誰かを好きになる。
人としてそんな当たり前のことを認めるのが辛い
――――僕の君への想いはそんな恋。

だって初めから叶うことなどないんだ。
万に一つ君が僕を好きになったとしてもそれは決して現実にはならない。


あの日、自分の涙が教えてくれた。
だけど声には出せない感情、出してはいけない心・・・

吐き出してしまってもその気持は宙に舞って消えるだけ。
たとえ受け止めあえたとしても、この世界に本来存在しない想いだから。
塵となって消えるのでもない。初めからないんだ、そしてこれから先もずっと幻のまま。



だから分かってよ―――


何も言わない僕を
本当は何よりも君が大切なんだって
何も言えない僕を


どうか分かって、


ねぇ、手塚・・・


REFLECT V 〜Happy birthday dear Tezuka〜


近頃は繁華街や中心地だけでなく極静かな住宅街でも電飾の光で家や庭を賑わす風情が日常化している。
まるで競うように我先にと挙って灯りがともされ、先日までの殺伐とした景色とは打って変わって全体が華やぎ浮かれた雰囲気を醸し出していた。
街中や店舗の装飾も金や銀のラメがところどころに加わり、ショーウインドウがプレゼントを意識したものへと変化する。

クリスマス―――か・・。

彼や彼女がいる奴は早くから色々な計画を練って、いかに当日を盛り上げるか、そんな話題で持ちきりだった。

「不二はさ、誰かと過ごさないの?」

何気に投げられた質問に手塚を思う僕がいる。だけどそれを説明できるはずもなく、

「恋人なんていないから、クリスマスは家で過ごすよ。」とさらりと交わしておいた。

もちろん手塚と約束をしているわけではないけど、その日はいつものように鏡の向こうの彼と一緒にいるんだと漠然と決めていた。

「お前、彼女なんていなくても選り取りみどりじゃん。クリスマスに家族となんて色気ねぇ。その日だけでも適当に遊べばいいのに。」
「そんなこと出来ないよ。」
「ばっか!もったいねぇ。一人回せ!」

騒ぎ立てる友人達との会話、僕の関心はすでに別の所に向けられていた。

彼女・・ね・・・。

そう言えば手塚って彼女とかいるのかな。
美形だし勉強もできるしテニスも負けなしってことはスポーツも万能だよね・・・きっともてるに違いない。
妙に硬いところがあるし、口数は少ないし、女の子と二人であるいてるところなんてちょっと想像しがたい。
勝手な想像だけどそっち方面は何となく苦手っぽく感じる。だけど実際はどうなんだろう?
好きな子くらいいてもおかしくはない・・か。
根はすごく優しいし、そんな子がいたらとことん大切にするタイプかもしれないな。

聞いてみようか・・。
でももし手塚に彼女がいたら・・僕は今までどおり鏡に笑い掛けることができるだろうか。

「くだらない・・・」

手塚の彼女に興味を示してしまった自分を首を振って否定した。
たとえそんな人がいても、それを知ったところで僕はどうすることもできないし、それが誰か分かっても手塚と二人でいるところを見ることもない。
でも気になって僕はきっとこっちの世界にいる彼女を見に行ってしまう。だけど僕の眼に映るその子は手塚の彼女ではない。
そんな状況、嫉妬することすら不毛なんだ。
自分を苦しめるだけなら何も聞かず、何も言わないのがきっといい。




「ねぇ手塚はさ、クリスマス何か予定あるの?」
「ああ、テニス部の同期でパーティするとか言ってたな。」
「それは前日の23日でしょ。」

僕の世界でも当然同じパーティがある。
パーティといってもタカさんちでお寿司をよばれてドンちゃん騒ぎをするだけだ。
それはそれで楽しいだろうけど僕はその日も本当は手塚と過ごしたかった。
ただ、手塚も当然、同日、同時刻に、同じパーティに行くなら、ここにいても仕方が無いという訳だ。


