鉄路にて死んだ女も春の日はマチネ・ポエチックのゴシップを聴く
ビルの間にいんよく充てるまさびしき都会の午後の形而上学的幻夢
かがやきはとほく地平にけぶりつつ大麻の夢にけふをむせびつ
冬空の寂廖を鳴きて去ぬ鴉は自殺者のたましひを銜へ
千の死種芽吹きそめにき花絶へし野にひるがへれ歌よわが歌
まうそうの尽きぬ夜ごとを睡らざる山河にしるく春の雪降る
かそかなる闇に息づく血の管をまもりて村は春なりぬらし
山並みに風鳴るを聴く三月はいまだし寒きウラノスの舌
耳しろき朝に目覚めむ昔日の風も遍路も留まざる里
黒き酒飲みほしたればあまつさえ暗き咽喉に夜がしたたる
山いくつ越えて木霊は帰るべしわが没落の春の沃野に
昆虫は春の菜を噛むきりきりとその憂憤にやつれゐるなり
山あをきいくすぢの峰をたひらかの風に縺るる日月なりき
草なびく真昼の丘に昔日の風のうらみは知られざるべし
山があり河がひかる 静謐の地にひとすぢの零落はしろく
あかときの空にたちくる祈りありさぶしき夢の涯はきはめず
晩夏の水に末枯れゆく花影を見つめいし朝ナルシスの不幸