IINAZUKE!13


あ〜あ・・・、僕は一体何やってんだろ。

隣で美味しそうに弁当を食べる彼女を見遣りながら不二は小さく溜息を吐いた。

「どしたん?」

どうしたもこうしたもない。
面倒な状況に追い込まれているのも全然気付かず、呑気に弁当を食べている彼女を見てると蟀谷の血管が2・3本切れそうになる。

「あのねぇ、誰のせいで・・な、なに?」

何を思ったのか彼女は突然不二のお腹の辺りを撫で始めた。

「お腹、痛いん?」
「は?」
「だって、お弁当全然食べてへんし、顔が何となく辛そうやから。」

どう考えたって楽しくお弁当なんて気分じゃないし、辛そうと言うかちくしょーなだけなんだけど。

「こうやって誰かに擦ってもらったら不思議と痛みって和らぐねんで。どう?」
「・・・・・」

勘違いもいいところだが、彼女は自分の食事もそっちのけで一生懸命不二のお腹をさすり続ける。

「ぷっ・・」
「何、吹き出してんの?」
「だって君って・・。くすっ、やっぱり従妹だけあって手塚にそっくりだと思って。」
「え〜〜〜っ、どこがっ!?国ちゃんになんか似てへんわ!」

少し前の不二なら確かに似ても似つかない従妹だと思っただろう。
だけどこの何日かでいつの間にかすっかり手塚を見る目が変わっていた。
見た目どおり思考回路も難しい奴かと思っていたがただ天然なだけだった。
勝手な思い込みで行動するし、自分の気持ちを一方的に押し付ける。
極めつけそれがどれだけ迷惑かなんてちっとも分かってないし。
そのくせ、結構優しかったりもする・・・。

「ほら、そういうところも。」

多分、同じ事を言ったら「俺のどこがあいつに似てるんだ!」って向きになるに決まってる。
意外と子供っぽいとこもあるんだよね。

「えーっ!」

彼女は不服そうにぷーっと唇を膨らませて再び弁当を手にした。
不二は彼女が可笑しくて仕方がなかった。

「お腹大丈夫みたいやね。」

笑ってる不二を見て安心したのかふくれっ面を微笑みに変える。
心配したり怒ったり笑ったり・・・まるで気まぐれな子猫のようだ。

参ったな、可愛いや。

恋愛感情を持ったわけではない。でも目の前の彼女は素直に可愛いかった。
はちゃめちゃにぶつかってきて、あれよあれよと言う間に術中に嵌められた気分だったが、
ただストレートなだけで何か企んでいるわけではない。
これは手塚家の気質なのか。
手塚にしてもこの娘にしてもどうしてこうも変則的な行動をとってくれちゃうんだ。
どうせなら最後まで迷惑この上ないを貫けばいいものを、思わぬところで不二の心を奪っていく。
どうしたものかと不二は溜息が出るほどに、この時間が心地よいと感じ始めていた。
困った状況のはずなのに、穏やかな空気を感じるのだ。心が自然と和らいでいく。
以前手塚が不二の家にやってきたときもこんな感じだった。
手塚の言動に反発しながらも何故か楽しくて、そのままずっと話していたくなった。
理由が何となく分かったような気がする。
それは手塚がありのままだから―――
極端ではあるけれど、裏も表もない正直な気持ちをぶつけてくるからだ。
そしてそれは自分に向けられた好意でもあるわけで。

手塚が許婚と聞かされて、阻止する事ばかり考えてきたが・・。
理由は「手塚が男」だっただけで彼自身のことではない。
手塚の事は―――好きだ。
でもそれが恋愛のいう好きと違うと思うのは「僕も男」だからじゃないだろうか。
同性という前提がある限り、恋愛対象としてはどうしても考えられなかった。
けれど手塚と接するたびに胸の奥底に何か詰まっていく感じがした。
投げられた想いが一つ、二つと沈んで身体の中で重みを増していく度に、本音の部分が浮き上がれなくなって、自分自身を見失っているんじゃないだろうか。

彼女に視線を向けながら不二はもう一つ向こうの影を見つめている。
いつの間にか彼女に手塚を投影させていた。
胸がちくりと痛む。
いつだって手塚がここにいるのだ。
そう、本当は分かっていた。
考えないようにしても、どこかで思ってしまう。
見ないようにしてもどうしても意識してしまう。
手塚に逢いたい。
日増しにそんな想いが強くなっている。

その正体は何なのか―――
手塚は不二にとっては尊敬に値する存在だ。
同性であっても憧れの人に好きといわれて嬉しくないわけがない。
ただそれだけなのか。それとも・・・・

「・・ぱい?なぁ、先輩ってば!」
「え、何か言った?」

彼女の声ではっとする。
我に返ると目の前にいるのは心配気な顔付きの女の子。
心ここにあらずだった自分に気付く。

「ほんまに大丈夫なん?」
「大丈夫だよ。ごめん、ちょっと考え事してただけなんだ。」
「それやったらいいけど、・・・・」

すっかり手塚にトリップしてしまっていた。
誰かと対面しながら違う事を考えるなんて相手に対して失礼なことだ。
いくら親しい人であっても無礼だろう。
どこからか手塚のそんな声が聞こえた気がする。
手塚との距離が近づくにつれて、今まで気にも留めなかった自分の行動が引っかかるようになった。
人として常識的なことを考えるようになった。