「ああ・・、24日と25日は特に予定はない。」
「そう、僕もなんだ。」

「僕も」って強調して言ってるようだ。しかもちらっと物欲しそうな目付きまでしてしまった。

「その日は一緒にケーキでも食うか。」
「ホント!でも一緒にってどうやって・・?」

僕達は鏡を挟んで別の空間にいる。
こうして話はすることが出来ても一緒に何かをすることなんて不可能だ。
自分の表情が翳りだすのが分かる。一番考えたくない現実だから。

そんな僕を見透かしたのか、溜め息混じりに君は続けた。

「別にそんなに難しく考えなくてもいいだろう。互いに鏡に向かって食えばいいだけだ。」
「そう・・だね。そうだけど・・・ぷぷっ――」
「何故そこで吹き出すんだ?」
「だって・・」

つい想像してしまった。
鏡に向かって食べればいいだけ。
そうだね。一つのケーキを分け合えなくても一緒にクリスマスケーキを食べることはできる。
でも二人で食べてるのを実感してるのは僕達だけで、鏡に向かってケーキを食べる、そんな構図とっても滑稽だよ。
まして君のその真剣な顔つきで鏡を睨みながらケーキを食べてるなんて想像したら可笑しくって。

「楽しみだね。」
「ああ。」

一緒にケーキを食べたってきっといつもと変わらないだろう。
たわい無い話をしながら過ごすだけ。
けれどその中に「メリークリスマス」なんて言葉が添えられるだけで特別な日に思えてくるから不思議だ。
そしてその特別な日に君といられることがこんなに嬉しい――――
世間のカップル達が騒ぎ立てるのも分かる気がした。


「だが家族や友達と過ごす時間も大切にしろ。」
突然の言葉にふっと我に帰る。

「え・・?」
「その日はきっとご家族もいろいろ用意されるんじゃないのか。弟だって一緒に騒ぐ相手が欲しいだろう。」
「う・・ん。分かるけど、僕は君と過ごし・・。君も家族でパーティとかするの・・?」

手塚は一人っ子と聞く。
もしかしたらご家族がひとり息子のためにこういう日は何かと準備するのかもしれない。
僕にだけ付き合ってるわけにはいかないのかも。

「いや、俺の家は西洋の文化には疎い。爺様の考えもあってクリスマスといって騒ぎ立てることはなにもない。ただ母だけが俺に気を遣って毎年ケーキを焼いてくれる。」
「そうなの?だったら・・。」
「不二、俺達は出会ってから2ヶ月、家にいる間は殆ど一緒にいた。その分周囲との関わりが薄れているということだ。俺はまだいい。兄弟はいないし、父母も祖父も構う方ではないから、これまでも自室で過ごすことが多かった。だがお前は違うんじゃないのか?」
「ち、違わないよ!僕は、僕も・・・。」

続く言葉がなかった。
彼の言うとおり、今までのように家族と過ごす時間は減った。
友達に誘われても断る回数が増え、最近では声を掛けられることが二回に一度になったことも事実。
だけど僕はその方が寧ろよかった。君とこうして過ごす時間のほうが大切だから。
でも手塚は違うの?
僕のような感情で手塚が僕を見てないことくらいは分かっている。
だから想いは自分の中に封じてきた。
けれどせめて友達として、君にとって僕は必要な存在であると思っていたかった。

「君は僕がここにいない方がいいって思ってる?」
「勘違いするな。お前といたくないといってるのではない。ただ―――」

続く言葉を発することが辛い、如何にもそんな表情を浮かべる君。

「ただ・・何?」
「やはり現実ではないんだ、不二。俺達がずっと一緒にいられる保障などどこにもない。突然現れたように、突然消えてしまってもおかしくはない。そうなった時、お前に残るものがなくてはだめなんだ。人間は一人では生きてはいけない。家族や友人が掛け替えの無いものということは分かるだろう。」


不二、お前を支えてるものはお前の現実なんだ―――


分かっている、君との関係が本物にならないことくらい。
どんなに想っても近寄れない君よりも、実際触れ合える人達の方が本当は大切にしなきゃならないんだってことも分かっている。
そしてそれは君にとっても言えること。君のことを思えば僕に捕らわれた生活を送らせるわけにはいかない。
けれど君が消えるなんてどうしても考えられないし、君のいない生活に耐えられる自信も無い。


