どんなに悲しい事もいつか時が癒してくれる。
新しい出来事がまた訪れて、そしてそれに順応していける。
人間はそんな力のある生き物だ。

だから僕も明日に向かって、進まなきゃいけない。

想い出は色褪せることなく、ずっと鮮明なまま。
だけど悲しみよりも喜べるようになっていくんだ。

君と過ごした日々は僕の人生の宝物だよ。

僕との出逢いを最高のプレゼントと言ってくれた事があったね。
今もそう思ってくれてるかな。

同じこの空の下。

どうか君が幸せでありますように―――


REFLECT [ 〜Happy birthday dear Tezuka〜


君がいない日々は瞬く間に過ぎ、僕は中学3年になった。
全国へ行こう。
君との約束を果たすために、僕はただ只管練習に打ち込んだ。

驚異的な強さを持つルーキーの出現で僕らの夢はますます現実味を帯びていき、
この夏、全大会優勝と言う最高の形で全国大会の切符を手に入れた。


やったよ、手塚。
君の夢、僕の夢、青学の夢が叶ったね。
君も僕と同じように、今こんな爽やかな気持ちでいるのかな。
一緒に喜び合うことが出来るなら、もっともっと嬉しいだろうね。

おめでとう、手塚。





勝ってみせる―――
強い意志がメンバー全員の意識を高める。

負けるもんか!
優勝するのは青学だ。

強い・・・青学のメンバー一人一人が強靭な強い心を持っている。

団旗に写る青学の文字。
それを目にした僕は更なる高みを目指し、全国を見据えた。










×××××××××








街を通り抜ける風が少し冷たくなってきた。
青々としていた木々の葉も少しずつ色褪せてきて、何処からか秋の虫の声も聞こえてくる。

君がいなくなってから、ただテニスに打ち込む日々が続いた。
そんな部活も全国大会を最後に引退。
内部進学する僕は受験もほとんど関係なく、毎日のんびり過ごす日々が続いていた。
時々は部活に顔を出して、後輩と打ち合うこともあり、また同期のメンバーと寄り道したり、遊びに行ったり毎日はそれなりに楽しくもあり充実もしていた。

一時うまくいかなかった弟の裕太とも、またテニスをしたり、話をするようになった。
距離を置いたのが反って良かったのかもしれない。
以前のべたべたした関係よりももっと深くなれた気がする。
兄弟だから、口に出さずしても通じることがあるのだと漸く僕は知ったのだと思う。

そんな穏やかな日の中、僕のなかに解消されずに残る気持ちが揺れていた。
またあの日が近付くにつれ、どうしても拭いきれない思いに押し潰されそうになる。
全国という目標が終わった今、気が抜けてしまったのかもしれない。
脱力したような無気力感が僕を襲っていた。


結局、僕は何も吹っ切れてはいなかったんだ。
テニスに明け暮れる日々に任せて、考えないようにしていただけで、君に対する気持ちが消えたわけではない。
君がいない日々が平気なわけでもなかった。
でも、あの日以来、僕はそのことを悲しいとは思わなくなっていた。
思う必要がないと言うほうが正しいかもしれない。

