架空苑(其の拾) 中井龍彦 山河ありて西陽に照りぬ労働の身をひたぶるにわれも照りなむ
霧(きり)篭(ごも)る杉の木の間をあゆみゆく杉のねむりは太古の睡り
山陰に眠りゐるかな 神・ひはぎ・あるひは二万年前に転げたる岩
青春といふを忘れし村にありて夢いくばくの含羞(がんしゅう)をせり
愛憎のはるかなる夜を狂ひ鳴く蝉満月の露となるまで