紛らわしい出だしですが塚不二です。


with you


「おい、起きろよ」

都内の高級ホテルの一室、聞きなれた声が夢境から引き戻そうとする。

「・・ぅん・・な・に?・・」
「何じゃねぇ。早くしろよ。」


苛立った声色を不二の耳がぼんやり捕らえた。

「う・・ん。もう朝なんだ。・・え?」」

徐々に明確になっていく視界に映るのはすっかり帰り支度を整えた跡部景吾の姿だった。
その瞬間不二の思考は一気に現実に還る。

「ちょっと、何制服とか着てるわけ?」
「何って、何時だと思ってんだよ。遅刻するだろーが。」
「え?学校行くの?」
「当たり前だろ。寝ぼけてねぇでさっさと用意しろよ。」
「でも、今日は・・ずっと一緒にいるんじゃ・・」

不二の言葉を跡部は戸惑う事なく遮ぎった。

「何言ってやがる。今日は日曜じゃねぇんだよ。」
「だって、僕たち昨日・・・」

付き合い始めて1年近くなるが、年齢的にまだ早いと拒み続けていた不二がやっとの思いで決心し、昨夜二人は結ばれた.
拒んでいたものの初体験に情熱的で甘美なものを空想していた不二はセックスの現実にひどく落胆した。股を大きく開脚させられ、物心ついた時から凡そ人目に曝した事もない部位を惜しげもなく見せつけて、指や舌で好きに弄繰り回されたのだ。俗に言う快楽など感じる余裕はなかったし、何よりも羞恥の感が強く行為の間中ひたすら自身の醜態に堪えていた。しかも結合の痛みは尋常なものではなく一種拷問のようであったが、唯一救いは相手が自分の想い人であったことだ。彼と2人だけの空間で抱き合える事はどういう事様であろうと幸せなのだ。
それなのに・・・

「僕、今日は景吾と1日ゆっくりするつもりだったのに。」
「学校サボる訳にはいかねーだろ。いいから早く服着ろよ。」

「・・・・・・何かやっちゃえばもういいって感じ」

剥れて言った不二の台詞に跡部は呆れたと言わんばかりに大きく溜息を吐く。

「お前な・・つまらない事言ってんじゃねーよ。」
「だって景吾が冷たいんじゃない。僕は・・」

・・・シュッ・・・

「もういい。俺は行くぜ。お前これで払っとけ。」

不二がまだ出ようとしないベッドにクレジットカードが投げつけられ

「ちょっ、ちょっと景吾!!」

跡部はその声に振り返りもせずさっさと出て行ってしまった。

「もう、何でこうなるかな・・景吾の馬鹿・・」

取り残された部屋で台詞を吐いてもただの独り言にしかならない現状。不二はたまらない寂寥感に襲われる。
だが、跡部のこの態度は今に始まった事ではなかった。
最近では普通のカップルのように休日に遊園地や映画に行く事もないし、せめてテニスでもと約束をしても面倒になれば平気でドタキャンする。跡部と過ごす殆どの日も彼が好き放題している横でタオルを取れだの、飲み物をもってこいだのいいように翻弄されているだけである。まるで家政婦のようだと感じながらも嫌われたくない一心で彼の思い通りに振舞う習慣が付いていた。


二人の付き合いは昨年、女子テニス部総出で男子の都大会決勝の応援に行ったところを跡部に見初められた事がきっかけである。
その決勝戦で青学が敗れた事もあり、ライバル校の生徒なんてと初めは相手にもしなかったが学校に家にとしつこい位に付きまとわれ、半ば強引とも思われるその行動にとうとう不二が折れたのである。
根負けして付き合いが始まったと言っても過言ではなかったが、何時の間に想いが形勢逆転したのか今では跡部にすっかり心を奪われてしまっている。
とは言え、元は彼のほうから惚れてきたのである。なのにこの仕打ちはどうなのであろう。

「痘痕も靨とはこのことか・・・」
苦笑を漏らしつつ不二はシャワールームへ向かった。





結局学校へ行った不二は今朝のむしゃくしゃした気分を追い払おうとしっかり部活にも出ていた。
女子相手だと今ひとつ本気を出せない不二は練習相手を求めて男子のコートへ入っていく。

「ねぇ手塚、ちょっと相手して欲しいんだけど・・」
「構わないが、珍しいな。」
「ちょっとね。無心になって打ち合いたい気分なんだ。」
「・・・・・・いいだろう。Aコートにいこう。」

着ていたジャージをベンチに引っ掛けてAコートに入った不二に男子達の目が奪われる。
容姿に恵まれた不二は日頃から青学の男子生徒の人気を一身に集めている存在だ。
不二がスコート姿になるのは試合形式でゲームをする時だけだった。何処から聞きつけるのか、そういう時はコートの周りは一方ならないギャラリーで埋め尽くされる。その不二がいきなり手塚との打ち合いにすらりとした細い足を曝したものだから当然の如く注目の的になった。