明日、いや、一分一秒先に消えてしまうかもしれない虚実に怯えながら、それでも君といたいと思う僕は傲慢なだけなんだろうか・・。






クリスマス・イブ―――

部活には出たもののすでに学校は冬休みに入っていた。
選り取りみどりなんて意識は無かったけど、自分がそれなりに女の子に人気はあることは気付いていた。
僕なんかの何がいいのか分からないけど、人に好かれることに悪い気はしない。
でも、この日は朝から色々な子にプレゼントを持ってこられたり、イブの誘いを受けたりして、ほんの少し煩わしかった。
中には結構しつこい子もいて僕は正直げんなりしていた。

早く手塚に会いたい。二人で寛いでゆっくり過ごしたい。
僕は手塚のことばかり考えながら自宅に戻った。

「手塚・・?」

珍しく帰ってないようだ。
部活は同じ時間に終わる。
いつも手塚のほうが早く帰って着替えを済ませていることが殆どなのに今日はどうしたんだろう・・・。

オフシーズンの休み中の練習は午前中が中心だ。終了時刻もかなり早い。
今日はイブということもあり、そのまま恋人と出かける奴もいれば、夜のクリスマスパーティの準備に走る奴らもいて僕のように真っ直ぐ家に帰る者は珍しいだろう。
手塚に言われたことを忘れたわけじゃない。無視しているわけでも。
実際あれからは少しずつ仲間と出かけるようにもしている。
手塚との時間はほんの少し減ったけど、今までどおり毎日顔を合わせ、話もした。
本当は今日も何度か友達から声をかけられた。でも昨日テニス部の皆と集まったばかりだし、何よりも「一緒にケーキを食べよう」と約束したことが頭にあって、やっぱり今日だけはゆっくり手塚と過ごしたいと思って帰って来た。

なのに―――肝心の手塚がいない。

「予定は無いって言ってたのに・・。」

鏡が何処からでも見えるように、クローゼットの扉を全開して彼の帰りを待つことにした。




「兄貴、起きろよ、飯だぜ!」

身体を揺すられてはっと気付く。辺りはもうすっかり真っ暗で、いつの間にか僕は眠ってしまっていた。

「えっと、何時・・?」
「もう6時回ってるぜ。少し早めだけど今日はクリスマスだし、飯にしようって母さんが。」
「そう。」

ちらりと鏡の方を見る。手塚はいない・・・ようだ。
家には帰ってるんだろうか。手塚が鏡に映らなければ僕は彼を見ることはできない。
もし手塚が他の部屋にいたら彼がいるかどうかなんて僕には分からないし、手塚の家も夕飯なのかもしれない。

僕は小さな不安を感じながら、裕太と階下へ移動した。

夕食は母と姉が手を掛けて作ったクリスマスメニューだった。
こんな風にクリスマスを意識して飾り付けや料理を施してはくれるが、僕の家も子供のためのイベント事に過ぎず特に何があるわけでもなかった。
父は仕事の都合で帰国するのは正月前になる。
姉はそそくさと彼氏の元へ出掛けていったし、裕太と僕と母でケーキを食べた後はいつもと何も変わらずリビングで寛いでいるだけだ。
裕太はクリスマス企画のドラマを見入っているようだ。
僕は姉が焼いてくれたケーキをもうひとつ切り取って、自室へ戻った。


「手塚?」

鏡に映るのは自分自身。手塚はやっぱり部屋にはいないようだった。
時間はちょうど8時。
普段遅くまで部活があるときもこんな時間に帰ってこないことはなかった。
やはり他の部屋にいるんだろうか。それとも―――

