| 真 冬 の 独 標 |
H15年1月10〜13日
参加 4名
山友会の山行計画書に「完全冬装備」なる用語が時々登場する。それは私には無縁のコトバ、無縁の世界と信じて疑わなかった。そのいかめしいコトバは固く、耳ざわりの悪いコトバだったはずなのに、今回その完全冬装備で西穂山荘から独標、厳冬期のアルプステント泊を体験することになった。
さらに、この計画は我々4人はロープウェイ利用、ベテラン4人は上高地からのラッセル隊、西穂山荘で会いましょう!の愛(?)コトバでそれぞれ10日夜、車と急行ちくまで奈良を発つ。

10日 出発まで
この遠大な計画にしばらくは嬉しかったり、不安だったり入り混じっていたのに、直前になると不安ばかりが募る。
現地情報、積雪2.5m平均気温-15度。この気温に耐えられるのだろうか?
友人からたくさんの激励、エールが届く。でもやっぱり嬉しい雪山、真冬の北アがこの目で見られたら…ただその思いで、友のエールを胸にVサインで出発する。
11日 松本〜新穂高温泉〜西穂山荘
2F建てのロープウェイは空に吸い込まれるように、グングン高度を上げ、360度のアルプス大スクリーンのスペシャルシート。
笠ヶ岳を正面に抜戸、弓折、双六、樅沢岳と続く。焼岳、乗鞍のラインはなだらかで、やさしく、昨夏歩いた槍、南岳、大喰、穂高へと続く3000mのラインは鋭く尖り、雪を光らせている。真冬のアルプスの顔にピリピリと緊張する。
山荘までは、トレースもあり、さらさらの雪で、アイゼン、わかんなしでも歩きやすい。
それにしても20kのザックは重く、苦痛以外の何物でもない。静かで丸く積もったわた飴のような雪は暖かく感じられ、ブルーの空に白い雪が輝く様はやっぱりとりこになってしまう。
最後の斜面を上り、山荘に到着。
何が嬉しいって、ここでザックを放り出せるのが嬉しいと言う、軟弱この上ないpororiです。
ここで上高地からのラッセル隊と合流の予定、が…?
松本からタクシーを利用した分早い到着になり小屋に受付を済ませ、暖かい陽射しのうちにテントを張る。(冬季無料)
3時頃までは穏やかだった気温も陽が傾き始めると急に下がり、風も冷たくなる。
上高地からの全くトレースのない斜面を不安な思いで見つめる。
3時、4時、5時になっても4人の人影は見えず…。
多分猛烈なラッセルを強いられ、たどり着けない4人を思いつつ、もう限界かと夕食の準備を始める。
今夜はこの山行中、唯一の生物のポパイ鍋。あとは全て乾燥物とする。
夜更けて、風強く、眠ったような、眠れないような一夜を過ごす。風にテントの上から氷が落ちてきて、シュラフカバー、シュラフがうすく凍りつく。
(ロープウェイ駅〜山荘 歩行約2時間)
12日 山荘〜独標
朝 どことなく暗いテントの外は案の定、曇り、小雪、視界なし。目の前の明神岳さえ見えない。
上高地隊はどこで、どうしているのか気にしつつ10時頃まで待つ。この天候、この時間ではもう独標は無理だから下山されたかも?
少し稜線を歩いてみようと、上り始めたところ、下から「お〜〜〜い!」 「わぁ〜〜〜 !○○さ〜ん!」
山荘前で手を取り合って感激の対面、やはり昨日は9時間にも及ぶ猛ラッセルで今日もまた2時間のラッセルで上がって来たとのこと、斜面では想像以上の雪、それに加えて重いザック、アイゼンのネジが外れるというハプニングもあったそうで(予備ネジ、工具も持参 さすが!)、おつかれ様、ごくろう様、会えて良かった〜!
小一時間ほど一緒に山荘でティータイム、時間が押してきて上高地へ下る4人を見送り、今日のために買い整えた12本アイゼンをつけて稜線を歩いてみる。独標への稜線はやはり風きつく、雪は容赦なく横なぐりに吹きつけ眉も凍り、しっかり目出帽、ゴーグルで覆う。

行く手にあるはずの独標も見えず、見えるのは先の見えない雪空、舞う雪、孤独な樹氷。
←ピッケルを置いてカメラに納める。
丸山を過ぎ、2・3のピークを越えたこの地点で引き返す。↓

夕刻、美しい夕映えの山を見る。空と雲の間を茜色に染めて雲海の上に眠るように山が浮かぶ、雪が降る……


笠ヶ岳、錫杖岳、遠い白山。
夜、漆黒の明神岳の上には煌々と月が輝き、冬空に大きな星が煌く。
2日目の夜も風尚強く、眠れぬ夜になる。
13日 山荘〜ロープウェイ駅〜新穂高〜高山

7時前、山荘前から大きな陽が昇る。はるかかなたからオレンジの光がまっすぐに届き、雪面を染め、影を光に変えていく。
その光に闇を脱ぎ捨てた山が目覚めて息吹き、白く輝き始める。

今、現実にこの瞬間、この中にいることが、嬉しくて、幸せと感じる時間。
この時を感じたくて、この空間に触れたくて、ここにいる自分を見つめたくて、私の山があるかも知れず。
雪、夕映え、星空、朝陽、胸いっぱいの思いをしっかり抱きしめて、心ここにあらずの下山の準備をする。
中一日が曇りで、今日も青空がどんどん広がって昨日の稜線も手に取るようによく見える。
朝陽に映える西穂に、届かぬ独標に別れを告げて帰途につく、私は心という忘れ物をしたような…。