どらやき。


紅魔館の豆撒き








「鬼はぁー外ぉー」
「福はぁー内ぃー」

窓の外から届く楽しげな声。
この寒い中よくやる。

「お嬢様はなさらないので?」

紅茶を運んできた咲夜が隣りに並び外を見下ろす。

「私、一応吸血『鬼』なんだけど」

「駄目なんですか?」

「ゃ、駄目とかじゃなくて……」

わかるでしょ?
話題を濁し、紅茶に口を付ける。
いつもの事ながら、咲夜のいれる紅茶はいい香りがする。
味も申し分ない。

「咲夜、一つ間違っているわ」

「はぁ……」

何も駄目と入は言っていないし、禁止と声高らかにしてもいない。
それを証拠にフランと美鈴には外でのみ、豆撒きを許している。

「寛容ですわね」

「あなたさえ、よければ屋敷内で豆撒きを許しても良かったのよ?」

「お心遣い、本当に感謝致します……本当に」

90度でおじきをされた。
やはりこの広い屋敷内を一人というのは 厳しいのだろうか。
だからといって増やすという案は欠片もないのだけれど……

「ところでお嬢様」

「何かしら?」

視線は外のフラン達に合わせたまま、耳だけを傾ける。

しかし、本当にフランは美鈴と仲が良いわね。
無邪気に走り回って、大声で笑って。
微笑ましいというのは正にこの事なのだろう。

「今夜は太巻きとしようと思うのですが」

「ふふ、いいわね。任せるわ」

「はい」

「咲夜」

「はい」

「私の分の豆を持ちなさい」

「……お嬢様」

豆を撒くことに意味はない。
求めてもいない。
フランが笑顔で走り回る理由ができた。

「あの子が笑っているのは、とても貴重で、とても望ましいわ」

「お嬢様…………」



「あぁ、それと」

「?」



「美鈴が一番近くでフランの笑顔を見ているというのも気に入らないわ。 ついでに叩きつぶすわ。良いんでしょ? 豆は人にぶつけても」

「ぉ…お嬢様」

「続きなさい、咲夜。やるからには勝つのよ」





〜終わり〜










 

= あとがき =

―葉桜