「まさか・・。」

僕は鏡を手のひらでパンパンと押さえた。
いつもと何も変わらない。だけどいつもと何も変わらない状況で、突然君は現れた。
終わりに何の変化がなくても不思議ではない。

「そんな・・嘘・・。」

愕然とする僕。
いつかくるかもしれない、漠然と考えはしていたもののこんなにあっけなく、こんなにあっさりと終わってしまうなんて。

がくがくと震える体を自分で抱きしめるようにその場に立ち尽くしてしまう。
体中の熱がすーっと引いたように冷めてきて、頭が真っ白とはこのことだろうか。眼に映るはずの僕自信の姿も何も見えなくなっていた。


「おい、どうかしたのか?」
「え・・?あ・・・」

急に飛び込んできた君の顔に僕は安心して力なくへなへなと座り込んでしまった。

「お、おい!!」
「よかっ・・・。もう会えない・・か・・って。」
「・・・すまない・・・要らない心配をさせたようだな。」

僕のただならない様子をみて、手塚は僕が何に驚愕していたのか悟ったようだ。

「今日は、やっぱり今日だけは君といたくて、待ってたんだ。会えてよかった。」
「いっぱい待ったのか?」

手塚は未だ制服姿だった。
きっと部活の後、何処かへ出かけていたんだろう。

「うん、でも途中寝ちゃってさ。だからそんなでもないよ。それよりここが通じなくなったかもってそっちの方がびっくりして・・。よかった、ただの外出で。友達と出掛けてたの?」
「いや・・その・・まあそんなところだ。」

手塚にしては珍しく濁した答え・・。待ってた僕に気を遣ってるのかな。
少しは妬けるけど、君にも現実の友達がいるはずだ。それはそれで認めないといけない。

「夕飯は?」
「外で済ましてきた。」
「へぇ、君が珍しいね。やっぱり今日は特別なのかな。」

ふと手塚の胸元が目に入った。

「あ、・・そのストラップ・・。」

学ランの黒い胸元がきらりと光る。ケータイのストラッブがはみ出してぶらりと揺れていた。
色こそは淡い青だったがおおよそ男が自分で買うデザインではない。
そして僕は同じものを持っていた。



部活が済んでからも何人かの女の子から声を掛けられた。
僕は適当にやんわり断りを入れて交わしていたが、どうしても一人なかなか引かない女の子がいた。

「付き合ってくれって言ってるんじゃないんです。今日一日でいいから。」
「ごめんね。どうしても約束があるんだ。」
「約束って女の子ですか?」

一層のこと「そうだよ」って言ってしまえばよかったのかもしれない。だけど目の前であれだけ泣かれたら、僕もどうしていいか分からなくて。

「違うよ、友達と大切な約束なんだ。ホントにごめん・・」
「そう・・ですか。じゃあせめてこれだけは貰ってくれませんか?私とおそろいなんですけど。」

プレゼントの類は全て断っていた。
思わせぶりなことはしたくなかったし、一方的に貰うなんて気が引ける。
だけどここで断ったら、彼女は更に粘ってくるかも・・とつい打算的に受け取ってしまった。
お陰で解放されたけれど、その気もないのに付けることなんて出来なくて結局そのままにしてしまっていた。
それと全く同じものが今手塚の携帯に付いている。
付いているということは僕のように偽善で受け取ったのではないということだ。


「もしかして会っていたのは女の子?君、彼女いたんだ。」
「何のことだ。」
「隠さなくたっていいじゃない。別におかしなことでもあるまいし。」

そう、手塚に彼女がいてもちっとも不思議なことではない。
ストラップをくれたあの子は実際凄く可愛い子だった。手塚にだって釣り合うと思う。
今日のイブはきっと二人で楽しくデートしていたんだろう。僕が君を待っている間、ずっと・・・。
怒るようなことではない。むしろ友達として興味を示してもいい所だと思う。
けど、僕は不機嫌を隠すことが出来なかった。
言葉のひとつひとつ突っかかっているのが自分で分かる。

「分かった、僕に家族や友達と過ごせって言ったのは、自分が彼女と過ごす時間が欲しかったからだろ?」
「何だと?」
「友達は掛け替えの無いものだとか言っちゃって、結局自分が彼女といたかっただけじゃない。あ、そうか僕が消えたって大事な彼女そっちにはいるもんね。」
「本気で言ってるのか?くだらない事ばかり考えるな!頭がおかしくなったんじゃないのか?」

