鉄路にて死んだ女も春の日はマチネ・ポエチックのゴシップを聴く



ビルの間にいんよく(・・・・)()てるまさびしき都会の午後(ひる)形而上学的幻夢(メタフィジカルヴィジョン)



かがやきはとほく地平にけぶりつつ大麻の夢にけふ(・・)をむせびつ



冬空の寂廖を鳴きて()ぬ鴉は自殺者のたましひを(くは)




千の死種芽吹きそめにき花絶へし野にひるがへれ歌よわが歌




まうそうの尽きぬ夜ごとを睡らざる山河にしるく春の雪降る



かそかなる闇に息づく血の(くだ)をまもりて村は春なりぬらし




山並みに風鳴るを聴く三月はいまだし寒きウラノスの舌



耳しろき朝に目覚めむ昔日の風も遍路も留まざる里



黒き酒飲みほしたればあまつさえ暗き咽喉(のみと)に夜がしたたる



山いくつ越えて木霊は帰るべしわが没落の春の沃野(よくや)



昆虫は春の菜を噛むきりきりとその憂憤(うれたみ)にやつれゐるなり



山あをきいくすぢの()をたひらかの風に(もつ)るる日月なりき




草なびく真昼の丘に昔日の風のうらみは知られざるべし




山があり河がひかる 静謐の地にひとすぢの零落はしろく




あかときの空にたちくる祈りありさぶしき夢の涯はきはめず




晩夏(おそなつ)の水に末枯れゆく花影を見つめいし朝ナルシスの不幸



山河(やまかは)にきほふいかりを鎮めつつゆく風があるゆく(とき)がある








架空苑(其の参)   中井龍彦