夏祭り




野の道に春日さしけりその昔牛連れゆきし少年老ゆる



あるときは下町むすめになりすます狐の居なくなりし現代

古家(ふるいゑ)
の梁傾きてゐることを知るや知らずや巣立つ燕よ


あはあはと日々過ぎゆけり古家にかなしむ間なく雨降り続く


たしかむる如くにあゆむ日々増へしむくげの花の落とす花首




紫陽花の花ひからびてゆく頃のひねもす妬み心を持てり


猫娘、火食ひ男の正体を証せぬままに過ぐ夏祭り


茄子 きうり、植ゑし四角の荒畑に柵を巡らせ獣となりぬ


物音の絶えし家並み移りゆく山肌の色、色あせし屋根


空かわく不吉なる秋おろおろと白菜畑の青虫つぶす


朝あさの夢を書きため火に燃やす有象無象の夢を書きため


枕辺に置きし蜜柑をあした食ふ古りし別離のありしがごとく



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