのか?
何かをしようと、何か……キスとレミリアは聞こえた。

幻聴か? いやいや待て待て聞き間違いという可能性もある。
『キ』と『ス』に近い発音の何か…


「お姉様ー、キスキス♪」


レミリアの必死の葛藤は虚しく宙に消える。
あれだけ大きい声で何度も連呼されれば空耳のしようがない。


「フランッ!あなた何をっ…」


視線をフランドールに戻したその時、レミリアははっとした。
床を蹴り、宙を舞うフランドール。
その軽い体は弧を描くようにレミリアの胸に飛んでくる。

一瞬、時間がゆっくり流れるような錯覚に襲われる。
しかし、胸を襲った衝撃が今の光景が真実であることを伝える。


「いたた…フラッ!……んっ!?」


お尻と腰を打ったレミリア。
いくらフランドールが軽いといってもあの助走でタックルをされては衝撃もかなりの物である。
いい加減怒るべきと考え、レミリアはフランを睨むわけだが結果としてレミリアの思考は今日、最高時間の停止に陥る。

文字通り目と鼻の先に迫っているフランドールの顔。
長い睫毛や何時の白い肌、細く滑らかな金髪、目を閉じているので金に輝く瞳は見えないが、その全てが…恐らく今までで一番近くに映し出されている。
そして唇に当たる暖かくて柔らかい感触。
マシュマロのように柔らかく、暖かい………フランドールの唇。
そう、タックルと同時にレミリアはキスをされたのだ。
実の妹に。
10秒、20秒、どれくらいが経っただろうか。
ゆっくりと、唇が放される。
それを呆然とした眼差しでみつめる。


「お姉様……」


フランドールもそんなレミリアに感化されたのかうっとりとした表情で見つめ合う。


「フラン……いきなり何を……」

「キスは好きな人とするんだってコレに書いてたの」


ほら、とフランが持ち出したのは一冊の恋愛小説。
それにはレミリアは見覚えがあった。
パチュリーの図書館に置いてあった物だ。

どういう経緯かフランドールの手に渡り、誰かが入れ知恵したんだろう…
漠然とレミリアは考えるがその先、誰が、という考えは阻まれる。


「私、お姉様好きだもん


……」

「意味がちが……」 フランドールからの二回目のキス。
それはさっきの唐突な物ではなく、ゆっくりと顔を近づけ、目を閉じ、お互いを感じ合う……


「んん……」

「…お姉様…んん…」


座った状態のレミリア、その上に被さる形で座るフランドール。
状態が状態なのでレミリアはフランドールを払いどけることができないでいる。

ただただ、妹の為すがまま。
唇を重ねるだけのキス。
それ以上先のことをフランドールは知らない。
それでも、自分の愛を、相手の温もりを、感じたくて一心不乱に唇を這わせる。
幼稚で稚拙、だけど濃厚なキス。



◆◆◆◆◆◆



結局、あれから数分、フランドールにされるがままだったレミリア。
フランドールにとって、あのキスは深い意味を持たず、ただ本当に姉が大好きだと言うことを伝えたかっただけなようだ。
故に怒るに怒れず、レミリアはふらついた足で自分の部屋を目指す。


「今度から図書館の本は私も把握すべきかしらね……」


ただ、あの膨大な量を目の前にするとやはりしりごむ。
小悪魔あたりに漠然と指示を出す辺りに留めるべきだろうか…

有害図書の在り方を考えている時、廊下の角に人の影を見つけた。
その影はレミリアを見つけると辺りをキョロキョロ。
その場で立ち止まり、また辺りをキョロキョロ。
人影に見覚えがあるレミリアは不可解なその仕草にこちらから声を掛ける。


「何をしているの、咲夜?」

「っ!」


自分から声を掛けるつもりだったのか、はたまた声を掛けないつもりだったのか。
咲夜は一歩後ろにのけぞるリアクションをとる。
こんなに挙動不審な咲夜は珍しい。
ついついレミリアは首を突っ込んでしまう。
早く部屋に帰りたいというのに。


「どうしたの?」

「いえ……あの………その…」


煮え切らない。何だというのだ。
いつもの物事をハッキリする咲夜らしからぬ仕草だ。


「何なの?はっきりしなさい」


レミリアが少し強めに言うと、咲夜は意を決したように口を開くと同時に前に出た。


「失礼します!!」

「え……んんっ!?」


いきなり目前に近寄る咲夜。
時間を止めたのかはたまた錯覚か。
気が付けば、咲夜に唇を奪われていた。

(……ぇ、何?また!?)

さすがに二度目とあって先程よりは自分というものを保てた。
しかし、いきなり咲夜からのキス。
唇が触れ合うフレンチキス。
キス自体慣れていないのか、咲夜のキスは小鳥のついばみのような感じだ。

それでも、胸の鼓動は一向に収まらない…収まるはずもない。
こう言っては何だが咲夜は美人だ。かなりの。とびきりの。
正直な話、同姓のレミリアですら心奪われる時が多々ある。
いや、既に奪われていると言ってもいいのか?


「……わ、私も……お嬢様をお慕いしております……」


そう言い残し、咲夜は来た廊下を猛ダッシュで走り抜けていった。

レミリアはその場に崩れ落ち、咲夜の見えなくなった方向に目を向け唖然とする。
唇に残る暖かい感触…頬に触れた咲夜の吐息。
夢ではない……確かにキスを、したのだ。


「何なの……今日は…」


実は咲夜があの場を目撃していたことを知るのはもう少し後になってからのお話。





〜終わり〜










 

= あとがき =

フラン+レミリアはいいなー。
ビバッ姉妹愛!!
ピュア妹とツンデレ姉に幸あれっ!!!

―葉桜