ここは 「夜間中学での参加型学習の実践」
http://www5.kcn.ne.jp/~jkobi/yt-sankagata.htm です。
2003年2月5日作成

 夜間中学での参加型学習の実践

               小尾 二郎

1、はじめに
 私は1984年から86年の2年間、青年海外協力隊の隊員としてネパールで活動した。帰国後、南北問題への関心から開発教育を興味を持つようになった。1980年代の終わりから大阪や京都など、近畿で行われる開発教育の研修会に参加するようになった。その場で行われていたのは、参加型学習である。開発教育と併せて参加型学習にも関心が向いた。

2、参加型学習に関して
 参加型学習の始まりはブラジルの教育学者パウロ・フレイレが成人識字教育において実施したものである。その理論が優れていることから、第三世界各地の成人教育や識字教育において用いられるようになった。理論は分かりやすいのだが、実践となると難しい。ファシリテーター(注1)の力量がないと、単なる模倣になる。
 1990年の国際識字年の頃にネパール政府がフレイレの理論に従った成人識字教育の教科書を作成した。ユネスコでも評価された本である。しかし、数年が経過するとともにいくつかの問題点が出てきた。ネパールは地形が複雑で高度によって気候が異なる。教科書は千メートルから3千メートルの間の山岳地帯を基準とした内容のために、それ以外の地域ではそぐわない内容になっている。また指導者が何度か経験する中で学習のシナリオが出来上がっていき、過去に行われていた教員(指導者)中心の学習と何ら変わらない学習になっていった。それえは短期間の研修で指導者を養成しようとしたことに無理があった。理論を理解し、自分で学習を組み立てていくことは難しい。
 90年代後半から、イギリスのNGOなどにより成人学習を見直す動きが出てきた。REFLECT(REgenerate Freirean Literacy through Empowering Community Techniques)である。与えられた教科書で学習するのではなく、学習者が住んでいるコミュニティ(地域)の問題を発見して解決の方法を探り学習への意識付けにすると、いうフレイレ理論の本来の方法に戻ろうというものである。それには参加型農村評価法と日本語訳されているPRA(Paticipatory Rural Appraisal)の手法が用いられた。それは地域を歩きながらそこにある石や小枝など小さな物を集めて、学習に活用するなどの方法をとり、文字を媒介としない方法で学習し、地域の問題を探ろうということである。地域にはそこの住人でないと分からないことが多く、それを解決していくのも住人である。それが参加型の特長であり、社会との関連である。
 1990年代の前半に春日夜間中学において、私は参加型学習で「部屋の四隅」や「Human Chain(人間の鎖)」などのアクティビティ(注2)を行った。アイスブレーキング(注3)の段階ではそれなりに楽しめるのだが、学習を深める内容となるとなかなか進まないという様子が見られた。夜間中学で学ぶ人は年齢の広がりがあり、学習課題が異なる。高齢者などに見られる、体を動かすことが十分できないという身体的な問題もある。さらに勉強とは、座ってするものだという固定観念の影響も見られた。参加型学習の実施の困難さ、学習しても効果がない深まらない、といったことからいつしかすることをやめていた。
 90年代後半、人権学習に参加型学習が取り入れられるようになった。「かきくけこ」つまり「 堅い、厳しい、苦しい、権威的な、怖い雰囲気」から「あいうえお」つまり「」明るい、いい加減な(ちょうどいい加減の意)、うれしい、笑顔の、おもしろい」学習として参加型学習がもてはやせれるようになった。参加型学習のマニュアル本が出版されるようになった。本を読めば、手軽ですぐに役立つような内容である。しかし、目先のおもしろさを追ってもその場限りである。新しい方法をしたという教員の自己満足だけで終わっている場合もある。
 アクテビティの中には、問題を単純化するために複雑な現実を省いてしまい、参加者に分かりやすくしている場合がある。そのために現実の社会から離れた内容となっていて、ワークショップのためのアクテビティになってしまっている場合がある。フレイレの言う方法は現実の社会と向き合って、それを変革していく方法を探すことである。それからかけ離れてしまうと、その場だけの学習であり、その結果として現実の社会に何も還元することができない。また手法などが先行して、教員がシナリオ作ってしまい、その流れに沿って学習を進めると、結局は今までの知識伝達の学習と何も変わらないということになる。
 ファシリテーターと呼ぶ中には、教員とは違った立場を表している。ファシリテーターの仕事は、学習の柱立てをするのが中心である。そこからどの方向に議論が進むかは、参加者に委ねられる。方向を示さない姿勢というのが重要になる。教員は何かを教えなければ、あるいは伝えなければという意識が強いのではないか。それがある限り、ファシリテーターとしての資質が十分ではない。