「やっぱ、可愛いよな〜」
「あの足見ろよ。殆ど犯罪だぜ。」
「触ってみて〜。」
「おい、下劣な事いうなよ。不二のイメージ壊れるっしょ。」
「でもさ、不二でも男となにするのかなあ・・」
「天使のようなフジコちゃんに嫌らしい想像すんなよ。」
「そうそう。あの不二に限って・・」

そんな台詞が不二の耳にもチラホラ入ってくる。男子達の勝手な想像がますます不二を苛付かせた。

「いくよ、手塚!!」自分の怒気を渾身の力に変えてサーブを放つ不二。

手塚は何時になく感情が露になっている不二の球筋に不審を抱きながらも丁寧に返球し続けた。





××××××××





部活終了後着替えをさっさと済ませ、不二は男子の部室へ向かった。
遠慮もなく堂々とドアを開け中に入る。

「ねぇ、手塚は?」

同じクラスで仲のいい菊丸に声を掛けた。

「うわっ!!何で不二がいるの?」

菊丸は慌てて脱いだユニフォームで胸を隠す。

「そんなの隠さなくったって英二の裸になんか興味ないよ。それより手塚は?」

悪びれる様子もなくさらっとそんな台詞を吐く不二に

「なんかって言い方、ないじゃん!それにここで着替えてるの俺だけじゃないっしょ!!」

菊丸に言われて改めて周りを見渡すと着替え途中の男子部員たちが一斉に自分似注目している事に気が付いた。

「あ・・・ははは、ごめんごめん。気にしないでどうぞ着替えてくださーい。」

分かっているのかいないのか・・・そんな不二の態度を仏頂面が制した。

「着替えてくださーいじゃないだろう。お前が外に出るべきだ。」
「あ、手塚・・あのね・・」
「とにかく外に出ろ!話ならそっちで聞く。」
「へ〜いへい。相変わらずごちごちだね。」

そんな台詞に手塚は短い溜息を漏らし、不二を外へ引っ張り出した。





不二の手塚への話とは単に今日のお礼にお茶でもご馳走するという事だった。

「お礼をしてもらうような事ではないが、偶にはいいかもしれないな。」
「本当?じゃあ決まり!」

「なになに?どっか行くの〜?」

帰り支度を整えた菊丸たちが二人の間に割って入ってきた。

「え、うん。今日打ち合い付き合ってくれたお礼になんか食べにいこかって誘ってたの。」
「いいじゃん、いいじゃん。みんなで行こうぜ!なあ桃ちん?」
「そうっすね。俺もう腹ペコで・・・」
「マックがいいなあ。俺。今月出た新製品まだ試してないんだよねー。」

勝手に盛り上がる菊丸たち、何となく手塚と二人で行きたいような気分だったのだが断る理由もなく・・。

(ま、いいか・・・)
「・・・言っとくけど、君たちは自腹だよ。」

「え〜っ!!それって冷たくない?俺たちとっても仲良しだよね?」
「それとこれとは関係ない。英二に何もしてもらってないもん。」
「だったらぁ、さっき俺の着替え見たお礼ってのは?」
「見ていただいて有難うの間違いじゃないの?」
「あーーーそれって傷ついた!男の面子まる潰れ〜。」
「まあまあ、英二先輩。皆でたかっちゃ不二先輩可哀想っすよ。ここは可愛い後輩にだけって事で。」
「君たちねぇ・・・」

何だかんだと楽しそうに会話する様子を暫く黙って見ていた手塚だったが此処にきて口を開いた。

「悪いが、今回は遠慮してもらえないか。」
「何でさ〜?あ〜もしかしてせっかく不二とデートなのに!!とか思っちゃったわけ?」

手塚の眉間に深い縦皺が2本刻まれる。

「そうじゃない。ちょうど不二に話があったんだ。」
「話って何だよ。俺達がいちゃ出来ない話?」
「落ち着いて話がしたいだけだ。」
「え?まさか・・・告っちゃったりするつもりだった?」
「き・く・ま・る。」

如何にも呆れた声で強調するようにはっきり読み上げられた名前に逸早く反応した桃城が菊丸を諭した。

「英二先輩、今日は俺達だけで行きましょうよ。」
「え〜でもにゃ〜・・・・」
此処にきて尚、反論する菊丸だったが、桃城の目配せで手塚の顔を見た途端、

「そだね。今日は俺達だけで行くか。おチビも誘っちゃお〜。」いともあっさり引き下がった。

「ごめんね。英二、桃。今度マック奢るからさ・・」
「すまないな。」
「いいって、いいって、気にすんなって!行こうぜ、桃ちん。じゃあな!」

菊丸は一見快く笑顔で退いたが、その実手塚の険しい表情から這々の体で逃げ出したのである。


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