トウヒ林の明日は

東大台を代表する森林といえば、トウヒ林でしよう。大台ヶ原のトウヒ林は、分布のほぼ南限にあたり、学術的にも貴重なものですが、近年急速にその衰えが目立つようになりました。
かつて正木峠付近は、林床(りんしょう)が苔でおおわれたトウヒの原生林が広がっ<ていました。このトウヒ林に異変が起こり始めたのは、1959年の伊勢湾台風からです。台風によって多くの樹木が倒れ林床に陽が射すようになって、次第に土壌が乾き始めてまず苔が衰退していきました。その上、1961年にはドライブウェイが開通し、多くの人が訪れ、林床の踏み荒らしも起こりました。さらに最近では、トウヒなどの樹皮がシカに食べられるようになり、幹の皮を環状にぐるりとはがされた木々は次々と枯死(こし)しています。

大台ケ原の動物

原生林が広く残る大台ヶ原には、たくさんの動物が住んでいます。シカ、ツキノワグマ、カモシカなど、本州に住む哺乳動物のほとんどがこの山とその周辺でみられます。とくにシカは多く、運が良ければ日中でも出会えます。
鳥たちの仲間も豊富です。奈良県の鳥になっているコマドリの美しい声は夏の大台の代表です。この山の鳥は、ルリビタキ、リボリムシクイ、ビンズイなどのように亜高山性の烏が多くみられるのが特徴です。この他、大台ヶ原で最初に発見されたオオダイガハラサンショウウオ、ナガレヒキガ工ルもいます。
昆虫は、暖かい地万のイシガケチョウ、北に多いコ工ソゼミ、ツマジロジャノメなど、南方系のものと北方系のものとが共存しているのがみられます。
緑の厚い屋椴、落葉のじゅうたん、柱のように太い木の幹が、動植物の住居なのです。
落葉の下、土の中にはミミズや夕二、無数の虫たちがいて、落葉や動物のフンを掃除しています。クマやシカ、キツネは大地の上で暮らします。屋根裏の枝は、リスや小鳥、昆虫たらの世界です。
種類も大きさも違うさまざまな木が茂る原生林には、住む場所も餌も違う多くの動物が暮らすことがでさるのです。森の住民たちは、ときにはお互い食べたり食べられたりしながらも、この森の家を壊すことなくつり合いを保ちながら生さています。
森を歩くとさは、動物たちの大切な家を訪ねていることを忘れないで下さい。

大台ケ原の植物

 この山には、東北地方など寒い地万と高山でしか見られない、ブナやトウヒの原生林が残っています。地球が今よりもっと寒かった頃(氷河期)は、紀伊半島にも広く茂っていた林が、暖かくなるにつれて大峯山脈やこの山のような高山に追いやられたと考えられています。
車道沿いに深い森をつくっているのがブナ林です。わが国のブナ林は、日本海側と太平洋側のものとは少し違った形をしていますが、この山の林は、現存する太平洋岸型ブナ林では最大規模といわれています。
トウヒ林は、ブナより寒さに強く標高の高い日出ケ岳から正木ヶ原付近に多くみられます。もともと苔の美しい林なのですが、台風の被害や人の踏み荒らしで衰えか目立つようになってさました。
遠く氷河時代から生さ続けてさたこの山の森を大切にしましょう。