光の果て

                  中井龍彦    

 

()みし日は鴉の鳴ける真似をしてしどろもどろに疲れてゐたり

 

蜘蛛の巣に白きてふてふ喰はれゐる村を捨てむとしたるある朝

 

閉ざされし村の空家に猫住みて折々あかきポストを覗く

 

春先の風たち来れば崩壊のうはさはいつもまことしやかに

 

みなかみに苔むす岩のそれぞれが生きし形象(かたち)を持ちて久しき

 

伝へ来る森の(すさ)びはただならぬことと思ひて回る地球儀

 

近くとも遠くとも知れず庭に来て糞して遊ぶイタチをりけり

 

砂原の丘をたゆまず歩みゆく駱駝は背に森を背負ひて

 

めくられぬままに掛かりしひととせの暦に記す悔ひありしとぞ

 

可哀想な魚の話を聞かせゐる昔むかしは娘もさかな

 

罪とがをなべて浄めし村墓地にうすきけぶりはしばし漂ふ

 

とりどりの蝉逅ひいづる月の夜は平家の村の村語りせむ

 

盆明けの静けさのなか仏らも光の果てを帰へりけるかも