僕は手塚の言葉尻を捕らえて更に言いがかりを付けた。

「君こそ正論めいたことを言って、やっぱり僕が邪魔だっただけじゃない!」
「もういい!」

バンッ――
と手塚が鏡を叩いた音が響いて、君は僕の姿に変わった。

出て行ってしまった・・・。
凄く怒っていた。あんな風に怒ったのなんて初めてだ。あんな悲しそうな顔を見たのも。
分かっている。手塚は何も悪くない、悪いのは全部僕だ。
君に彼女がいたって、その子とどう過ごそうと僕に何も言う権利なんてない。
そもそも異世界に住む僕が入り込む余地なんてあるはずもないんだから。
そして僕のこの感情がジェラシーだなんて君は想像もしないだろう。
僕は男でこんなこと感じること自体、異常なんだ。

「あはは・・・はは・・。」

あまりに可笑しくて涙が零れた。





家族と過ごすことにしたのか、再び家を出て彼女の所に行ったのか、手塚は戻ってはこなかった。

その日は一緒にケーキでも食うか―――

ささやかな約束をぶち壊したのは僕。
一緒に過ごすことを何よりも楽しみにしていたはずなのに・・・。
謝らないといけないな・・でもあれだけ酷いことを言ったんだ。
許してくれないかもしれない。

僕も自室を出て、バスルームへ向かう。
自分の汚れた感情を全て洗い流したかった。


「ねぇ、この子運ぶのちょっと手伝ってくれるかしら?」
お風呂から上がった僕に母さんが言う。

裕太がソファでテレビを見たまますっかり眠り込んでしまったようだ。

くすっ――
無邪気に眠る弟の顔を見て思わず笑みが漏れた。

「あれからずっとテレビを見てたの?」
「ええ、お兄ちゃんが遊んでくれないから退屈なのよ。」

そうか。手塚と出会うまでは家では裕太といる時間が断然長かった。
クリスマスの日くらい一緒に過ごしてあげればよかったな。
そうすれば手塚とも喧嘩せずにすんだのに。

「ごめんね、裕太・・。」

僕は半分裕太を持とうとする母さんを抑止して、裕太を担いだ。

「あら、軽々持ち上げて、やっぱり男の子ね。いつの間にか背も随分高くなったし。」
「そんなこと、僕なんてまだまだ小さいほうだよ。」


背か・・・
初めて会った時はあまり変わらなかったのに手塚は僕よりかなり大きくなった。
あれから2ヶ月と少ししか経ってないのに。
それだけ時は流れてるんだ。
知らなかった事実も知る、それは自然のことだ。
明日、手塚に会えたら謝ろう。許してくれなくても僕はやっぱり手塚に謝らなきゃいけない。



部屋に戻った僕は自然と鏡に目を運んだ。

「あ・・・手塚。」

そこには手塚の姿。
きっとあれはベッドだろう。手塚は無防備に眠っていた。

周りが明るい、きっと灯りをつけたままだ。布団も掛けないで・・・風邪を引いてしまう。
だけど僕は黙って見ていることしかできない。
きっとあの子なら君を守ってあげることが出来るんだろうね。
寄り添って暖め合うことが出来る人・・君は滅多に見せない笑顔を彼女にだけは向けるんだろうか。
優しく隣にいる人に笑いかける。君のそんな特別な姿を見ることができるのはどうして僕ではないんだろう。

テーブルには一緒に食べるはずだったケーキ。
生クリームが暖房の熱で溶け始め形がだらりと崩れだしていた。

「ごめん、手塚。・・僕君に何もできないや。布団すら掛けてあげられない・・ごめん、ごめんね・・。」

僕が君に出来る唯一のこと、それはただ謝ることだけだった。
涙が止め処なく溢れて、君を思う気持も溢れて、堰き止めることなんてできない。
僕は君が―――


「好きなのに・・・手塚。」

今だけなら言ってもいいかな。
そっと伝えた僕の告白・・・眠った君に―――





君が好きだよ








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