伐り捨て間伐の意味

                                           
                                            中井龍彦



ひところ「間伐材を使おう」と書かれたワゴン車をよく見かけたものだ。

当時も今も間伐材の有効利用が林業の命題であることに変わりないが、では、間伐材とはどのような木で間伐とはどのような施行を言うのか、実はあまりはっきりした区分がないままに使用されて来たのが現状である。

 間伐、いわば「間引く」方法に対して、すべて伐ってしまうことを「皆伐」と呼んでいる。間伐はまた抜き伐り、除伐、択伐などとも呼ばれているが、専門的な色彩がつよく分かりにくい。一般的には十五年生ぐらいまでの細い木を間引くことを除伐と呼び、三十年生前後を間伐、六十年生以上になると択伐、抜き伐りというふうに使い分けているようだ。また林内の潅木を伐ることを除伐と呼ぶ人もいるし、材を利用する間伐を択伐、伐り捨てる間伐を除伐と呼ぶ人もいる。

 このような混乱がどうして起こったのかというと、昭和三十年代に植えられた木が一斉に採伐期を迎え、小径木とは呼べないぐらいに太って来たことが原因にある。つまり、二、三十年前までワゴン車に書かれていた間伐材とは、せいぜい足場丸太ぐらいまでのの小径木を指していたのである。

 柱になるような木なら言われずとも搬出されていたし、林内に伐り捨てられるのは成長の良くない不良木や価値のない木に限られていた。ところが戦後に植えられた木が四,五十年たっても「価値のない木」として伐り捨てられることで、除伐、間伐、択伐の意味が不明瞭になり始め、いわゆる皆伐でない方式を、すべて「間伐」と言う言葉でくくるようになった。

最近、間伐は搬出の伴った利用間伐と、林内に放置される伐り捨て間伐という言葉で使い分けられることが多い。だが気にかかることがひとつある。それは、すべての伐り捨て間伐をさながら『悪業』のように言う人が増え始めたことだ。

 管直人副総理も、NHKのテレビ番組や自分のホームページで、伐り捨て間伐を批判している。要約すれば「補助金目当ての伐り捨て間伐から,路網整備と機械化による利用間伐へ」「木材を育て、利用し、さらに植林すれば二酸化炭素の収支はゼロ。地球温暖化を防ぐ意味からも大きな意義がある。」と自らの理想論を言う。つまりこの提案は一面で「皆伐推奨論」なのである。CO2削減のためなら山を丸裸にして、また一から植林を始め、数十年を要する負のサイクルをくりかえそうということなのである。

 しかし、もうすでに林業にその余力はない。いつのまにか、林業は『業』としてすっかり成り立たなくなってしまった。

6年前の地方新聞の記事に、「3メートルで末口18センチ(0.1?)の杉丸太価格が2千円程度」ということを私は書いている。それが今では千円を切るまでになった。木材価格の下落はとどまる所がない。

 伐り捨て間伐の意味が打ち消され、材価が現状のままであるなら、いよいよ私たちが山を去る日も近い。    



                                           2010年1月



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