けれど苦しい気持ちだけが僕を責めて、何も手に付かずぼんやりしてることも多くなってしまった。

「こんなんじゃ、怒られちゃうね。」

他に目を向けていこうって約束したのに。
手塚を想いながら自嘲する。


「何か言った?」英二が目を丸くして僕を見た。
「ううん、何でもないよ。」
「ふーん・・。なあ、空がすっごく綺麗だにゃ。」


空―――
秋の夕暮れ、空は茜色に色を染める。
何処までも続くその景色に僕の気持ちが流れ出た。

「ごめん、英二。用事思い出しだ、先に帰るね。」
「え?不二?」

急に帰ると言った僕に、きょとんとしながらもばいばいと手を振る英二を後にして、僕は走り出した。

見つけなきゃ。僕達の空を―――
そうすれば僕は乗り越えれるかもしれない。
いや、きっとそうだ。

今度は僕が君に見せたい夕焼けを見つけるんだ。
そしてこのルアーに映し出すことができたなら、君を想い出に変えられる。

きっと出逢えたことに感謝できる様になる―――


それから毎日僕は手塚に見せたい夕焼け空を求めて自転車を漕いだ。
来る日も来る日も空を見上げて茜色が紫になり闇に呑み込まれていくまで走り続けた。



今日は10月7日、君の誕生日―――
僕達が出逢い、別れた日だ。
できるなら今日までに見つけたかったのに、どうしても僕が思う空はなかった。

住宅地の屋根々々から覗く空。
川原に座って眺めた空。
広い公園の芝生に寝転んで見上げた空。
高いビルの屋上で同じ高さから溶け込むように見た空。

そのどれもが君に見せたい、君と一緒に見たい夕焼けではなった。


「なあ、今日は一緒に部活に顔出そうぜ。」

授業が終わって、英二が誘ってくる。

「ごめん、今日は・・。」

今日中にどうしても見つけたかった僕はやんわり断りを入れかけたけど、

「ちぇーっ!やっぱり行かないかー。最近付き合い悪くなったにゃ。」
「・・え?」

そんなつもりはなかった。
英二は僕にとって親友だと思っているし、他の皆とも・・・
でも、確かに僕はここ最近付き合いが悪いと言われても仕方がない行動をとっていた。
手塚が僕に望んでいる事は、空を探す事じゃないはず。
自分の世界を何よりも大切にしろ。
きっと君ならそう言うはずだ。
僕がやってることは自己満足。自分が君という呪縛から逃れたいだけ。
形も存在すらない君のために何かをして、残ったものが孤独だったら世話がない・・か。

「分かったよ、英二。今日は一緒に部に顔を出すよ。」
「マジ?やったあ!俺不二がいないと淋しくってー。」
「ごめんね。僕も君と、君達と一緒にいたいよ。」

部に出るのは久しぶりだった。
今、部長を務める桃も大歓迎してくれて、ちょっと強気なルーキーだった彼も

「遅いっス!」とちょっぴり不貞腐れた様子を見せた。

「俺の相手できるのは先輩しかいないッス。」とボソッと言った声を聞き逃さなかった桃と海堂が
「なんだと!わりゃー!!」と越前を追いかける。
「だって本当のことっす!」

あくまでも強気な発言をしながらも、帽子を押さえながら逃げる姿がなんとも可笑しくて皆で声を出して笑いあった。

そうだ。大切なものは目の前にある。
僕を慕ってくれる皆を見つめていかなきゃならない。
そんな彼らが僕は大好きだから―――。

久しぶりに流した汗は本当に気持ちがよかった。
制服に着替え部室を出る。
他の部員と話し込んでいる英二を外で待っているうち、何気なくテニスコートに入った。
ここで全国大会に向けて青春を過ごしたんだ。
そんなついこの間までの出来事が走馬灯のように甦ってきた。
終わってしまえば形にはならない。でも確かに僕の中に皆と過ごした、皆と戦った日々が何にも変えられない思い出として残っている。

手塚との日々もそれと同じかもしれないな―――


そう思ってふと見上げた空一面に、深く果てしない朱が広がっていた。

「こんな・・・、こんなとこにあったんだ。近すぎて、分かんなかったよ、手塚。」

そしてあのルアーを鞄から出し空に翳した。
きらきら反射する光は眩しい位に綺麗で、残酷としか思えなくなった茜色の空が僕のなかで溶け出して、ぬくもりに包まれる。
最後の最後で触れ合えた君のぬくもりだ。

忘れない――1年たった今日も。これからも。
君に逢えてよかった。

心からやっと思えるよ。


「ふっ・・うっく・・うぇっ、・・ひっ・・・うっく・・・ふぇっく・・・。」


ルアーを握り締めて僕はただ泣いた。
君と別かれた1年前の10月7日以来、やっと僕は泣くことができたんだ。
でもこれは悲しい涙じゃない。僕は一人で立てる、そんな嬉しい涙だった。






