回想記
山風に春の光の入り交じり寒き日なりき寒きばかりの
回想記花曇り日の火に燃せばだいだい色に陽は射しにけり
春さきの川の淀みに放たれし山女の稚魚の輪をなす夕べ
奇をてらふ恥もなければ空缶の火に手をかざす虚実まみれの
満天の星を
まさびしき夢を見たりき放蕩のはてに地獄の鬼になる夢
薄けぶり夕べの空に立ち昇りかくれんぼうの鬼も解かれし
人ひとり居なくなりにし村の果てススキの原を風はそよぎぬ
村絶えてひさしき春の陽だまりに蜥蜴の尾のみプッツリ動けり
木の幹を水登りけりざわざわと昔がたりを話す如くに
連なりしあをき山並み願ひ事かなふとすれど遥かなりにし
若葉萌え逝く人多き五月なり光る野道に
戻る