京都議定書と森林
中井龍彦
京都議定書が発効され、日本は温室効果ガスの削減義務を『誠実に遵守』するという方向に向かわねばならなくなった。その削減枠6%という数字がどういうものであるか、もう一度見直してみよう。中でも、6%に割りふられた森林吸収分3.9%の根拠をたどってみたい。
基準年一九九0年の日本の温暖化ガス排出量は、十二億三千五百万dである。その6%の七千四百十万dが日本に割り当てられた排出削減量だ。森林吸収分3.9%はその内の四千八百万dで、かなり大きな数値であることが分かる。そのほかに京都メカニズムによる海外調達が1.6%。国内における排出削減量が0.5%で、しめて6%。
『なんだそんなことか』と思われるかもしれない。だが日本の国内努力で減らすとすると、1d当たり約四万円かかると言われている。1%減らすのに約五千億円、6%だと三兆円。膨大な額である。そこで実現できる数値として、交渉の結果3.9%(森林吸収)、1.6%(CDM、JI,排出量取引)、0.5%(国内削減枠)に割りふられたのだが、二〇一〇年にいたってのガス排出量を、先日、政府はさらに6%の増加(〇三年には8%の実質増加)と推計して合計12%の削減義務を背負うこととなった。増加分の6%はすべて国内措置の0.5%に上乗せされ、CO2削減のための新たな社会システムの構築、ライフスタイルの大変革が真剣に問われ始めようとしている。
ところで、京都議定書の理念は、CO2の排出削減プロジェクトと吸収量増加プロジェクトの両面から成り立っている。排出源である化石燃料、吸収源である森林。ちなみに温室効果の三分の二が前者に起因し、森林の消失、劣化が三分の一の要因であるとされる。森林吸収分3.9%は、大まかには『森林経営』を実施した場合の(未知の数値)として日本にのみ割り当てられた。というのは、日本の森林から見込まれる実質吸収量はわずか0.56%程度で、全体では3%の削減量しか見込めず、どうしても6%の削減を呑めない日本は議定書から離脱せねばならない状況にまで追い込まれた。議長国である日本が離脱すれば、議定書は確実に効力を失う。EUはそこで、特別の条件を日本のために用意してくれたのである。
「マケラッシュ合意」と呼ばれている京都議定書の細則には、「森林」および「森林経営」「新規植林」「再植林」などの定義とともに、森林面積の大きいロシアやカナダのCO2の吸収量に上限値を設けることを目的とし(面積の小さい国にも設けられた)、さらに、国土に占める森林の割合が50%を超える国には吸収量のすべてを認めようという特例が加えられた。日本の森林率は67%であり、カナダ32%,ロシア37%、EU32%で、この特例に該当するのは日本だけということになる。ということで当初0.56%しか認められなかった森林吸収量を四千八百万dの3.9%まで確保することができ、この合意により二〇〇二年六月、日本は京都議定書に批准した。
この3.9%を念頭において、片隅に追いやられた日本の森林文化もう一度見直してほしい。