記憶の町 −東日本大震災−
中井龍彦
ガレキといふひびき哀しき被災地に記憶の町を探す人びと
文明の利器も記憶もぐちゃぐちゃの瓦礫の街を人らさまよふ
被災地に届けむ言葉探す間に大き余震のありしを伝ふ
花愛づる心もとほに見放くりて被災地に咲く水仙あはれ
瓦礫野に降り積もる雪なにもかも隠せ隠せと人ら悲しむ
わたなかの廃船を見つめる老魚夫の眼はしょぼしょぼと涙を垂らす
とほくまでほろびし街を見下ろせり襤褸をまとひ火を囲む人
言葉消えこころは着のみ着のままに潰へし町にたたづむ人ら
見あぐれば青葉若葉のころほひに碧くかすめり東北の空
水取りの日に揺れし海、入り浜の瓦礫の町によろづ人死す
壊れゆく時計のきざむ音を聞く地震の記憶の中に眠れば
瓦礫野に水仙の花咲きしなり皇后さまの手に渡さるる
もろともに寒き故郷のわたつみにさらはれゆきし人ぞ幾たり
いま起きてることはホント?と子が母に尋ねし日々を余震が続く
ろうそくの炎に浮かぶ被災者の記憶をよぎる不明者リスト
2011年(平成23年)5月25日