中井龍彦



杉木苗植ゑて降り来る
生活(たつき)にも父亡き後のさびし空腹


やはらかに緑はぐくめ父ははの守りにし里に朴の花咲く


窓際に朱儒
の涙のこぼるれば六月いまだ肌寒き朝


木々がみな風にそよぐ日 空あをく慎みふかく今日を生きなん


日常を嘆きでてあれば山よりぞ蒼き
(ましら)の降り来るけはひ


幾たりの死者に出会ひし春過ぎ夏過ぎまた秋を過ぎにき


こぶし花咲ける春をかなしめば遠山並みを父過ぐるらし


崩されゆく山を日ごとに見て通る痛みもやがてさむざむとせり


野に山に言葉すがれてゆきし
(とき) 黒きこほろぎ世界を隠しぬ


一人去り二人去りしてわが里にゲゲゲの鬼太郎住みてくれぬか


秋空に黒き
(まなこ)の光るなり倖はひ薄き人を見つむる


けふは雨 木々の緑に濡れそぼつ産土神を憎しと思へり


寒空に黒き鳥影移る日に病みし獣のごとく山ゆく









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朱儒(しゅじゅ)の涙