3、春日夜中での総合学習
春日中学校夜間学級では「総合学習」という時間を設定している。人権に関わる学習、修学旅行に関連しての沖縄学習、その他教科にとらわれない学習を行っている。学習に参加している生徒さんは10代から70代の20数人である。年齢や入学前の学校での学習体験が異なるので学習要求が違う。高齢者及び車椅子の人がいるので移動を伴ったアクティビティは実施が難しいなどの条件がある。
 2001年度、総合学習を2人の教員が担当し、相談の結果参加型学習をすると決めた。
2000年にネパールのファシリテーターを招いての研修会があり私は参加した。彼との会話などを通じてPRAやREFLECTなどのネパールでの動きを知った。また夜間中学で参加型学習をしてみようという気持ちになった。
 どういう内容にするかが問題である。課題設定ができれば教材化の半分は終わる。参加者全員が参加でき、関わりがあることとして「夜間中学」を設定した。生徒さんの夜間中学に関する考え方を深めるということで、「夜間中学とはどんなところですか。」という質問から始めることにした。それを元に学習を展開する。アクティビティの流れとして、ブレイン・ストーミング(注4)、KJ法(注5)、ランキング(注6)という基本的な流れにした。KJ法は難しいかもしれないと思ったが、入れてみることにした。ランキングを経て、最終的にはこれもランキングの一つの形だが、「春日夜間中学の木」にすることにした。
 学習の流れは次のようになった。ワークショップは1週間に1時間、全部で6時間の構成となった。2001年の10月から11月にかけて実施した。
 1時間目 「夜間中学とはどんなところですか。」の質問でブレインストーミング
 2時間目 1時間目に出た項目を使ってのKJ法
 3時間目 ペア・ランキングで9項目の選抜
 4時間目 3時間目の9項目でダイヤモンド・ランキング
 5時間目 「春日夜間中学の木」の作成
 6時間目 振り返り(注7)
 参加型学習では、結果としてどうなった、ということより途中経過で何を考えたかということの方が重要と考えている。最後は「春日夜間中学の木」という形にしたが、それからどうこうと判断することよりも、そこに至る過程で参加者個々の学びがどうであったかを見る方が重要である。
 1時間目のブレインストーミングでは、生徒さんに対して私が質問し、出てきた意見を板書していった。33項目出てきた。それがこれからの学習の材料になる。
 2時間目は、1時間目の項目をカード化し、生徒さん個々に項目の書いた33枚のカードと白紙のカードを2枚と、カードをはる大きな紙を1枚渡した。白紙のカードにはもし、自分で追加する項目があれば書くようにとの話をした。カードの整理の仕方を簡単に説明した。説明を詳して、こちらの意図が伝わりすぎるのもよくないと思い短めにした。結果としては難しかったようである。ある程度意味の近いもののまとまりや関係が考えられたものはあった。また、二人の生徒さんがそれぞれ1項目ずつを追加したので、1時間目の33項目と併せて35項目となった。
 3時間目は、ペアランキングで、トーナメント戦の勝ち上がりの形で9項目を選んだ。番号順、つまり1番目と2番目の項目を比べて、どちらがより重要かを判断する。これは全員で意見を聞きながら行った。それを2回した。1番目から4番目までの項目から一つの項目を選んだ。35項目あるから、9項目選ばれることになる。この後、1回目で選ばれなかったもの同士で比べ、重要と思われるものを選んだ。さらに2回とも選ばれなかったのの中で捨てがたいものを拾い出した。2項目選ばれ、合計29項目となり、これで「春日夜間中学の木」を作る項目とした。
 4時間目は、3時間目のト−ナメント戦で勝ちあがった9項目について、ダイヤモンドランキングを各自でしてもらった。その後できあがったランキング表を前に並べて、作成者の意見を聞いた。9項目のランキングには、個人の差がかなり出て、それぞれの考えを聞くのは興味深かった。
 5時間目は、ランキングの一つの表現方法として、私が考えた「春日夜間中学の木」の作成を全員で行った。それぞれの項目を3段階で評価するものである。1重要、2まあ重要、3それほど重要ではない、という3段階に評価してもらうように話した。準備として模造紙大の大きさに木の幹と枝を描き、そこに張り付ける葉を画用紙で作り項目の内容を書いた。紙の中心になるほど重要度が高いということにした。先ず29項目のそれぞれを評価し、1から3の番号を記した。その時に、評価とその意見を聞いていった。多数を占める意見を採用し、評価の番号を決めた。意見の対立が解消される時もあったが、並行のままの時もあった。対立が続くと、互いを牽制して意見が出にくくなることもあった。全ての項目の評価を終えた後で、評価を確認しながら葉を貼っていき、「春日夜間中学の木」を完成させた。


kasuganoki.JPG


 6時間目は、1時間目から5時間目の学習の「振り返り」を行った。過去5時間の学習内容を確認し、その感想を互いに述べる形で進めた。同じような学習の繰り返しがあった、との意見が出た。確かにランキングを繰り返したからだと思われる。ランキングの方法が違うのでそれぞれ違った見方があったと私自身は感じている。また一部の意見として、なぜこのような学習をするのか分からない、私に何らかの意図があり生徒さんに意見出させて利用するのではないか、というのがあった。それには私はそのようなことは何も考えていないと答えた。その時、他の生徒さんが、それぞれの生徒さんの考え方に違いがあり、それを互いに知ることは興味深かった、と述べた。それも私の考えに共通するものであり、先ほどの意見の答えになっていた。学習に参加した人が夜間中学について、それぞれ新しい発見をしたり、認識を深めれば学習した意義がある。
 出来上がった「春日夜間中学の木」は、生徒さんの目の触れる場所にしばらく掲示した。学習に参加したのは一部の生徒さんであり生徒さん全員が見られるようにとのことからである。