×××××××××





高校1年生―――秋

あれからまた一年時は流れた。
君がいない日も当たり前になり、いい想い出だと今では微笑ましく思う。

初めて青学を全国大会に導いた僕たちも今はまた1年生。
球拾いやコート整備などの雑用に借り出される立場だ。
でも次の目標はもう心に決まっている。


とりあえず秋のレギュラー争奪戦で勝ち残ったわけだし。

インターハイ―――
団体戦はもちろんだけど、次は個人も狙っていく。


そんな大胆な野望を持って、また部活動に精を出す日々を僕は送っていた。





部活終了後、僕は中等部のテニスコートに座っていた。
そっとルアーを取り出す。

そう、今日は10月7日、君の誕生日を祝いたくて、あの夕焼け空を手塚と一緒に見ようとやってきた。

今日の日に感謝を―――
この日、10月7日がなければ、僕達が出逢うこともなかった。
君がいたから今の僕がある。

だから、心からおめでとう。

「ハッピーバースデイ、手塚。」

小さく囁いた瞬間空に翳したルアーが弾けるように光出した。
さまざまな不思議な色を反射して、きらきらと輝きまるで虹のシャワーを浴びるように僕の身体を包み込む。

「え・・?・・あはは・・こんなことってあるんだ。綺麗・・・。」

きっと今手塚に僕の気持ちが通じたんだね。
僕は嬉しくてその光の中そっと目を閉じた。



「おーい!!不二。こんなとこにいたのか。随分探したんだぞ。」

英二が手を大きく振って駆け寄ってくる。

「ごめん、ごめん。」
「いいけどさー、早くしないと遅れるぜ?」
「遅れるって?」
「なーに言ってんだよ。今日はタカさんちに皆で行くんじゃん。」

タカさんち・・。
そういえば、そうだった。
何で僕は今まで忘れてたんだろう。

今日は久しぶりに中等部のメンバーで集まることになっていた。
あの全国大会を勝ち抜いたレギュラーで、今は修行に励んでいるタカさんのお寿司をよばれに行くのだ。

「そうか、で、何で集まるんだったっけ?」
「はぁ〜???どうしちゃったの不二?留学先からさ手塚が帰ってくるんじゃん。だから皆で集まろうって・・・どったの?」

僕は英二の言葉に硬直した。
今、何て・・?確かに手塚って言ったよね?

「手塚・・って?なんで英二が手塚を知ってんの?」
「不二ぃ〜〜〜!大丈夫か〜。俺達の青学の柱じゃないかぁぁぁ〜。」

英二が頭を抱えておろおろしている。
でも僕は思考が全く追いつかない。
何故?手塚とは異次元の空間にいたはずだ。
確かに僕の世界にも彼の世界にも英二はいたけど、僕と英二の間に手塚は存在しなかった・・・はず?あれ?

何、これ?手塚との記憶が蘇る。
鏡を通して話していた君ではない。
一緒に戦っている。
完璧といわれた君のテニス。
でも関東大会の初戦、氷帝との試合で肩を壊し、九州へ治療へ出た。
その間僕らは君なしでなんとか勝ち抜き、全国の切符を手にする。
そして壊した肩を治して全国大会に戻ってきた―――?
そして見事、優勝に導い・・・・た?

何・・・これは僕が経験した記憶とは・・・違う?いや、違わない。
確かに手塚はいた。
僕らは一緒に戦って全国で頂点に立ったんだ。

「ごめん・・英二。今の、冗談だから・・・。悪いけどちょっと先に行っててくれる?」
「もう、びっくりさせんなよなー。」

プッと頬を膨らませ文句を言いながらも「遅れんなよー」と笑顔で手を振る英二。
僕も手を振りながら、頭はすでに別の場所にあった。


もしかして、信じられないけど、でも―――


カサッ
誰かが何かを踏んだ微かな音が聞こえる。
振り返ると・・・


「あ・・・・、やっぱ・・り、て・・づか・・。」
「ただいま。」

ちょっぴり大人っぽくなった君はそう言って目を細める。だけど限りなく優しい眼差しはあの頃のまま―――

「手塚っ!!」

僕は君の胸に迷うことなく思いっきり飛び込んだ。


信じられない、でも―――繋がった。
僕らの世界が今、繋がったんだ。










僕達はテニスコート脇の芝生に二人座り込んでいた。

「どうしてこんなことが起きたんだろ?」
「俺にも分からない。ただ少しずつ新しい記憶が俺の中に浮かびだした。」
「新しい記憶?」
「ああ、鏡の中ではなくお前という実態が確かに俺と一緒にいたという、そんな記憶だ。」

僕と同じだ。
何故そんなことになったんだろう。
もしかしてさっきの・・・

このルアー?


