もの言はぬ樹に
中井龍彦
語るべき言葉もたばね裏山の桜、もみじ葉焚きて冬越す
から風に干からびし柿の実の一つぽとりと落ちてゆくりなく冬
年暮れてこんにゃく芋をゆがきゐるかくもつましき家族のひとり
ゆく年のことは語らじ大鍋に煮らるる芋のちゃうどいい頃
訪ひ来るはイタチ狸のたぐひにて神棚の酒冷えてしまへり
夜半おきて苦き煙草をくゆらする箪笥の隅に笑まふ人形
餅米を蒸しをり年の初めから終はりまで(食ふ)という子と
新しき年とは言へどガスの火に煮立てる粥をすすり食ひけり
やがてまた来る春のこと思ひをり
2007年12月8日 寺口逝く
残り葉をほつほつ落とす裏山のケヤキを見上ぐ友逝きし朝
山の友山にて逝けり寒空に雪鳥いとも静かに舞へり
山の木にかぞへられたる友のことなつかしむべく語る日は来よ
山姫に隠されしまま深山の木になりつらむもの言はぬ樹に
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