ここは 「第39回全国夜間中学研究大会報告」
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1998年4月1日作成

 第39回 全国夜間中学校研究大会 第1分科会 教育内容・授業  1993.12.10〜11
 「夜間中学の人権学習と識字問題 教材化への考察と実践」
          〜パウロ・フレイレの理論、他より〜
 
                         小尾 二郎
 
(1)識字問題と夜間中学
・基本的人権……自由権、社会権(生存権、教育権、労働基本権)など
・BHNs(Basic Human Needs 人間が生きるのに最低限必要なもの)……
 食料、屋根のある家、衣料、初等(識字)教育、最低限の保健施設、生活をしていく(所得を得る)ための仕事、水
・機能的識字(Functional Literacy)
 先進国のように社会が複雑になると、日常に使う短い文の読み書きだけでなく、社会活動に参加していくための識字の力が必要となってくる。また文字を活用することによって文化創造をしていくなどの力を含めて、機能的識字が示されている。
 機能的識字の考え方から、日本には少なくとも300万人の文字の読み書きに困る人が存在すると推定される。夜間中学の学習内容との関係も考える必要があるのでは。
・第2言語としての日本語学習
 在日外国人、主に新渡日者は、母語や母国語の読み書きができるが生活のための日本語ができない場合が多い。第2言語としての日本語を学ぶ場が必要である。夜間中学で学ぶ人が存在している。
 
(2)パウロ・フレイレの理論
・「課題提起型」の教育……
 成人は経験が豊富で、生活に関する問題の解決方法を経験的に知っている。指導者が一方的に情報を伝えるのではなく、互いの経験を語り合うことによって学習者が相互に学んでいく。(対話)
 「銀行預金型」の教育……
 子どもが成人したときに必要と思われる内容を指導者が選択する。子どもの頭が空で、そこにばらばらに切り離された知識を一枚ずつの硬貨であるかのように貯めていく。(伝達)
・学習の中心となる重要な単語
 文字を覚える効果的な方法として、自分の生活に密接な関連のある単語を通して学ぶというのがある。これらの言葉をその地域の生活の状況に重ねて絵などにし、課題提起の中心にする。そして文を書くのに必要な文字を覚えられるような構成になる教材を作成する。
・社会変革を目指す
 識字教育の目的は、文字の読み書きができるようになるという技術的な面以外に社会の状況や自分と社会の関係を分かるようになるということがある。その意識が、既成のものを越えて、差別や抑圧のない新しい社会を創造する行動へ結び付けていくことになる。
 
(3)識字問題の夜間中学での教材化
・夜間中学での「課題提起型」の教育とは
 成人が多く在籍するので、知識を伝えるという学習では不十分。伝達より対話の学習が必要なのでは。また、夜間中学で学ぶ人は、さまざまな立場がある。共通に話のできる課題をどのように設定するかが、問題となる。
・夜間中学での人権学習
 知識的な学習だけでは、個人の問題になってしまう。人権学習を通して、自分の社会における立場などを客観視し、なぜ今夜間中学で学んでいるのかということに、結び付けることが必要。人権学習は夜間中学での学びの原動力となるのでは。

(4)実践内容
・学級の状況など
 本校では文字の読み書きが学習の中心だが、私の担当した学級は7学級の中でただ1つ中学校課程の内容を学習。中学校課程と言ってもさまざまな内容があるし、個人により状況が違うため、個別の内容となることが多い。それで学級活動を学級全体で一緒に何かできる場として考えた。この学級で過去2年間に人権学習として、部落差別、在日朝鮮人差別、障害者差別などの問題で生徒さんと一緒に考えてきた。
・学習計画(資料参照)
 学級活動での人権学習として実践。全体で15時間で、それぞれの授業の課題は以下の通り
 1、導入         BHNsの視点から識字の位置付け
 2、識字学習の必要性と社会の見方など 寸劇による課題提起
 3、フレイレの理論(1) 「銀行預金型」の教育と「課題提起型」の教育
 4、フレイレの理論(2) 学習の中心となる重要な単語の意味と日本語への適応
 5、フレイレの理論(3) 新しい社会の創造について
 6、バングラデシュの識字 組合作りとその意味(シャプラニールの活動より)
 7、ネパールの識字(1) 女性、子どもと識字
                (中途退学の問題など、ネパール教育協力会の活動より)
 8、ネパールの識字(2) 地域開発と識字教育の関連
 9、インドの識字     識字の学習形態の多様性と教材
10、アメリカの識字(1) 先進国の識字と社会(機能的識字)
11、アメリカの識字(2) 第2言語としての識字
12、日本の識字(1)   部落解放運動など、様々な場における識字
13、日本の識字(2)   夜間中学
14、日本の識字(3)   日本の識字問題(現代まで)
15、日本の識字(4)   日本の識字問題(今後の課題)
 
(5)評価として、他
・実践から
 学習は、1時間で一つのまとまりを作るようにしたが、連続性のある内容でもあるので全体を通しての問題のとらえ方も考えてもらおうと思ったが、毎日確実に学校に来ることのできないために、これは困難であった。また、生徒さんの学習要求に知識に対するものがあるので、人権学習を歓迎しないという人も見られた。
・夜間中学で目指す「学力」とは
 夜間中学の学習は、子どもに対する教育に追従するものではない。伝達より対話に重点をおいた学習とは。被抑圧の状況からの精神的な解放を目指すとは。機能的識字との関連で、生活に活用できる読み書きとは。


*参考文献など
A.Hope,S.Timmel 「Training for Transformation」 Mambo Press Jimbabue 1984年
パウロ・フレイレ 小沢有作ほか訳 「被抑圧者の教育学」 亜紀書房 1979年
パウロ・フレイレ 里見実ほか訳 「伝達か対話か」 亜紀書房 1982年
パウロ・フレイレ 柿沼秀雄訳 大沢俊郎補論 「自由のための文化行動」 亜紀書房 1984年 
元木健 内山一雄 「識字運動とは −国際識字年を機にー」 解放出版社 1989年
読売新聞社編 「識字 −すべての人々に文字をー」 明石書店 1990年
日本社会教育学会編 「国際識字年10年と日本の識字」 東洋館出版 1991年
小沢有作編 「識字をとおして人々はつながる −かながわ識字フォーラムの記録ー」 明石書店 1991年
国際識字年推進中央実行委員会 「2000年に向け『識字行動計画』策定を」 解放出版社 1991年
国際識字年推進中央実行委員会 「読める、かける、考える 識字は、私の生きる力です」 1990年
「全国夜間中学校研究大会 大会資料、記録誌」 1992年
日本ユニセフ協会パンフレット 「文字は翼をもったことば 識字教育とユニセフのとりくみ」 
開発教育協議会 「開発教育」NO.20 
朝日新聞社 「朝日現代用語 知恵蔵 」
シャプラニール=市民による海外協力の会 「SHAPLA NEER REPORT」
ネパール教育協力会 「ネパール教育協力会だより」 
アジア保健研修財団(AHI) 「アジアの健康」
India's National Newspaper 「THE HINDU」
「VISTA(Volunteers In Service To America) パンフレット」

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