4、自分自身の「振り返り」として
 今回の参加型学習がうまくいったとは言えない。生徒さんが「春日夜間中学の木」で挙げた、知識を学ぶところという意識が生徒さんにある。知識がないと感じているから教員から学ぶという姿勢では、受け身の学習になってしまう。自分たちが主体的に、学ぶという姿勢が重要であり、教員も意識しなければならない。
 それぞれの時間、私は説明を詳しくしなかった。話すことによって生徒さんを型にはめてしまうのえはないかという、気がかりからである。自由にそして気楽に学習してもらえればいいという考えもあった。しかそれが、学習活動でかみ合わない点を出したことになった。それは生徒さんの振り返りの時に意見として出た。
 この学習を始めるにあたって、生徒さんの意見をこの方向に持っていこうなどという意図は何もなかった。どのような学習活動をするかということだけを考えていた。心は白紙の状態で、生徒さんの意見を聞きながら次へとつなげるという立場をとった。そのことが一部の生徒さんには不満だったのかもしれない。
 この学習を始める前に、私なりにいろいろと考えた。参加型学習に関連した本も読んだ。その結果として、自分で作るしかないということになった。学習の対象者がいて、彼らにとって何が一番いいのかを考えた時に、何かが生まれてくる。教育は創造的なものであると結論づけるのは短絡的かもしれないが、工夫していくのは大切なことである。
 研修のありかたとして、マニュアル本に頼るのではなく、その場に応じた学習が作っていけるような、時には深く、時には広くありたいものである。そしてそれがまた違った実践に結びつくことを楽しみにしている。

  注
(注1)ファシリテーターは、「容易にする者」ということになる。参加者が学習活動を活発にするための手助けをする人ということになる。コーディネーター(調整者)、アニメーター(生気を与える者)という言い方もされていたが、ファシリテーターが一般的なった。
(2)アクティビティは一つの学習活動。アクティビティをいくつか組み合わせることによってワークショップが構成される。2時間でどのようなワークショップを展開するかはファシリテーターが考える。ワークショップによっては数日に及ぶ場合もある。
 「部屋の四隅」は「はい」「どちらかと言えば、はい」「どちらかと言えば、いいえ」「いいえ」などの4つの選択肢を部屋の四隅それぞれに割り当て、質問に対して自分が選んだ答えの場所に移動して、みんなの意見を見るアクティビティ。ファシリテーターが参加者に選んだ理由を聞きながら互いを理解する。「Human Chain」は、参加者が円になって内側を向き、円を徐々に縮めていって両手を伸ばし、できるだけ遠くの人と手をつなぎ、それでできた複雑はつながりを解きほぐしていくアクティビティ。社会が抱える問題を考える疑似体験ができ、協力することの意味が体感できる。
(3)アイスブレーキングはワークショップの始めに行われるアクティビティ。初対面の参加者が互いに知り合ったり、その後のワークショップを続けるのに緊張をとってうち解けた雰囲気作りに使う。
(4)ブレインストーミングはアクティビティの手法の一つ。「脳の中の嵐」ということで、課題に対して頭に浮かんだことを次々と出していくもの。考えをたくさん出すのに向いている。
(5)KJ法は文化人類学者の川喜田二郎が考案したもので、彼のイニシャルがつけられている。フィールドワークなどで得られた情報をカード化して分類し、関連づけし、整理していく方法。
(6)項目の関連を考える一つの方法。順番を付けることにより重要なものを探る。同じ項目で他人との比較により、問題を深く考えることもできる。よく使われる一つがダイヤモンドランキングで、9つの項目をダイヤモンド型に評価するもので、方法は次の通りである。
  〇    第1 重要な順番に5段階に分け、
 〇 〇   第2 第1が一つ、第2が二つ、
〇 〇 〇 第3 第3が三つ、第4が二つ、
 〇 〇   第4 第5が一つとなるダイヤ
  〇    第5 モンドランキングはよく用いられる。
(7)振り返りは、ワ−クショップの最後に学習内容を再確認し、学習の深化を図るもの。
個別にアンケート方式でしたり、全体で感想や意見を述べるなどの方法がある。

参考文献
「開発教育 第42号」 開発教育協議会 2000年
「わたし 出会い 発見」 大阪府同和教育研究協議会 1996年
「いま人権教育が変わる 国連人権教育10年の可能性」 森実
     人権ブックレット49 解放出版社 1995年



 夜間中学教材の部屋 へ


春日夜間中学のページ へ


夜間中学のトップペ−ジ へ