「ごめんね。」

すまなそうに謝る不二に彼女はさっぱりと笑って言う。

「大丈夫やったらそれでいいねん。私のことやったら気にせんといて。無理やり付き合わせてる訳やし。」

へぇ・・意外に殊勝なことを言うんだ。

「自覚あるんだね。」
「・・・っ。ふっ、普通、そんなことないよって言わへん?」
「だって本当のことじゃない。」
「・・・・うぅっ。ご、ごめんなさい。」

何度も言葉を詰まらせた挙句、謝ってしまう潔さが可笑しくて不二はくすくす笑い出した。

「ふふっ、君って面白いね。」
「そう?じゃあ付き合ってみーへん?」
「それとこれとは話は別!」
「ちぇっ!」

互いに顔を合わせて噴出す。あははと空に笑い声が広がって爽快な気分になる。

「あ〜あ、国ちゃんよりはましと思うねんけどなぁ。」

さらっと苦笑まじりに言われてドキリとした。

「なんで手塚がでてくるの・・。」
「だって先輩、国ちゃんが好きなんやろ?」

心臓が止まりそうになった。
自分でも分からない気持ちを他人に代弁された。
しかも何て直球を投げつけるのか。

「え・・いや・・僕は・・」

どう答えて良いのか分からない。
不二が一番行き詰っている部分だ。
しかし彼女には少なくともそう映っているということだ。
こういうことは他人の方が冷静に判断できるのだろうか。

「どうして、そう思うの?」
「どうしてって・・何となくやけど。」
「だって僕らは男同志なんだよ。君だってそう言ってたじゃない。」

彼女はうーんと首を傾げ考える素振りを見せながら続ける。

「そうやけど・・気持ちなんてどうしようもないやん。そんなん言うたら私かって婚約者がいる人を好きになってしまったんやし、恋なんてそういうもんちゃうん?」
「でも僕と君は一応異性なわけだし、望みがないわけじゃないから・・。」
「それほんま!?」
「い、いや物の例えってやつです。」

ぱっと明るく顔をあげて食いついてくる彼女を両手で制止しながら慌てて付け加える。
途端に笑顔がふくれっ面に変わって、

「ほら、そんなもんやんか。結果がNOなら女でもおんなじやん。」
「そう・・かな?」
「そうや。基準を男や女にするからややこしいねん。そりゃあ結婚ってなったら法律とか色々あるやろうけど、まだ中学生やん。そんな先のこと置いといて、一緒におって楽しかったらいいんちゃうん?そのうち手繋ぎたくなったら繋いだらいいし、チュウしたなったらしたらいいし、嫌やったらやめたらいい。難しく考えんでも結果なんて自ずと出るもんや。そしたらお腹もすっきりするやろ?」

お腹って・・・・的はずれな事を言ってるわけではなかったのか。
分かってないようで分かっている。彼女なりにちゃんと不二を見てるのだ。
それにぶっ飛んでいるわりには筋の通ったことを言う。
しかも何気に優しくてそんなところはやっぱり手塚に似ていると思った。
結果は自ずとでる・・・か。
そうかもしれない。いや、きっとそうなんだ。
考えても答えなんて出なかった。
日毎に手塚に惹かれて行く自分に気付きながらも、否定する事ばかり先走って。
けど手塚ともこんな風に話してみたらいいんじゃないか。
許婚とか結婚とかそういうことは考えず、思いのままにぶつかってみればいいんじゃないか。
男でも女でも友達でも恋人でも許婚でも手塚は手塚なんだ。
もう少し彼自身を見ることが大切なんじゃないか・・。

「手塚と話がしたい・・な。」
「構わんぞ。」
「ひっ!」

突然背後からかけられた声。
忍者かこいつは!
一体いつからいやがった―――
テニスプレイヤーだけじゃなくて陸上自衛隊なんてのも向いてるかもしれない。

「いつもながら君のそのタイミングよさには敬服するよ。」
「そうか、ありがとう。」
(褒めてんじゃねぇ。)

そして始まる―――

「ちょっとぉ〜何しに来たん?私らの愛の時間を邪魔せんといて!」
「何だと!聞き捨てならんな。俺達の間に割って入ってるのはどこのどいつだ。」
「ふっ!割られる奴が悪いんや。こうなったら粉々に砕いてみせる。」

彼女の挑戦的な台詞にしっかり反論する手塚。
そしてまた彼女の気合に熱が入る。

「あの・・ね・・ちょっと、君達・・落ち着いて。」

不二は眼光鋭く睨み合う二人を交互に見ながら、背筋嫌な汗が流れるのを感じた。

「お前がかかってるんだ、落ち着いてられるか!」
「それは私の言う台詞や!」

「君、さっきと言ってる事が・・。」
「別に身を引くとは言ってへん。私は私。やるべき事をやるまでや!覚悟しいや。」

この迫力は何?・・それに何を覚悟しろっての。
顔半分がひくひく痙攣する。笑おうと思っても半分しか動かないのだ。



これも偏に不二への深い愛ゆえに
手塚と彼女は不二の迷惑も顧みず今日もしょうもない抗争を繰り広げる。


「愛・・ね・・これが・・愛・・はぁ・・・・」


悩める乙女(不二)は今日も頭が痛かった。


「だからっ!いい加減にしろっ!!」


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久々の更新のくせに何の展開もなくてですみません。
いつものパターンで騒いで終わりです。一応不二君がほんのちょっとだけ覚醒し始める・・って感じで(謝)。