春の夜の夢
蛇口よりまみどりの蛇流れ出で羽化するまでの春の夜の夢
われひとり取り囲はれし山畑にジャガイモの出来、不出来は問はず
若竹のするする伸びてゆく先を飛行雲曳く明日から梅雨へ
朴の葉の緑を拭きて口づさむ昔の唄の調べは易し
水無月の朝のしづけさ山彦の帰らぬ故郷にわれら棲みける
あめつちの緑沁みたる朴葉寿司食べつつ想ふ夏の始めを
宝物つつむがごとく妻の手に巻かれし朴の寿司並びゆく
細切れになりし記憶の1コマにやけに寂しい唄のフレーズ
箸作る工場より白きけぶり立ち村の果てへと流れてゆけり
箸作る工場の音と川の音まぢはりあひて樹の芽育む
村外れの墓所の近くに箸作る夫婦の声を聴きて過ぎけり
山の背の路に迷ひて水の音聴きさぐりつつ山を降り来ぬ
丸太割る日々の暮らしを懐かしく想ひて眺む価値なき山を
花便りふいに途切れし夜の雨に今年の桜ちりてしまへり
街道の店の並びに旧き友百円茶碗売りて佇む