中井龍彦
幾千の悲喜のこもごも灯燈せり みなみの街の流れなき川
質草になりし時計が刻をうつ売れゆくまでの一万光年
痴漢女の出る車両にはいつしかに男ばかりが乗り集ふなり
金貸しの老婆は胸の痛みゐたり肺細胞にも増えゆく金利
夕暮の異国の路地に
喧騒は銀杏落葉のなかに舞ふ群を離れてゆくスリ女
箪笥屋を営む男仕事終へ桐の箪笥に身を仕舞ひけり
大阪の夜の街角あかるみて十年続く閉店セール
街キツネと呼ばれし男 商品をただいちまいの木の葉にて買ふ
思春期の裸体のエロスを真中に置きて賑はふ
街角に贋物売りの男らは原始時間の時計を合はす
ものがたり消えたる街の夕暮れをけだるくあゆむわが五月病
とりどりのネオンに穢れゆく川のよろこびさらば哀しみさらば
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