オリオンの星

                                                中井龍彦



電気店のマッサージ椅子に居眠りてとろとろぬるき日本を感ず


旅客機の音無く進みゆく空にほのかに
(あか)しオリオンの星


甍よりせり出す雪の嵩高くまた寒い冬が来たよと言へり


百人の願ひひとつにあらずとも白ひと色に降る今日の雪


小豆粥煮立つ竈の火のなかに棲むとふ神を探し見むかな


新年の雪踏みしむる足跡のひとつポストへ続きてゆけり


湯たんぽの温み残りし昼過ぎの布団に入りて春の夢みん


冬篭もる日々永ければ軒裏に吊られし玉葱の数などかぞふ


容赦なく雪降り積もる家に寝て
牛頭馬頭(ごずめず)の夢をり重ねゆく


日付欄つひに白紙の履歴書をとんど火に燃す睦月なかばの


落葉掃く庭の箒も星の空は魔女の飛具(とびぐ)となりて空舞ふ


新しく竹の箒を贖ひて儀式のごとくふたり雪掃く





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