絵空事


                                 中井龍彦




子は日ごと稚樹の如くに春の日をげにやはらかき芽吹きの息す


君は君の痛みを言へりわれはわが痛みを言へり夏草を刈る


湯に入りて肌んぼうを恥ずるなく麻由子五つの無邪気なるべし


子と共に草のもなかに眠る夢さはさはと風流れてゐたり


さはさはと風の吹き来る草原に麻由子の夢に似し絵空事


われとわが子に春の空うすづきて蒼き絵本を閉づるなりけり


子の手より離れし
銀色(ぎん)の風船が昼の最中の星光となる


鯉のぼり夕べしづかに灰色の空に赤、青、黄のはためきを




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