「お前が持っていたのか?」
「うん。最後の日、何もかも元に戻った後、僕は何故かこれを握っていた。それからずっと僕の宝物だったんだ。」
「そうか。」
「さっきね、これに夕焼けを映してたんだ。そしたら不思議な光が降り注いで・・。」

そこまで言って僕は口を閉じた。
だって結局分からないんだもの。
君とあんな出逢いをしたことだって、未だに何故なのか分からない。
でもありえない現実が、本来の形に戻った。
きっと神様がちょっと悪戯をしたんだ。
もしかして神様もお母さんに怒られたのかもしれない。
そして本来あるべき場所に僕達を返してくれたんだ。

僕は手塚の近くで微笑む。
何も通さず僕の目は本物の君を見てるんだ。
こんなに近くで見るのは2度目のはずなのに、あの別れの日初めて触れた以来なのに、
記憶の中では僕達はずっと寄り添ってきた。

突然、手塚が僕の膝にまるで項垂れるように倒れこんできた。

「手塚・・?」

僕の腰に手を回して顔も上げず、しがみ付くように、甘えるように。
僕は手塚の髪を手櫛で何度も何度も梳いた。
あの日から少し後悔してたことがある。
僕は君を守りたいと思ったのに、最後の瞬間泣きじゃくるだけで、何度も我侭を言った。
君も本当はこんな風に僕に抱きつきたかったのかもしれない。
僕に甘えたかったのかもしれない。


「いいよ、手塚。ずっとこうしてあげる。君が望むならいつでも僕の膝貸してあげるよ。」
「これはもともと俺のものだ。」
「なっ・・!」

何を聞き分けない子供みたいなこと・・・。
でも―――くすくす

僕の膝枕に寝転ぶ君がなんだか見た目よりずっと幼く見えて、これからもこうして君を守れる僕でありたいと嬉しくもあった。



「タカさんちに行かなきゃ!皆お待ちかねだよ。僕はともかく君は今日主役なんだから。」
「主役・・?」
「だって誕生日でしょう?一緒にお祝いしようって張り切って用意してるんだから。」

いつの間に用意なんてしてたことになったのか。
不思議な感覚だったけど、確かに僕も作ったんだ。

『プロデビュー&誕生日おめでとう!!』ってボードを、僕ら仲間で!!

「そうか。ではあれで行こう。」
手塚が指差したのは一台の自転車。

「自転車!乗ってきたの?」
「いや、鍵が付いてたので借りてきた。」
「そう。・・・ってそれ泥棒じゃない!・・・桃城って書いてあるよ・・?」
「まったくあいつは!無用心にもほどがある!」
「ねぇ、それ怒れないって・・・。」


でもまあ、いいか。桃には後で二人で謝ろう。

「ほら、早くしろ。太陽が沈んでしまったら、夕焼けどころか真っ暗だ。」
「う・・ん、そうだけど、何で君が後ろに乗るの?」
「今日は俺の誕生日だ。」
「そうだけど―――」

手塚ってこんな奴だったのか。
ちょっぴり想像と違ったり・・・?


「ほら、ぶつぶつ言ってないで出発だ!!」
「そんなぁ〜〜」







君と見たあの小さな夕焼けは、今僕達の目の前で大きく果てしなく広がっている。
必死になってペダルを回す僕と偉そうにどっかり座っている君。

それでもこうして自転車に2人乗りできるのは僕達が近くにいるからだ。
手を伸ばせばすぐ届く距離―――そんな幸せに僕は感謝している。

君と出逢えたことに、

君と過ごせるこれからに、

僕達の未来にありったけの感謝を込めて―――


HAPPY BIRTHDAY!


静まり返ったテニスコートから見える夕焼けに向かって僕達は今走り出した。





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