どらやき。
咲夜の新・必殺技
「はぁ……」
溜息が一つ。
「はぁぁ……」
溜息が二つ。
「はぁ〜……」
今の溜息で、太陽が沈んでから、約二桁に突入する。。
夜の廊下、ユラユラと頼りなく浮かぶ蝋燭の日に当てられ、咲夜は額に手を当て溜息を着く。
「厄日ね……」
はぁ……と、咲夜は本日十一回目の溜息を着く。
頭の中に蘇るのは、今日の昼下がりの事。
変わった事は何も起きていない。毎日の事、いつもの事。
いつも通り、屋敷の外で美鈴の叫び声が聞こえて、屋敷全体が大きく揺れる。
お嬢様は頭を抱え、妹様は爆心地へと大喜びで向かう。
咲夜は、頭を抱えるお嬢様にお茶を入れ、ことわってからゆっくりと向かう。
そう、ゆっくりだ。間違っても「最中」に足を入れないように。
「魔里沙ぁぁぁ〜!!」
パチュリー様の絶叫を確認した後、……する必要がもはや無いノックをして入室。
「……………」
図書館の中は予想通りの惨状。
まるで局地的地震を受けたようだ。
棚は崩れ、本は散らばり、煙と誇りは自由気ままに舞い上がる。
そして……
その真ん中でパチュリー様は一人佇む。肩で息をしながら。
ちなみに、一緒に応戦したと思われる小悪魔は見当たらない、ということは瓦礫の下か…
「大丈夫ですか? パチュリー様」
一応、用意しておいた言葉を投げかける。これもいつも通り。
そして帰ってくる言葉も、
「大丈夫に見える?」
これも、いつも通り。
毎度の事ながら、パチュリー様は不運としか言いようがない。
狙われ、堂々と攻められ、防ぎきれず、少しずつ盗まれていく。
「忌々しいわね」
図書館は誇りと煙の巣窟になっていたので場所をテラスに移す。
小悪魔は全身埃まみれだったのでそのまま図書館の片付けに。
二人はテラスで優雅にお茶。
「さて、どうしようかしら……」
ではなく、作戦会議。
「ここに、今日魔里沙が盗み損ねた本がある。きっと、あいつは明日また来る…」
と、いうことで咲夜を交えて作戦会議の真っ最中。
作戦会議といっても、できる事は限られている。
まず一つ目、一番最初の防衛装置。これは美鈴なので……一分と保たない。
次に小悪魔、パチュリー、そして咲夜の三人。
三人で当たれば、まぁ勝てるだろう。
ただし、弾幕が四人分になるので
自然、図書館は暫く閉鎖だ。
下手をすれば妹様がそこに混ざる。
「それはいけません…」
「魔里沙の身体なんてどーでもいいけど図書館の損害は痛いわね」
それで屋敷が傾いてでもしたら、苦労するのは間違いなく、咲夜だ。
そして、またお嬢様は額に手を当てて悩むだろう。
「……何か都合の良い魔法とか、無いんですか?
私でも使えそうな……」
駄目元で聞いてみる。
空間を遮るとか、衝撃を和らげるとか。
(何なら、壊れる事前提で建物を早く直せる魔法でも構いませんが…)
そうね……と、一呼吸置き図書館から持ってきていた本をめくる。
「この前、偶然見つけた魔法なんだけど……」
「それが使えると?」
「使いこなせれば、ね」
「どんな魔法なんですか?」
建物の修理、とかならこの際是非ともパチュリー様には覚えて頂きたい、
と咲夜は小さく頷く。
「えーと、何これ。曖昧な説明ね」
「………どんな魔法なんですか?」
「相手は死ぬ。それしか書いてないわ」
咲夜は一歩後ずさる。背中に伝う冷や汗。
「あのぉ、パチュリー様。それは私、覚えれないと言いますか…
覚えたくもないと言いますか……」
「何、我が儘ね…」
「私にも恥と外聞はありますので………」
「一応、最強の魔法、だそうよ」
「………ならばパチュリー様が使ってみてはどうですか?」
「名前にセンスが無いわ」
「左様でございますか」
結局、何一つ良い案も浮かばず、咲夜が半日図書館に籠もる事で
作戦会議という名のお茶会は幕を閉じた。
とどのつまり、咲夜が疲れるという事以外、何も変わっていない。
「………まぁ、いいんですけどね」
悟りか諦めか。
とりあえず、あの本はパチュリー様に見つからないよう燃やしてしまおう。
そう強く思う咲夜であった。
〜終わり〜
= あとがき =
―葉桜