一人居の老人と白き犬住みてかなしきまでに屋根に雪積む
ポケットに風をしのばせ帰り来ぬ異郷のごとく冷たき風を
人間がもつとまともであらんことを前提としてとんど火鎮む
火を待ちて帰り来にけりガス台に届けるまでの神の時間を
とんど火の大き炎に背をあぶり尻をあぶりて今年も生きむ
から風に揺れる竹並み老いぼれてカラスも山の樹よりこぼるる
朝まだき雪降りくればいそいそと隣家の犬も鎖をはづす
青年の記憶に沁みる雪解けの水はリズムを打ちて流るる
雪を見て風聴きてひとりしみじみとのっぺらぼうのやうに暮らせり
どのやうに時代が移り変はるとも雪積む村の朝はしづかに
飛行機の灯りほのかに感じつつあしたの雪が融けてゆきたり
雪の夜の寝物語りに裏山のキツネがくれし眠剤を呑む
七草の粥をすすりて昔からつきっぱなしの嘘を正せり
語られぬ内緒話のいくつかをキツネの宿に忘れ来し夜